第14話 驚きの黒幕!
原作ゲーム『サーザント英雄伝』では、女家庭教師アナシア・ダッシェンウルフをこの城に差し向けた黒幕の名は明らかにされていなかった。
だから、アナシア・ダッシェンウルフからその名前を聞いた時はさすがに驚いた。
「……ミーゼンツ侯爵家 当主、カッサム・ミーゼンツ侯爵の命? それは本当か?」
念のため銀色の聖眼で確かめてみたのだが、答えは同じだった。
カッサム・ミーゼンツ侯爵と言えば、ハジャルツ帝国の皇帝ハジャルツ2世の右腕と呼ばれている筆頭参謀官だ。
そして、サーザント王国とハジャルツ帝国との国境で日夜睨み合っているのが、俺たちラーグ侯爵家とそのミーゼンツ侯爵家なのである。
てっきり同じサーザント王国の敵対貴族か何かの差し金だと思っていたのだが、もっとずっと厄介な話だった。
だが、原作ゲーム『サーザント英雄伝』では世界に8体いるとされている魔王(軍)との戦いがメインで、サーザント王国とハジャルツ帝国の戦いは描かれていなかったはずだ。
「……もし母の暗殺が成功していたら大事になっていたぞ! ハジャルツ帝国はサーザント王国と戦争がしたいのか?」
俺が聖眼を使わずに(まだ魔力量が少ないのであまり連続して使うことができないのだ)問うと、アナシア・ダッシェンウルフはこう答えた。
「いえ、そうではありません。ただベルベッチア様も知っての通り、ミーゼンツ侯爵家とラーグ侯爵家には昔から浅からぬ因縁があって、100年前の戦争では当時のミーゼンツ侯爵家の当主がラーグ侯爵家の者によって殺されています」
「その100年前の恨みを今日俺の母を殺すことで晴らそうとしたというのか?」
「……はい」
100年前の恨み?
にわかには信じがたい話だ。
少し休憩したら、また聖眼で同じ質問をしなければいけないだろうが、答えは同じかもしれない。
きっと本当のことをこの女は知らされていないのだ。
少なくとも、俺を真剣に見つめるその燃えるように紅い瞳の輝きに嘘はないように思われた。
そんなことを考えていた俺に、アナシア・ダッシェンウルフはこう提案してきたのだ。
「この暗殺が失敗し、わたくしが寝返ったとむこうが知ればそれこそ大事になります。……ですので、アナシア・ダッシェンウルフは自決したことにして、これからはわたくしは名を変え、変身魔術で姿も変えてベルベッチア様に生涯尽くさせていただきます。……ベルベッチア様! わたくしに新しい名をお与えください!」
「変身魔術で四六時中、姿を変えると言うのか? そんなことが本当に可能なのか? 半日も経たないうちに魔力が尽きてしまうだろうに!」
「大丈夫でございます! わたくしは幼い頃から魔力の総量が人よりかなり多い特異体質だったのでご心配には及びません!」
アナシア・ダッシェンウルフがそう答えた直後だった。
俺の手にいきなり手紙のようなものがなんの前踏まれもなく現れたのは!
「えっ? なんだっ? これはっ?」
俺が思わず大きな声を出してしまうと、アナシア・ダッシェンウルフがなんでもないことのようにこう言ったのだった。
「どうされたのですか? そんなにびっくりなされて。それはただの魔術書簡でございますよ、ベルベッチア様」
魔術書簡?
ああ、本編の第一部である剣術と魔術の腕を競い合い、時には恋愛をする青春パート、学園編(第二部は世界中を旅して8体の魔王たちと生死を賭けて対決するシリアスパート、冒険者編)で恋仲となった主人公とヒロインが頻繁にやり取りしていた魔術で一瞬で相手の元に届くというあの書簡か!
その存在を知ってはいても、いきなり手元に現れるとびっくりするもんだな。
そんなことを思いながら、俺がその書簡の差出人をこっそり確認しようとすると、アナシア・ダッシェンウルフがこう言ってきたのだ。
「大丈夫ですよ、個人に送られてきた魔術書簡はその受け取り手にしかその文字は見えないようになっていますから!」
そうだった!
俺は忘れていたことが恥ずかしくて、つい声を荒げてしまった。
「そんなことは言われなくてもわかっている! それでも重要な書簡かもしれないから集中して読みたいんだ。だから、少しのあいだ外で待っていてくれ!」
それで、アナシア・ダッシェンウルフが部屋から出ていってから、俺はその差出人の名前を確認してみた。
──ウルスナ・ラーグ。
それは、若干12歳でこの家を出て冒険者として世界をソロで旅している超型破りな俺、ベルベッチア・ラーグの唯一の姉の名前だった。
第2章も続けて読んでくださりありがとうございます!
感想、評価、ブクマを付けてくださった方々本当にありがとうございます
m(_ _)m
ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!