第31話 セルスナ・ラーグは憧れの兄②
「……セルスナ兄さん、俺に剣術を教えてくれませんか?」
今以上に親密になれば、あの謎の失踪のきっかけに事前に気づいて、この兄を救えるかもしれない。
ああ、そうだった!
このセルスナ・ラーグの謎の失踪も後々は俺、ベルベッチア・ラーグの仕業ということにされてしまうのだ!
一人の兄を殺したのだから、当然別の兄の失踪にも関与していたのだろうという無茶苦茶な論法で!
やはり、身内の死は俺にとって破滅フラグである可能性が高い。
だったら、やはり将来の自分のためにもこれからの数日間は、できる限りのこの兄の側にいる必要があるだろう。
「グラハム兄様! シュリップ兄さん! あのノア皇子に認められて、ついにベルベは本気を出すようですよ! あの怠け者のベルベッチアが!」
そう話し掛けられても、二人の兄の反応は鈍かった。
おそらくはグラハム・ラーグはまだノア皇子との決闘のことを気にしていて、シュリップ・ラーグはついさっき弟に言い負かされたことで頭がいっぱいだったのだろう。
「本気だなんて……そんなんじゃないですよ。ただ次、皇子と剣を交える時は闇属性魔術を使わずに勝ってみたいんです! 俺達は同い年ですからね、剣術でも負けたくはない!」
別にシュリップ・ラーグに言われたからではなく、同い年の女の子に純粋な剣術で勝てないのはあまりに情けなすぎると思ったのだ。
それに……できることなら、彼女にもっと認めれたい。
というより、推しキャラをがっかりさせたくないのだ!
「はははは! それを本気って言うんだよ、ベルベッチア! なんだ? 皇子、皇子ってまるでノア皇子に恋しちまったみたいじゃないか! ベルベ、お前にそんな趣味があるとは思わなかったぞ!」
本当にこの兄は鋭い。
もしかしたらこの鋭さで誰かの触れてはならない秘密に触れてしまって消されたのだろうか。
ちらりと、女家庭教師、アナシア・ダッシェンウルフ(新人メイド、ローズ・ローベンツ)の方を見ると、わずかに嫉妬の感情が混じったような膨れっ面をしている。
それで、もう一人の推しキャラにどう言い訳をしようかと考えていると、セルスナ・ラーグが俺にこう言ったのである。
「よし! ベルベッチア、オレがお前の剣術の師匠になってやろう! ……たとえ、オレがいなくなっても泣かなくていいようにたっぷり鍛えてやるよ!」
オレかいなくなっても?
随分、意味深な台詞だな。
まるで自分の失踪を予告しているみたいじゃないか!
セルスナ・ラーグは少なくとも俺にとってはこれ以上ないほど魅力的な人間なのに、原作ゲームでは本編に一切登場しない文字だけの男だった。
公式サイトや攻略本には、ラーグ侯爵家三男で、ベルベッチアが唯一尊敬し懐いていた剣術の天才セルスナ・ラーグは、ラーグ侯爵夫人の死のわずか数日後に謎の失踪を遂げる、としか記されていない。
俺はそれが不憫でならなかった。
それに純粋に俺はこの人の将来を見てみたい。
だから、俺はこう返事をしたのだ。
「お願いします、セルスナ兄さん! 俺の剣術の師匠になってください!」
すると、セルスナ・ラーグは満面の笑みを浮かべてこう言ったのである。
「よし! じゃあ、食事を済ませたらすぐに惑いの紫の草原に行こう! まずは実戦訓練だ!」
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ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!




