5. いざ、フラワーベリーを求めて
『さぁ、そろそろ収穫するかにゃ~。』
「そうだね!もう我慢出来なそうな人がいるしね…」
メアリーとノアは、鼻息荒くガッツポーズをしているビウたんを見て、苦笑いする。
『早く行きましょう!メアリーさん!ノアさん!!』
メアリーはビウたんを両手のひらで包み、ひょいっと肩に乗せると、フラワーベリーの茂る方へと歩いて行った。
水辺のほとり近く、柔らかな陽光を浴びてキラキラと光るフラワーベリー。
メアリーの腰元くらいまでの低木で、細い軸に枝と葉っぱは扇状に広がり、深い緑の小さな葉が沢山茂っている。そこにビウたんの頭ぼどもあるぷっくりとした艶やかな実がたくさん実っている。
「わっ、思ってたより大きいね!」
『何度みても中々の迫力だにゃ~』
「え、ノア知ってたの!?」
『あれ?言ってにゃか…『メアリーさん、早く取って欲しいです!!』
ぷにぷにとグミのような弾力の表面を触っているメアリーに、待ちきれなくなったビウたんが急かす。持ってきていたハサミをポケットから取り出し、果柄にハサミを当てるも…。
「何これ、硬い!!エリスさんのメモにも"硬い"って書いてあったけど…これは想像以上だわ。」
『メアリーのそのハサミじゃ無理にゃよ。それっ!』
ノアがメアリーの前に割り込み、風魔法で細く鋭いエアカッターを繰り出す。風が鋭くも果柄のみに斬り込みが入り、落ちる前にノアがキャッチする。
『これで完璧だにゃん♪』
『うわ~、ノアさん天才です!』
ビウたんがメアリの肩から、半ば落ちるように駆け降りてノアに近寄る。
『ノアさん、はやく見せてください!!』
ノアも素直にビウたんに実を渡す。
メアリーがノアにフラワーベリーを知ってるのか質問する中、ビウたんはフラワーベリーに夢中。
爪を立ててみたり、ひっくり返してみたり、隙間をのぞいてみたりと色々試す。
『ぷにぷにで柔らかいのに全然皮が剥けないです…。爪が滑る訳でもないし、刺さる感じもしない…。』
興味津々に腕を組み、じっとフラワーベリーを睨みつける。片方の手でとんとんと指先で叩き、鼻を寄せすんすんと匂いを嗅ぐ。
『見た目はこんなに美味しそうなのに、匂いもなし。しかも動物たちが食べてる気配もないです…、これは研究しがいがあります!』
こうなったビウたんは声をかけても反応がないため、ノアが魔法でそっとフラワーベリーの木から遠ざける。
『さっ、メアリー。収穫していくにゃ!!』
「そうだね、私キャッチしていくからノアお願い!」
『任せるにゃ!!』
鋭いエアカッターが果柄を狙い、"シャッ"と風を切る音が響く。それをすかさずメアリーがエプロンで受け止めキャッチしていく。
ハサミでカットできなかったとは思えないほど、ノアの魔法でスパスパとカットされていく。
「ノアが居てくれるから楽に収穫出来てるけど、私がひとりで作業してたらめちゃくちゃ大変だったよね…」
『枝切り用の切れ味バツグンなハサミが必要にゃね。』
「ほんとノアが居てくれて良かったよ~」
なんて事ない会話をしつつ息ぴったりでフラワーベリーを収穫し、カゴいっぱいにツヤツヤのフラワーベリーが詰まる。
「ふぅー。たくさん採れたね!よし、じゃあそろそろ帰ろうかな…」
メアリーとノアがピクニックセットを片付け始める一方で、ビウたんは少し離れた所のフラワーベリーの木を観察していた。木の幹を軽く叩いてみたり、登って見ようとしてつるりと滑り落ちる。
『なるほど、この木事態にも強度があって滑るんですね…、ふむふむ。』
小脇に挟んでいたメモ帳にペンで書き込んでいく。
『むむ…これはなかなかの強敵ですねぇ…。』
2人に見られていないことを良いことに、落ちていた葉っぱを拾い、口に含むビウたん。
それにメアリーとノアが気づく。
「ビウたん、もしかして食べようとしてる?!」
慌てて走り寄ったメアリーが葉っぱを取り上げる。すかさずノアがビウたんの小脇に腕を差し込み、湖の水で口を濯ぐよう促す。
『またお腹壊すにゃよ。』
『違いますよ!ちょっと葉っぱの硬さも気になってしまって、…そう!これは実験です!!』
渋々と口を濯ぐビウたんに呆れた様子のノア。
その様子を見守っていたメアリーが訪ねる。
「あの、一応聞くんだけど…。ビウたん、さっきの”実験”とやらは何の役に立ったの?」
『えっと…葉っぱが思ったより繊維質だったことと、噛みちぎるには相当な顎の力がいることがわかりました!』
『要するに、食べられなかったってことにゃね。』
『うぅ…ノアさん、そこは”研究結果が得られた”って言ってください!』
ぷくーっ。とほっぺを膨らましご立腹な様子のビウたんだが、メアリーはついついその様子が可愛くて親指と人差し指で摘む。ぴふゅっ、と間抜けな音を立てて潰れる。
「ぷふっ、…食べるのはフラワーベリーの実だけにしようね~。』
『メアリーさんまで酷いですぅ。…あぁーー。食べないので、葉っぱだけは数枚、持ち帰らせてください~っ!』
やれやれとした様子でノアが何枚か葉っぱを魔法で千切る。
「今度は食べちゃダメだからねー。」
ビウたんは「分かってますよぉ!」と言いながら、大事そうにその葉っぱを抱え込む。
メアリーとノアは顔を見合わせ、ふっと小さく笑った。
結局、なんだかんだで甘い2人なのであった。
☆
帰り道、カゴいっぱいに詰まったフラワーベリーを狙うビウたんとの攻防を経てようやく家に帰ってきた3人。
はしゃぎ疲れたビウたんはカゴの中でフラワーベリーを抱きしめながらすやすやと夢の中。
『もうしょうがにゃいにゃね~。2人で処理していくにゃ。』
「ビウたんらしいっちゃらしいけどね。」
『さぁ、新作クッキーのために、もう少しだけ頑張るにゃ。』
カゴを厨房の机近くの椅子にそっと置くと、メアリーは袖を捲りながら側の椅子に腰を下ろした。ノアもメアリーの腕の間に収まる形でテーブルに腰掛け、エリスさんにもらったメモを2人で覗き込む。
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メアリーちゃんへ ♪
- フラワーベリーの処理方法 -
1. フラワーベリーを炭酸水に30分浸す。
2. 青い実の部分から皮をむく
3.[注意:この時赤い実にナイフが当たると、実が弾けるので慎重に。]
4. 青い実の皮が剥けると、自然と赤い実の皮が剥け始めるのでひたすら褒める!
5. 剥け終わった時に、喜ぶ。→実も喜んで美味しくなる。
p.s 弾けた果汁はベタベタして、かなりお掃除が大変だから、心して取り組んでね。
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『う~ん。いつ見ても変な実だにゃ…。』
「だよね…。褒めて美味しくなるってほんとファンタジーだよね。あと、果汁が弾けるっていうのと、ベタベタって言うのがね…。」
『……メアリー、これ本当に今からするにゃ?』
「うぅ……。」
メアリーとノアは顔を見合わせ、そっとメモを閉じた。
朝からお互いに動きっぱなしで、お昼にフラワーベリーを収穫して、帰る途中はビウたんとの攻防戦。メアリーは軽く背伸びをし、ノアも深いため息をつく。
『ま、まぁ……明日のことは明日の自分たちに頑張ってもらうにゃ!』
「そうだね、ビウたんも寝ちゃってるしね!私たちもとにかく寝よう。」
2人は大きく伸びをして、明日の戦いに向けて備えることにした。
果たして明日、無事にフラワークッキーを作ることはできるのだろうか。