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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
2/9

2. どきどきの初日!



 とうとうオープンの時間になり、カランー…と扉の開く音が鳴る。


「いらっしゃいませ~、メアリー・ルルのパン屋さんへようこそ♪」


 メアリーは明るい声を意識してお客さんをお迎えする。開店直後の1番の緊張の瞬間でもある。笑顔を浮かべ近寄りつつ、内心ドキドキ。お客さんの反応はどうだろう…。気に入ってもらえるだろうか?


 そんな心配を吹き飛ばすように、目を輝かせた女の子が店内に駆け込んできた。


「うわ~、すごいっ!このパン屋さんの噂を聞いてからずーっと楽しみにしてたの!」

「メアリーさんの目にはこんな風にフルフォレストが写ってるのね、素敵!!」


 その言葉に、メアリーの胸がじんわりと温かくなる。 


「そんな風に褒めてくれてありがとう!気に入ってもらえるか心配してたから嬉しいな~♪ゆっくり見ていってね!あっ、お持ち帰りとカフェどちらになさいますか?」

「カフェでって言いたいけど、この後お仕事なの。持ち帰りでお願い、次の休みは絶対にカフェの方に寄せてもらうね!」

「はーい!おすすめは卵たっぷりたんぽぽコッペパンだよ♪トレーに載せ終わったらカウンターに持ってきてね!」


 職業柄あちこちを旅する冒険者や商人たちの口コミが噂で回り、初めて訪れる土地でもこうして足を運んでくれるお客さんがいるのだ。


 一生懸命がんばって考えたお店とパンを心待ちにしてくれる人がいてくれることが嬉しく、肩に乗っているビウたんに思わず頬をすり寄せた。


 その後もお客さんは次々にやってきて、カフェの方もいっぱいになってきていた。


「まさかお店の中に芝生が生えてるなんて…想像できなかったよね!!」

「ん~っ♡このパン可愛いだけじゃなくて、中のクリームがたまらない…幸せ~!」

「アーチのお花もきれいだし、このウェルカムカードのイラストも素敵…」


 カフェスペースには、青々とした芝生が広がり、日差し避けのモッコウバラのアーチが空を覆う。そう、カフェの天井は、まるで本物の空のように青く映し出されていて、お庭そのものなのだ。これもビウたんの魔法のおかげ。お外でどんなに雨が降っていたとしても、メアリー・ルルのカフェはいつだって晴なのである。

 まじうちのビウたん天才!


 芝生の上には、白いテーブルクロスをかけた丸いテーブルが並び、それぞれちょうちょ・うさぎ・ノア・ビウたんなどをテーマにデザインされている。

 またテーマに合わせてウェルカムカードやカラフルなカトラリーのデザインを変えてみたので、何度来ても新しい発見があるように工夫してみている。


 そこへ、カフェを利用中のお客さんへノアがふよふよと近寄り声をかける。


『お待たせしましたにゃん♪ こちらお持ち帰りにご注文いただいた ”ライオンさんのクリームパン” だにゃ~ん!』

「きゃー♡ 本当に喋った!メアリー・ルルのカリフェルちゃんが従魔契約しなくても会話ができるって噂は本当だったんだ~。かわいいーー!」

『ノアは特別なカリフェルなんだにゃん♪』


 ライオンはこの世界には存在しない動物だったけれど、お持ち帰りしたくなるほどの可愛らしいパンとしてすっかり受け入れられたみたい。お客さんの弾んだ声に、メアリーもるんるんだ。


 実はこのカフェ、メアリーが作るパンや姿を目当てに来るお客も多いが、この世界でもねこ愛好家は多くノア目当てのお客も多いのである。


 ちなみに間ビウたんが何をしているかというと――。


 メアリーの肩にのっていたり、お散歩にでかけたり、2階の居住スペースで趣味の植物についての研究をしたり…と基本マイペース。

 今日は、ちゃっかりお店のディスプレイの一部のように作られたお昼寝スペースでくつろいでいるみたいだ。


「ノアー、これちょうちょのテーブルにお願い!」

『はいはいにゃ~』


 ノアがトレーにのせたパンとカフェオレを風魔法で浮かせて運んでいく。

 その様子をカウンターから見守りながら賑わう店内を見渡す。


「ママー!ぼく、この ”ライオンさんのクリームパン” が食べたい!」

「ねぇねぇ、このノアくんの形をした食パン可愛くない!?お家でお絵描きできるようにチョコペンも売ってる~!」

「あ~~…!カフェの方はどんな感じなのか気になるな~。」


 今回は街中でのオープンということもあり、予想よりもおおくのお客さんが足を運んでくれていた。特に、流行に敏感な女の子や、家族づれのお客さんがおおく、賑やかな声が店内に広がっていた。


 「喜んでもらえてよかった~。」と思いつつも、パン屋さん側からはカフェスペースが見えない作りにしているため、お持ち帰りだけのお客さんから「次はカフェも利用したい!」との声も多く、カフェの方もこれからさらに賑わいそうだと感じていた。

 

 お昼時のピークが過ぎ、メアリー・ルルのパン屋さんも賑わいがひと段落したころ。メアリーは「ふぅーー。」とひと息つきながら、シュルス山脈の日々を思い出していた。


 シュルス山脈はかなり寒く深い雪山だったため、冒険者のお客さんは多かったがもともと人口が少なかったため、のんびりとした営業だった。

 久々にこうして街中での賑わいにすこし疲れを感じていると、先ほどまでお昼寝をしていたはずのビウたんがカウンターにひょっこり現れた。。


『メアリーさん、すごいですね!もうパンが売り切れそうですよ!!』

「……えっ!もう、売り切れ!? うそーーー!!」


 ビウたんの言葉に驚き、慌てて棚を確認すれば、朝にはたくさん並んでいたパンがほぼすっからかんの状態だった。あまりの早さに、思わず時が止まってしまった。


「…これはもうお店しめなきゃだね…。ごめんビウたん、ノアに今日はもう閉めるねって伝えてきてくれる?」

『あっ…、まだこんな早い時間だったんですね…。了解です、すぐ伝えてきます。』


 想像していた反応とちがうメアリーの様子に時計に目をやったビウたんの目が大きく見開かれ、すこし慌てた様子でノアのもとへ向かう。

 その後姿を見送り、メアリーはお店の扉を開けて看板を ”Closed” にひっくり返す。イーゼルを店内にしまおうとしたところ、突然後ろから声をかけられた。


「あのっ、もう閉店っすか…?さっきギルドの受付のマリーさんからおすすめって聞いてきたんすけど…」


振り返ると、冒険者らしき男の人が、少し困ったような顔をして立っていた。メアリーは不甲斐なさを感じながら答える。


「ごめんなさいっ!本当は夕方すぎまで営業しているんだけど、もうパンがほとんど売り切れちゃったんです。」

 

 思わず眉尻が下がるのを自分でも分かった。男の人も残念そうに肩をすくめる。


「そっか~、残念。まっ、それだけ人気ってことっすね。また次は早い時間にくるっす!」

「ありがとうございます。明日からはパンの量を増やして、お待ちしていますね!」


メアリーは励ましの言葉に元気られづつも、反省の気持ちも強くさせた。






「うぁー。久々にやっちゃったよ~、パン全然足りなかった~!」


 カフェのお客さんも帰り、片付けを進めながら、メアリーはカウンターに突っ伏して大きなため息をついた。


『街なかでのオープンが久々すぎて、ノアもなめてたにゃ…。』


 食器を片付けてきてくれたノアの声も、どこか元気がなかった。


「うーん、明日はお昼にもパンを焼けるようにしたほうがいいかも…。特に ”ライオンさんのクリームパン "が売り切れるのが早すぎて、買えなかったお客さんも多かったし…。その分ノアの負担が増えちゃうけど大丈夫そう?」

『そうにゃねぇ。焼く回数を増やすしかにゃいにゃね…。忙しいときはお客さんにちょっと時間がかかるかもって言っておくにゃ。ただし!その分メアリーには特別手当を希望するにゃ!』

「ありがとうノアーー!!いつものクッキーでいいのよね?今度のお休みに用意するね!!」


ノアと二人でプチ反省会をした後、ノアの好物であるクッキーで手を打つことが決まった。


「よーし!そうと決まればノア、仕込みの前に腹ごなしよ!”腹が減っては戦はできぬ”って言うしね!」

『えぇ、でも晩御飯にはかなり早くにゃいかにゃ?まだ3時半にゃよ…』

「ふっふっふ。こんなこともあろうかと、お客さんからおすすめスイーツのお店を教えてもらったての~♪…あっ、安心して。晩御飯のおすすめのお店もちゃーんと聞いてあるからね!」

『さすが食いしん坊だにゃ。あの忙しさでよく聞けたにゃね…』

『流石メアリーさんです!食に抜かりなし!!』


スイーツのワードに、カフェスペースのメンテナンスをしてくれていたビアたんが近くまで来ていた。


『いやいや、ビウたんも人のこといえにゃいにゃ…』


ノアのジト目にもおなかを空かせたメアリーに効果はなし。すばやくビアたんを肩に乗せお店を飛び出した。

 そんなメアリーにノアも仕方なしと言いたげに後ろについていくのだった。



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