第10話 10人目の最後の祝福者=隠れ主人公?
俺、ベルベッチア・ラーグが生まれた夜7時半になると全く予想外のことが起こったのである。
「おおっ!」
という、参加者の誰かの驚きの声に反応して、大ホールの天井を見上げてみると、なんと煌々と全身が光り輝いた運命の女神がすでにその姿を現していたのだ。
どうして主人公でもない悪役貴族の俺のところに現れるんだ?
その運命の女神のあまりの美しさに、1000人のパーティーの参加者は全員息を飲んで静まり返っていた。
『ベルベッチア・ラーグ! 10歳となったそなたを祝福しに来ました! (そなたの今後の人生は……おおっ! これはなかなかエグい! ……でも)頑張るのですよ! ファイト!』
そう言うと、運命の女神はあっさりと姿を消してしまった。
なかなかエグい?
そんなことを運命の女神が言ってもいいのか?
ファイトって軽すぎだろ、さすがに!
俺がそんなふうに思って少し憤慨していると、参加者の誰かがこう叫んだのだ。
「ラーグ侯爵家からついに今年最後の10人目の祝福者が出たぞっ! 素晴らしいっ! 全員で拍手いたしましょう!」
その参加者の号令で会場は万雷の拍手に包まれた。
どうやら、カッコ内の言葉はみんなには聞こえていなかったみたいだ。
「ミンゼー伯爵家は愚かな選択をしましたねぇ」
「没落するのはラーグ侯爵家ではなくミンゼー伯爵家の方でしたなぁ」
さっき話してた奴らが舌の根も乾かぬうちにそんなことを言ってやがる!
手のひら返しとはこのことだな!
あんなに陰口を言っていた使用人達も満面の笑みで拍手してやがる!
あの時、言っていた陰口を屈辱を忘れないために一言一句全部文字起こししておいたやつ(話者の名前つき)をそっと後で両親に渡しておこう。
だって、あんた達このラーグ家を見捨てようとしてたもんな!
まあ、クビにするかしないかは俺が決められることではないけど!
それから、幼なじみのハーランド!
どんな顔をしてるんだろうな?
くっ!
なんだよ!
もう自分は祝福者になれないことが確定したってのに、まだ涼しい顔をしてやがる!
こいつ、まさかマジもんのいい人なのか?
「ベルベッチア君! よかったね! 最後の祝福者に選ばれて! 僕も幼なじみとしてうれしいよ!」
マジか?
いや、でも悪役貴族の俺が最後の祝福者になっちゃったことで、こいつは主人公から脱落したってことなのか?
なんかそう考えるとちょっと申し訳ないような……。
しかし、それでも俺の口から出てきたのはこんなクソみたいな台詞だった。
「じゃあ、最後の祝福者に選ばれた俺が、お前のことをボディーガードとして雇ってやろうか?」
それに対して、ハーランドはこう言ったのだった。
「うん! ありがとう! ……でも、返事はちょっと待ってくれる? じっくり考えてから返事をさせてもらうよ!」
マジかよ?
キレてもいいところだぞ、ここは!
ああ、なんかこいつと話していると、本当に悪役貴族になってしまいそうだ。
「……そうか。じゃあ、よい返事を待っているぞ!」
俺はそう言ってハーランドから目線を切って、両親の方を見た。
もちろん両親は2人ともめちゃくちゃ喜んでいる。
これでラーグ侯爵家の次期当主に一歩近づいたか?
それはどうかわからなかったが、とにかく両親はたくさんの参加者(陰口を言ってたやつも含む)に取り囲まれて忙しそうだった。
しかし、その盛り上がっているパーティー会場を俺はそっと抜け出したのだった。
それは俺が事前に計画していた行動だった。
そういうわけで、俺は、熱気むんむんのパーティー会場から脱出して、生活魔術でライトアップされた噴水の前で久しぶりの外の空気を浴びなから佇んでいた。
そして、俺は気がつくとこう呟いていたのだった。
「ステータス・オープン」
【ステータス◆ベルベッチア・ラーグ】
<プレイヤーレベル1(前回レベル1)>
基本体力:31/31 (前回数値21)
剣術技量:15(15)
胆力:30(20)
運:10(5)
魔力総量:90/92(92)
火属性魔術:ランクF
水属性魔術:ランクF
氷属性魔術:ランクF
雷属性魔術:ランクF
風属性魔術:ランクF
地属性魔術:ランクF
樹属性魔術:ランクF
闇属性魔術:ランクA
光属性魔術(new!):ランクD
おっ!
体力と胆力と運の数値が上がってる!
それに体力が満タンになってるぞ!
これは明らかに運命の女神の祝福のおかげだよな?
えっ?
光属性魔術がランクD!
やっぱり運命の女神に祝福されると光属性魔術が使えるようになるのか!
これで主人公とヒロインしか原作では使えなかった回復魔術が使えるようになったってことか!
よし!
これなら残りの主人公達とも互角以上にやり合えるかもしれない!
っていうか、光属性魔術まで使えるようになったってことは、あの都市伝説は案外本当だったのかもしれないな。
──ベルベッチア・ラーグ隠れ主人公説!
実はベルベッチア・ラーグ主人公ルートいうのが存在して、このルートでしか倒せない魔王がいるため、どうにかしてこのベルベッチア主人公ルートに入らないとこのゲームは永遠に完全クリアできないという都市伝説が熱心な原作ゲームファンのスレなんかで真しやかに語られていたのだ。
だが、実際にそのベルベッチア主人公ルートに入れたプレイヤーは皆無!
もしかして、こうやって実際にベルベッチア・ラーグに転生しなきゃ、ベルベッチア主人公ルートには入れない仕様なのか?
もしそうなら、そんなの実際に転生した俺じゃなきゃ絶対気づかないよな。
でも、まさかあのハーランドと入れ替わりで主人公になる仕様だったとは!
……それにしても、ちょっと遅いな!
俺の読みではもうあの女が来てもいいはずなのだが。
「……ベルベお坊っちゃま! 主役のお坊っちゃまにいなくなられては、せっかくのパーティーが盛り下がってしまいます! すぐにお戻りくださいませ!」
ほら、来た!
──ラーグ侯爵夫人殺人事件発生まで、あと52分18秒。
感想、評価、ブクマを付けてくださった方々本当にありがとうございますm(_ _)m
ご期待に添えるように全力で大長編目指して頑張ります!!