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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
9/9

9. メアリーの魔法は特別?



 休み明けの朝。


 お店の扉にかけられていた「closed 」の札をそっと裏返し、「 open 」に変え、店頭におすすめのパンやお菓子のイラストとコメントを書いたイーゼルを出す。

 朝のひんやりとした空気の中、メアリーは店の前に立ち、大きく伸びをした。


「ふぁ~……! 今日からまた営業だね!」

『にゃ~!2日休んだだけなのににゃんだか久しぶりな気がするにゃ!』

『ワタシもです!やっぱりお店が開いていると、わくわくしますね!カフェスペースのお花も新しく変えたのでお客さんの反応が楽しみです♪』


 ノアもビウたんも、嬉しそうにしっぽを揺らしている。


「さぁ、今日も頑張るよー!」


 メアリーはぱんっと手を叩いて気合いを入れ、店の中へと入っていった。






 2週間がたち、アリーたちはすっかりこの街に馴染み、フォレストフルールにも顔なじみのお客さまが増えてきた。


「いらっしゃいませ~! あっ、パン屋のハンスさん! また来てくれたの~?」


 扉が開いた瞬間、メアリーはぱっと顔を輝かせる。


「ふんっ、敵情視察ってやつだ!」


 腕を組み、そっぽを向きながら言うのは、フルフォレストで昔からパン屋を営むハンスさん。


『嘘はよくにゃいにゃ~。この前、メアリーのひまわりメロンパンを食べて、デレデレだったにゃ!』

「うっさいわい!」

「ふふっ、わたし、ハンスさんのバケット大好きですよ!」


 そんなやり取りをしていると、隣から少し不機嫌そうな声がした。


「ハンスさん、そんな大きな声を出しては、ほかのお客さまの迷惑ですよー!」


 トレーに山盛りのパンを乗せ、しっかり者の口調でたしなめるのは、ギルドの人気受付嬢・マリーさん。


 その細い体のどこにそんなに入るのか、と思うほどの大食いで、初めて彼女の食べる姿を見たビウたんが、思わず接客を忘れたほどだった。


『あの時はほんとにびっくりしました。思わず「大丈夫ですか?」と駆け寄ったのですが……まさか「おかわりください!」と言われるとは……。』


「おいおい、マリー。またそんなに食うのか?」


 カラン……と扉のベルが鳴る。


「メアリーさん、うっす! ……って、うわっ!? ほんとに姿変えられたんすね!」


 あきれた声でマリーをたしなめているのは、フルフォレストのギルド長・ガルダさん。そして、その隣には開店初日に完売でお断りしてしまったた冒険者のニルスさんがいた。


 メアリーはにこりと微笑みながら、ガルダさんを見上げる。

 ( この街のギルド長って、もっと穏やかな老人かと思ってたのに……。)


 ガルダさんは、街の風景に似合わぬ、いかつい風貌の持ち主だった。しかし、その見た目に反して、かわいいもの好きという、いかにもなテンプレ要素をお持ちで、すっかりビウたんのファンになってしまったらしい。


『にゃにゃっ、またカモが来たにゃね!』

「こら、ノア!ガルダさんに失礼でしょ!」

「おう、今日もビウたんの接客を堪能しにきたぞ!」


 ニルスさんはというと、メアリーの姿に目を丸くしていた。


 今日のメアリーは、ふわふわとしたチョコレートブラウンの髪を高めのツインテールに結び、ほんのり焼けた小麦色の肌には、ふわっと舞う砂糖菓子のような淡いそばかすが散っていた。


 瞳は、蜂蜜をたっぷり溶かしたゴールデンアンバー。陽の光を受けるたびに、ぱちりと瞬く猫の瞳が、どこか楽しげに輝いている。


 身にまとっているのは、爽やかなミントグリーンのワンピース。胸元には繊細なレースがあしらわれ、クリーム色のフリルが軽やかに揺れる。ふんわりとしたパフスリーブには、そっと寄せられたギャザーが入り、動くたびにふわりと弾むようなシルエットを描いていた。スカートには細かなギャザーが寄せられ、歩くたびに軽やかに舞う。そのたびに、ウエストや袖口に結ばれたレモンイエローのリボンがぴょんと跳ね、つい目で追ってしまう。

 また、雰囲気に合わせて、身長も150cmほどに縮められていた。


「へへんっ! なんてったって色なし魔女ですから!」


 メアリーは得意げに胸を張ると、声色まで変えてキャラになりきる。


「それにしても、よくできてんな~。”色なし”っていうが、顔の造形まで変わってんじゃねぇかよ…。これって、どんくらいの時間もつんだ?」


 ガルスがじろじろとメアリーを観察しながら、腕を組んで首を傾げる。


「細かいことは気にしなーい!」


 メアリーはひらりとスカートを翻し、くるりと一回転。


「んー、でもどのぐらいなんだろう? 長くても2週間くらいで変えちゃうから、試したことないなぁ。あっ、でも魔法を使ってないときはないから、そういう意味では無限かも♪」


「「はあ!??」」


驚愕のガルスとニルス。マリーも目を見開いている。


「……お前、それもう” 変身 ”じゃなくて” 別人 ”じゃねぇか」

「ほら、わたしの魔法って特殊だから、その辺も特殊なんだよ、多分!」

「いや” 多分 ”じゃねぇよ!」


ガルスが頭を抱えた。


 この世界には、いくつもの魔法が存在する。

 五大魔法と呼ばれるのは、習得しやすく一般的な 火・水・風・土・雷 の属性魔法。ノアの風魔法はこれに該当する。

 一方で、個々の資質や才能に依存する特性魔法もある。例えばビウたんの植物魔法は、土や水の属性魔法の派生だが、空間魔法は完全な特性魔法の部類だ。


 メアリーの” 色を変える魔法 ”も特性魔法のひとつ。ただし、メアリーのそれは" 完全に規格外 "だった。


「……いや、ふつー、魔法って時間が経つと魔力が尽きて解除されるっす。なんで無限なんすか?」


ニルスが恐る恐る聞くと、メアリーは「うーん」と少し考え込み――


「……だって、わたし、魔法をかけてるって感覚ないもん!」

「「はあ!!??」」


ガルスとニルスの叫びが重なった。


「ほら、みんなだって息してる時に『よーし、今日も空気吸うぞ!』とか意識しないでしょ? わたしの魔法もそんな感じ!」

「そんな感じじゃないわよ!!!!」


 黙って聞いていたマリーもとうとう我慢できずに突っ込む。


「でもその代わり、他の魔法はからっきしダメだけどね~。」

『メアリーがまたやってるにゃ、やれやれ……。』


ノアは空中に浮かんだままぺたんと座り込み、尻尾をブラシで溶きながら溜息をついた。


『メアリーのことは、そういうものだって思っておけばいいにゃ。深く考えるだけ、メアリーに振り回されて疲れるだけにゃ……』


その呆れたような忠告に、ガルスとニルスは顔を見合わせ――


「…………まぁ、考えるのやめとくか」

「だな」


とても納得はできないが、2人は静かに思考を放棄した。




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