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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
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8. 新発見!お日さまとお月さま


 さぁ、試食をしようという時、ドアが軽く開き、ビウたんがひょこっと顔を出した。


「ただいまです!遅くなりました~っ、」


 ビウたんは湯気を立てたうさぎっぽい耳をぴょこぴょこと動かしながら、湿った毛を少し揺らして入ってきた。

 タオルドライのみなのか毛先がまだほんのり湿っていて、ほんのりと石鹸のいい香りが漂う。しっとりとまとまったモフリー毛が、いつもよりも少しだけ小さく見える。


「おかえり、ビウたん!フラワーベリーはちゃんと取れた?」


 メアリーは振り返り、すこし心配そうに伺う。


『中々取れなくて時間がかかってしまいした…。お手伝いできず、申し訳ないです…。』


 ビウたんはしょんぼりと眉尻を下げる。

 そんなビウたんを励ますようにノアが寄り添い、風魔法でビウたんの毛を乾かし始める。

 温かく心地いい風がフラワーベリーの香りをまとい、ビウたんを柔らかく包み、もふもふとした毛並みを取り戻していく。


『わぁ!ワタシの毛並みが一気にフラワーベリーのいい香りになりました!とても美味しそうな香りです~!ノアさんありがとうございます!』


 幸せそうに目を細め、毛並みを確かめるようにふわふわになった尻尾を抱きしめる。

 その様子に、ノアとメアリーは優しく笑う。


「ビウたん、お腹空いたでしょ?クッキーとジャムの試食ができたの。早速食べてみない?」


 メアリーが問いかけると、ビウたんは少しだけ躊躇いがちに首をかしげる。


『でも…ワタシ、お風呂に入っていてお手伝いしていませんでしたし……。』


 口元は食べたがにもにゅもにょ動いているのに、遠慮がちにそう言うビウたんを見て、メアリーとノアはふっと微笑んだ。


「なに言ってるの! ちゃんと一番大変な皮むきを手伝ってくれたじゃない?」


 そう言って、メアリーはスプーンにすくった赤いフラワーベリージャムを、そっとビウたんの口元に差し出す。


「だから、ビウたんにも味見する権利があるのよ!」


 ビウたんはぱちくりと瞬きをしたあと、おずおずと口を開ける。スプーンに乗ったジャムをちょん、とひとなめすると、甘酸っぱい味がふわりと口いっぱいに広がった。


『……! ん~~! なんて美味しいんでしょう! 口の中で果実の香りがふわっと広がりますね!』


 幸せそうに目を細め、ビウたんはほわほわと頬を緩ませる。

 そんな様子を見て、ノアもクッキーを手に取り、赤いジャムをたっぷりと乗せて頬張った。


『んにゃっ……!! これ、めちゃくちゃ美味しいにゃ! クッキーのサクサク感とジャムのとろ~り感が最高にゃ!』


 ノアは嬉しそうにしっぽを揺らしながら、次のひとくちを口に運ぶ。


「でしょ~? クッキーのバターの風味と、フラワーベリーの甘酸っぱさがちょうどいいバランスになったの!」


 続いてメアリーは、青紫に染まったジャムをスプーンですくい口に含むと、目を見開いた。


「……こっちはまた、全然違う味。」


 赤いジャムがたくさん陽の光を浴びて生き生きと育った甘酸っぱい味なら、青紫のジャムは夜に優しく光る月の光で育ったような優しく包み込むような落ち着いた甘さが広がる。

 ふわりと漂うフローラルな香りのその奥に、ほんのりとビターな余韻があり、どこか幻想的な味わいを作り出していた。


「こっちは……お月さまみたい。」


 メアリーはゆっくりと目を閉じ、味を確かめるように微笑む。


「赤いジャムがぽかぽかした温かいお日さまなら、青紫のジャムは夜の空を照らす優しい月の光って感じ。」


 ビウたんも試してみると、


『なるほど……静かな夜の森で、月の光で開花するお花みたいな味ですね』


 と、ぽわぽわした顔で頷く。


 ノアもひとくち味見して、じんわりと口の中に広がる深みのある甘さに、しっぽをゆらりと揺らした。


『にゃー……これはこれで、なんとも言えにゃい上品な味だにゃ。お茶に合いそうだにゃ。』

「こんなに味の違いが出るなんて、想像できなかったなー。」


 スプーンを口に当てつつ、メアリーは考えを巡らせる。


 ノアがもう一口、青紫のジャムを舐めながら、ふとなにか思いついたように尻尾をぴんと立てる。


『……そういえば、ジャムのお店で青いフラワーベリーのジャムって見たことないにゃ!』

「え?」


 メアリーとビウたんが同時に顔を上げる。


『にゃにゃ、普通のフラワーベリーのジャムは赤い色しか売ってにゃ!でも、こんなに綺麗な青紫のジャムができるなら、もっと知られててもいいはずにゃ!』


 ビウたんもぽわんと目を丸くしながら、


『そうなんですか?…でも、ノアさんがおっしゃるならそうなのかもしれません!』


 と小さな手を合わせる。


「うんうん、皮を剥くと中身が赤いから、それが当たり前だと思われてるのかも……」


 メアリーは青紫のジャムをスプーンですくい、陽の光に透かしてみる。深く澄んだ色がきらめいて、まるで夜空に溶け込んでいきそうな神秘的な輝きを放っていた。


「……もしかして、これって新発見?」


 そう呟いた瞬間、ノアとビウたんがはっとして、興奮したようにしっぽをばふっと膨らませる。


『にゃ、にゃーっ! これはすごいことにゃ!?』

『ワタシたち、もしかしてすごい発見をしてしまったのでは?!』


 3人は顔を見合わせて、まるで秘密の宝物を見つけた子どものように、わくわくと胸を躍らせた。


「ねえねえ、このジャム、ちょうどお茶会の最後にぴったりじゃない?」


 メアリーがにこっと笑うと、ノアもすぐに乗ってくる。


『にゃ、確かに! 最後にこの青紫のジャムが出てきたら、お客さんびっくりするにゃ!』

『まるで、魔女のお茶会の締めくくりに、月の魔法がかかるみたいですね……!』


 ビウたんがうっとりとした声を出しながら、青紫のジャムをそっと見つめる。その姿に、メアリーも満足そうに頷いた。


「うんうん! だったら、最後の一皿はこのジャムを使ったお菓子にして……どんな演出をしようかな?」


 こうして、新発見の「フラワーベリーのお月さまジャム」は、お茶会のサプライズとして特別な役割を担うことになったのだった。


『さっそく最後のデザートの試作するにゃか?』

「ん~。みんなのことを驚かせたいから、もうちょっとアイディア練ってからがいいかな?」


 メアリーの頭の中には、夜空のように美しい青紫のジャムを使った特別なスイーツが広がっていく。


「よし、一先ずは他のスイーツの試作をしていこうかな?あとは明日からの営業の仕込みもしなきゃだし!」

『頑張りましょう!今度こそお手伝いします!』

「ビウたんありがと~。」

『もちろんノアも手伝うにゃ!…だけど、先に夜ごはんにしにゃいかにゃ?クッキー食べたらお腹空いてきたにゃ~!』


 ノアがお腹をさすりながら、時計にちらりと視線を向ける。メアリーもつられて時計を見る。


「もうこんな時間か!そうだね、ご飯食べて一息ついてから頑張りますか!」

『やったにゃー!!ふわとろオムレツが食べたいにゃ!』

「ノア~、オムレツは朝ごはんだよ~!」

『それじゃあオムライスはどうですか?この前のケチャップでのお絵描き楽しかったです!』


 ビウたんの提案に、メアリーとノアが顔を見合わせて目を輝かせる。


「よし、オムライス作るぞーー!」

『『おーー!!』』


 オムライスの材料を準備しながら、メアリーはふと心の中で思う。今日はたくさんの新しいひらめきがたくさん浮かんで、まだまだ知らないことやワクワクすることがいっぱいだな、と。


 厨房からは楽しげな笑い声が響き、オムライスの香りがふわりと広がっていく。あたたかな時間の中で、明日からの営業がますます楽しみになっていた。





☆こぼれ話


お題:オムライスの卵は 薄焼き派 or ふわとろ派?


「やっぱりふわとろ派かな~♪そしてケチャップよりデミグラス派!」

『誰もそこまで聞いてにゃいにゃよ!』

「ごめんごめん、つい(笑)そういうノアは?」

『ノアもやっぱりふわとろ派にゃん!でも今日のスフレオムレツ風オムライスも美味しかったにゃん!!』

『ワタシもふわとろ派でしたが、今日からスフレ派になりそうです!お絵描きもしやすいですし…』

「そんなにお絵描きがたのしかったんだね~。気に入ってくれてうれしいよ~。」


『……っ!? い、いえ! ワタシはただ、技術的に描きやすいと申し上げただけで…決して子供のように喜んでいたわけでは……!!』


ビウたんはプイッとそっぽを向いたものの、しっぽの先がほんのり揺れているのをメアリーとノアはしっかり見ていた。


『……にゃふふっ。』

「ふふっ、また一緒にお絵描きしよ~ね♪」


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