第32話 惑いの紫の草原での実践訓練!
「お願いします、セルスナ兄さん! 俺の剣術の師匠になってください!」
俺がそう言うと、セルスナ・ラーグは満面の笑みを浮かべてこう返してくれたのである。
「よし! じゃあ、食事を済ませたらすぐに惑いの紫の草原に行こう! まずは実戦訓練だ!」
◇
惑いの紫の草原に来るのは、俺にとっては初めての魔物である赤黒い体のゴブリンを目撃したあの日以来だった。
「前に来た時は、3時間近く粘ったのに1体の魔物も現れなかったんですよ。それでさらに粘ったらやっと赤黒い体のゴブリンが現れて──」
「倒したのか? その赤ゴブリンを?」
「いえ、闇長剣を出現させたら逃げられちゃいました」
「……なんだよ! 最悪じゃないか!」
「そう! 最悪だったんですよ! せっかくいっぱい粘ってやっと現れたっていうのに逃げやがって! ほんと最悪ですよ、あのゴブリンは!」
「いや、最悪なのはお前だよ、ベルベ!」
「どうしてですか?」
「どうしてって、赤ゴブリンといえば全魔物の中でも最弱の部類に入る魔物なんだぞ! そんな魔物に自分の強さを悟られるなんて冒険者だったら即失格、パーティー追放だ!」
「パーティー追放?」
「そうだよ! 冒険者ってのは討伐の依頼を受けた魔物を倒して報酬を貰ったり、魔物が落としたドロップアイテムを金に換えたりして生活してるんだ! それなのに戦う前から魔物に逃げられたらおまんまが食べられないじゃないか! まったく、そんなこともわからないから貴族出身の冒険者は他のやつらに舐められるんだよ!」
確かに俺はサーザント英雄学園を卒業したら冒険者になるつもり(それが原作ゲーム『サーザント英雄伝』の第2章なのだ!)だから、魔物に逃げられてしまうのは致命的な欠点なのかもしれない。
「……じゃあ、どうすれば?」
「どうせ赤ゴブリンの前で、ドヤ顔で闇長剣を出現させたりしたんだろう? そうじゃなくて、最初から出しておくとかしとかなきゃ駄目なんだよ! それか、ああ、これはつまらない剣ですからっていうような自信なさげな表情で出すとかさ。……ああ、もう面倒くさいからしばらくは闇長剣出すの禁止な!」
「ええっ!」
「ほら、俺が持ってきた決闘場で使うこのなんの変哲もない長剣を貸してやるから、これで魔物と戦ってみろ!」
「でも、それじゃあ、セルスナ兄さんの武器は?」
「オレはいいんだよ。戦わないから! おっ! そんなことを言ってたら、赤ゴブリンが現れたぞ! ベルベ! リベンジだ! リベンジ!」
余裕綽々の表情で腕を組んでセルスナ・ラーグが俺にそう指示してくるので、俺は仕方なくそのなんの変哲もない長剣を受け取り、その赤ゴブリンに向かって構えたのだった。
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!