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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
3/9

3. ビウたんの隠れた才能



 フォレストフルールでオープンしてから2週間がたった。


 初めは売り切れがちだったパンも、お昼にもう一度焼くことで品揃えが安定し、お客さんに喜ばれるようになった。

特に「午後でも焼きたてのパンが買える」と評判になり、メアリーたち3人で頑張ってよかったねと話し合っていた。


 その分ノアの負担が増えてしまっていたが、ノアの社交力と、ビウたんの協力により切り抜けられた。


 というのも、ビウたんはノアと違ってお客さんには「ビウっ!」という鳴き声にしか聞こえない。

 また、お店を建設するというビウたんにしか出来ない仕事であり、パン屋の営業には不参加だったのだが、今回はテイクアウトのスペースとカフェスペースで区切ってしまいどうにも手が回らなくなってしまったのだ。

 へとへとになるメアリーとノアにビウたん自ら「ワタシもお手伝いしましょうか?」と申し出てくれたのだ。


 ビウたんにお願いしたのは、商品のおすすめとカフェのオーダー。

 ただ…。ビウたんの接客は、ちょっと小悪魔的だった。


たとえば、2つのパンで悩んでいるお客さんに…


『ビウっ?ビビウ!!』


ビウたんは尻尾立ちし、視線を集めアピールする。


「わっ、えーと…。ビウたん?どうしたの?」

『ビウっ、ビウ?ビビウ~~♡』


 くりっとした瞳で悩んでいるパンを交互に小さな手で指差し、次に両方の手をほっぺたに添え『おいしいんです~♡』と体いっぱいで示すビウたん。


 悩んでいたお客さんと、その様子を見ていた周りのお客さんもビウたんにロックオン。


「「「…両方ください!」」」


 と、まんまと(?)ビウたんの可愛さにやられてしまうのだった。


 また、注文を聞くときは、あらかじめ用意したカードを活用することに。


・ご注文は?

・ホットorアイス?

・温めますか?


 と書かれたカードを見せて、コミュニケーションを取れるようにしたのだが…


 カフェを見回っていたビウたんは、お客さんのグラスが空いているのを発見する。


『ビビウ?』


 お客さんの手をちょこんと触れながら、小首を傾げ、きゅるんとした瞳で見つめる。


「え、あの……♡」


 ビウたんの可愛さにすっかりやられたお客さんは、おかわりだけではなくお持ち帰りも追加してしまう。


『ビビウ~♡』


 そしてお礼とばかりにもふもふ尻尾でするりと手を撫でて、満足げに去っていくビウたん。


 結果、ビウたんファンが急上昇。

 気がつけばビウたんがお店のお手伝いする時間帯の売上が爆増した。


 この光景を、メアリーとノアはたまたまカウンターから目撃していた。メアリーは思わず目を擦る。


『……ねぇ、メアリー』

「うん」

『ビウたんの接客、にゃんか……こう……』

「うん、分かる……分かるよ……」


 二人とも、言葉にできない気持ちを抱えながら、ただビウたんの華麗な接客を見守るのだった——。






 いろいろ変化はあるも少し余裕が出てきたためメアリーはそろそろ新作が欲しいな……と考えていた。


「うーん……。ノアもビアたんもクッキー好きだし、お花のジャムクッキーがあってもいいかも。」


 カウンターに肘をついて考え込んでいると…


「ジャムならフワラーベリーがおすすめだよ!!」


 ふいに、下の方から元気な声が聞こえてきた。

 声の方に顔を向ければ背伸びをしてこちらを覗いている小さな男の子と目が合った。


「フラワーベリー?はじめて聞いたけどこの辺では有名なの?」

「そうだよ!僕リッキー!お誕生日の時とかにママが作ってくれるんだけど、すっごく美味しいんだよ!!」


 " すっごく美味しい " と聞いてメアリーの目が輝く。

 しかもお花のクッキーにフラワーベリーという名前もぴったりだと思った。


 これはぜひ詳しく聞かねば!と男の子の近くによりしゃがんで目線を合わせる。


「リッキーくん教えてくれてありがとう!ぜひそのフラワーベリーを使ってみたいと思うんだけど、それはどこで手に入れられるのかな?」

「んとねぇ、北の方の森だったと思うんだけど…。ママに聞いてみる!」


 男の子は勢いよく振り返り、パンを選んでいた母親のもとに駆け寄って行くのでメアリーもその後ろ姿を追う。そして、そのまま勢いよく足元に抱きついた。


「こら!いきなり抱きついたら危ないでしょ!他のお客さんにぶつかったら大変だし、せっかくの可愛いパン達が落ちちゃうかもしれないわよ?」

「ごめんないさい……。でも、定員さんにフラワーベリーのことを教えてあげたくて、つい…」


 そこで顔を上げた母親と目が合う。メアリーはぺこりと会釈をし、簡単に事情を説明した後、母親のエリスさんが詳しく教えてくれた。


「フラワーベリーは、北の森の湖の近くに生えているの。この辺では身近な木の実なんだけれど、処理がすごく大変で…。お店で処理済みのフラワーベリーを買うこともできるのだけど、手間賃が高いし、フラワーベリー自体はすぐ取れるから買う人も少ないのよ。だからこの辺ではお祝いの時に食べる特別な木の実なのよ。」


 "処理が大変"という言葉にごくりと覚悟を持ちながら、ビウたんが食いつきそうな話だなと思う。さらに詳しく聞いていると、作り方をメモに書いて渡してくれた。


「親切にどうもありがとう!リッキーくん、上手くできたらお礼にプレゼントするから楽しみにしててね!」

「やったー。お姉さん、ありがとう!楽しみにしてるね!」






 リッキーくんとエリスさんが帰った後もお客さんが続き、ノアとビアたんにフラワーベリーのことを話せたのは開店後になってしまった。


「明日のお休みの日にフラワーベリーを収穫しに行きたいと思うんだけど、ノアとビアたんはどう思う?」


 カフェスペースをみんなで片付けながら2人に尋ねた。ノアは風魔法でテーブルやイスの埃をふわりと払いながら答えた。


『もちろん賛成だにゃ!メアリーが作る新作クッキーを食べるチャンスを僕が見逃すわけないのわかってるにゃよ?しかも、特別手当をまだもらってにゃいにゃ!』


 ノアの言葉にメアリーはくすりと笑いが溢れた。ついノアのクッキーにかける熱量を試したくなり、意地悪な質問をする。


「食べれるようにするのにかーなーり、大変な処理がかかるらしいけど…、手伝ってくれる??」

『もちろんだにゃ!』


 がっつポーズと共に力強い言葉が返ってきた。メアリーはその元気な返事に笑顔を浮かべると同時に、少し考え込んでいるビウたんに目を向けた。


「ビウたんも手伝ってくれる?」


 ビウたんは一瞬間をおいてから、慌てたように参加してくる。


『もちろんです!以前、図鑑で見たことがあって実物を見てみたいと思っていたのです。むしろワタシからメアリーさんに提案しようかと思っていたくらいです!』


 やはりビウたんの興味のある話だったらしい。お互い満面の笑みでハイタッチを決める。


「じゃあ今回のお休みは、フラワーベリーを収穫してクッキーを作ろう!どんな味がするのかな~、楽しみ♡」


『図鑑にはふわっとした花の香りとベリーの酸味が絶妙だと書いてありました!』


 ビウたんの言葉に、じゅわっと口の中に涎が溢れる。


「うわ~、絶対おいしいやつじゃん!!どうしよ、わくわくしてきた!!」


 みんなそれぞれが、それぞれの想いを胸にフラワーベリーに思いを馳せる。


『そうと決まればさっさと片付けて、今夜は早く寝るにゃよ!!』


 目をきらりと輝かせたノアが宣言すると、無言で頷き合い、もくもく片付けを進める。


 メアリー・ルルのパン屋さんは1週間営業して1日休み、2週目を終えたところで2日休みを設けている。

 「せっかくの2日間のお休みだし、息抜きも含めて湖の近くでピクニックもありかな~♡」と心で計画を立てるメアリーであった。




☆ こぼれ話


「ねぇ、ビウたん……。その……お昼の接客って、どこで学んだのかなーって、ちょっと気になっちゃって……。」

『あぁ! あれはですね、この前またたびクッキーで酔っ払ったノアさんが、『お客さんにはこうやってにゃ~ん♡って甘えるといいにゃ!』 って教えてくれたのを思い出して、そのまま実践してみたんです!』

「……えっ。」

『なにか間違っていましたか!?』


 慌ててメアリーは「違う違う! すごくよかったよ!」と否定……というか、思わず褒めてしまい、後から訂正する機会を完全に逃してしまったのだった。

 もちろん、またたびクッキーは当分お預けになったノアであった。


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