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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
4/9

4. 穏やかな朝の時間




「ふぁー、よく寝たぁ…。さっ!フラワーベリーを摘みに準備しなきゃ!」


 背伸びしながら目をこすりつつ、起き上がる。ビウたんはまだ枕元ですぴー…すぴー。と夢の中だ。


 ぱぱっと寝巻きを脱いで、魔法でシンデレラ風町娘のスタイルに。鏡の前で、くるっと回って確認すれば厨房へと軽やかな足取りで向かうメアリー。

 ル~ルルルル~♪と鼻歌を口ずさみながら、バスケットを取り出す。


「いいお天気でよかった~!さっ、ピクニックセット作くっちゃお!」


 昨日、売れ残ってしまった食パンを気持ち薄めにカットし蒸し器に掘り込む。その間にレタスを湯通しして、ハムとバターを準備。

 そして昨日の夜、こっそり仕込んでいたクッキー生地を半分取り出すし丸く形を整えてローストしたアーモンドを乗せて、オーブンへ。


「ふふっ、ノアが喜んでくれるかな~?」


 そうこうしているうちに蒸し終わったパンを取り出し、バターを塗ってレタスとハムを挟み、自家製マヨネーズをかける。

 昔、アニメで観たこの作り方が好きでメアリーがよく休みの日に作る定番サンドイッチだった。


 魔法瓶を取り出してコーヒーと紅茶、ジュースを詰めてコップも用意する。ギンガムチェックの布を敷いて、サンドイッチと魔法瓶、クッキーの容器を並べる。あとはクッキーが焼けるのを待つだけだ。


「準備完了~♪♪待ってる間に、クッキーのデザイン考えようかな~?」


 テーブルに丸椅子を引き寄せ、スケッチブックとお気に入りのペンを取り出す。こうやって厨房でのんびり考えごとをするのがメアリーにとっては穏やかな気持ちになれる時間だ。


「むむむむむー…。シンプルにお花の形で中央にジャムがあるクッキーがいいかなぁ…でも特別感ない?フラワーベリーのジャムってそもそも何色なんだろう?赤い実と青い実で味って違うのかなぁ?」


 スケッチブックに色々なお花の形を描いてみる。ひらひらのものや丸いもの、立体的なもの。または花びらの枚数が多いもの、少ないもの…。

 クッキーで作れる・作れないかは考えず、とにかく思いついたものを描いていく。それがメアリー・ルルの独創さを生み出す秘訣なのだ。 


「はっ!もし赤い実と青い実で別々にしても美味しいなら、分けてデザインするのも面白いかも!」


 メアリーの目がきらきらと輝く。

 今思いついたアイディアを元に、お花の形を描いた紙を引き寄せ、色鉛筆で色を乗せていくとさらに夢が広がっていく。


『……ただいまにゃ~ん。あっ、メアリーおはようにゃ!』

「ノア、おかえり~。お散歩楽しかった?」


 ノアはよく朝に運動がてらお散歩に出かけることが多い。今日もご機嫌な様子で帰ってきた。ピクニックセットを用意したことを伝え、朝ごはんいる?と聞く。


『お散歩前に軽くつまんだから大丈夫だにゃ、ありがとにゃ~。でも喉は乾いたからハーブティー入れるけど、メアリーも飲むかにゃ?』

「わぁいっ!ノアのハーブティー好きなんだよね!」


 ノアが入れてくれるお茶はノアのオリジナルブレンドで、その時々で味が違ってとっても美味しいのだ。


『…くんっ、もしかしてメアリークッキー焼いてるにゃ?!』

「もちろん、ノアとの約束だからね~!フラワーベリーのクッキーも焼くけど、それとこれは別だからね!みんなでお昼に一緒に食べよ~」


 オーブンからふんわりと香り出した、甘くて優しい匂いが部屋中に広がる。

 ビウたんが起きてくるまでの間、メアリーとノアはのんびりお茶を飲みながら穏やかな時間を過ごすのであった。






 その後、ビウたんも起きてきて3人で少しのんびりした後、バスケットをビウたんに魔法で預かってもらい出発した。


「さぁ、しゅっぱーーつ!!」


 フルフォレストの街は、一際大きな木を中心に広がっている。

 ツリーハウスのような家々は、整然と並ぶことなく、まるで自然とともに成長したかのようだ。でこぼこと立ち並び、蔦が絡んで緑に包まれている。

 家と家の間には高低差があり、木の根元に沿って階段がつくられていたり、時には板をつなげたような橋がかけられていたりする。

 アスレチックのような街並みは、どこか遊び心と温かみがあり、眺めているだけでも心が踊る。


「やっぱりこの街って歩いてるだけで楽しいな~!そういえば初めてこの街に来た時、ビウたんが迷子になって必死でノアと探したっけ。」

『わわっ、その話はもうやめてくださいよ~。』


 住人たちの手によって大事に時間をかけて丁寧に作られてきたことがわかるこの街では自然と笑みが浮かぶ。

 街を抜けて、野原を越えて、森の入り口でメアリーが木を振り返る。


「こうやってみるとほんと、大きな木だよね~」

『何千年もフルフォレストを見守る木だからにゃね~。1000年に1度、精霊が目覚めて街の人とこっそり一緒に遊ぶんだにゃん。それで選ばれた人だけがあの木の上に登ることができるにゃよ~』


 森といっても住人の行ききが多いのか、踏みしめられてて歩きやすく、わいわいと話しながら歩き進めていく。


『だから木に登ろうと思った時に、なぜか元の場所に戻っちゃったんですね。納得です。…ほんとノアさんって博識ですよね。』

「ビウたんいつの間に…。」


 木の葉の擦れる音、足の裏から伝わる土の感触。葉の隙間からこぼれる柔らかい光に包まれ、新緑の匂いを胸いっぱいに吸い込む。


「フルフォレストに来て大正解だったよね。ほんと心が落ち着く。」

『長い歴史があるし、街の人達も穏やかにゃね。ほんといい所だにゃ~。』

『ノアさんの話を聞いて、精霊とワタシも会いたくなって来ました。ぜひ街の歴史を聞いてみたいです!』


 1時間半ほど歩いたところで木々の間が開けてきて、眩しい光が差し込んできた。足元の感触が徐々に変わり草むらに変わると、風の匂いが湖の湿気を運んできた。


「わぁ…見えてきたね。」


 目の前に広がったのは、澄んだ水が静かに揺れる湖。湖面には青空と白い雲が映り込み、まるで一枚の絵のようだ。ふわりとした風が湖の上を渡る。


『うわぁー!とっても綺麗ですぅ!』

『これがフルフォレストの湖だにゃ。』

「うん、とってもきれいな場所だね。」


 メアリーはふと足を止め、湖のほとりに立って深呼吸をした。水面の向こうに広がる緑の景色、そして目を閉じれば、森の香りと鳥のさえずりが混じり合った穏やかな音が響く。


 ビウたんがバスケットを取り出し、ノアが風魔法を使って木陰のところに布を引いてくつろげる場所を作る。


『お腹すいたにゃー!』

「さっ、ご飯食べよう!この後はお待ちかねの、フラワーベリーの収穫が待ってるぞー!」


 メアリーは元気いっぱいに拳を空へと突き上げた。


『あの奥に見える植物…。あれがフラワーベリーですかね?ちょっと先に見てきても…。』

「こらビウたん!まだご飯食べてないでしょ?そういってちょこっと見るだけですまないんだから。この前のあれ…忘れたとは言わせないぞ~?」

『あぅ…。その節はご迷惑をおかけしました…。』


 今にも駆け出しそうなビウたんをメアリーが呼び止め、素早くノアが尻尾で囲い込み確保する。


『ほら、落ち着いてサンドイッチ食べるにゃメアリーがビウたんようにカラシ抜きで作ってくれてるにゃよ。』

「ノアとビウたんが好きなクッキーもたくさんあるからね!」


 そわそわとフラワーベリーの茂みに目をやりつつもサンドイッチとクッキーを交互に頬張るという器用さを見せる。


『ふぅ…美味しかったですぅ!さっ、じゃあちょっとお先に…』

「ちょっと待った!ビウたん、ちゃんと顔拭いた?」

『もちろんです!』

「クッキー、口の端についてるけど?」

『!!』


 慌ててビウたんは頬のクッキーを手に取るとささっと口に放り込み、恥ずかしそうに尻尾で目を覆った。

 それを見たメアリーとノアはくすくすと笑いながら、改めて湖の景色を眺めた。


 湖を眺めながら食べるランチはやっぱり格別だった。



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