第35話 衝撃の失踪の真相!
セルスナ・ラーグが誰かと話している。
もう夜中の二時で外は暗く、相手はよく見えない。
噴水を照らしているはずの生活魔術も、この時間はお役御免らしい。
「信じられないな、そんな話。あの金色の瞳が魔眼で、ベルベッチアが魔族の血を継いでいるだなんて! それに銀色の瞳は聖眼? その聖眼とやらは一体誰から引き継いだんだよ?」
「わかりませんよ、そんなことは。でも、あの子はいずれは魔王様の新しい器になるはずだったのですがね、まさか魔眼だけでなく、聖眼まで携えてこの世に生まれてくるとは……。それでも時が経てば、魔眼の影響で、あれは消えてしまうだろうと思っていたのですが、当てが外れました。あの瞳がある限り、あの子は魔王様の新しい器にはなれない。……そこで、貴方に白羽の矢が立ったというわけです」
「オレに?」
「そうです。貴方があの子の代わりに魔王様の新たな器となるのです! 大丈夫ですよ、今すぐというわけではありませんから。貴方にはまず丸四年牢獄でたった一人で過ごしてもらいます。そこで、人間の世界でついた穢れをきれいに落としてから、魔王様の器になっていただきます!」
「オレが魔王の器に? それもあんたのボスの闇属性の幻の魔王の……。そして、そのためには丸四年牢獄で一人で暮らして人間の世界でついた穢れをきれいにしなくちゃいけない? 随分と勝手な話だな。……じゃあ、オレが魔王の器になるくらいならここで死ぬと言って本当に死んじまったらどうするんだい?」
「……その時は、あの子に一度死んでもらいます。そして、聖眼をくり貫き……純粋な魔族として復活させ、魔王様の器にいたします!」
「はははっ! さすがは幻の魔王、自分の息子にも容赦ないな!」
「……なぜ、それを?」
「やっぱりそうか!」
「かまをかけたのですか?」
「すまないね」
「フッ、でもこれでわかったでしょう? あの子を救う義理なんて貴方にはないということが! わかったら、その貧相な剣をわたしに向けるのはやめくれませんか?」
「どうしてそうなるんだ? ベルベの父親が歴史上最も多くの人間を虐殺し、オレ達人間に一番恨まれている闇属性の幻の魔王だからか? ……そんなの関係ないね! ベルベはオレのかわいい弟だ! 誰が父親であろうと! ……仕方ないね。やっぱ、この事態を解決するには、アンタを倒すしかないようだ!」
「人間の子供 風情に、魔王様の十指のひとゆびに数えられるこのメファイロが倒せるものですか!」
「わからないぜ! オレはこう見えて剣術の天才らしいからな!」
◆
朝、いきなり筆頭執事のエドワー・ヤースが部屋に飛び込んできて、俺はこう言って叩き起こされた。
「べルベ坊っちゃまっ! お起きくださいませ! セルスナ坊っちゃまが――」
聞けば、あの噴水の近くにセルスナ・ラーグのものと思われる血がべっとり付いたセルリアンブルーの布の切れ端が落ちていたのだそうだ。
失踪の日が早まったのか?
本当なら、セルスナ・ラーグが失踪するのは明日のはずなのだ。
「……父様はなんと言っていた?」
「侯爵様は、今回のこともミーゼンツ侯爵家の者の仕業だと考えておられるようです」
俺はベッドから下りて、筆頭執事のエドワー・ヤースの手から、その血がべっとり付いたセルリアンブルーの布の切れ端を奪い取った。
「べルベ坊っちゃまっ!」
「黙っていろ! 集中したいから!」
きっとこれはセルスナ・ラーグがわざと落としていったのだろう。
俺は金色の魔眼を閉じて、銀色の聖眼だけでその唯一の手がかりであるセルリアン・ブルーの布の切れ端を凝視した。
すると、すぐに失踪直前のセルスナ・ラーグの様子が、鮮明な映像と音声で俺の頭の中で再生されていった。
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!




