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色なし魔女、メアリー・ルルの異世界パン屋さん  作者: りすうさぎ
第一章:フルフォレストの街
1/9

1. テーマはガーデンニングパーティー♪



 メアリーとメアリーの方に乗ったビウたんはオーブンを覗き込み、光をたくさん取り込むその丸い目を輝かせた。


 急いで横に掛けてある厚手のキルトミトンを両手にはめ、オーブンを開けると小麦とバターの焼ける匂いが熱風とともにあふれ、胸いっぱいにその香りを吸い込む。


「んん~っ♡ 我ながら上出来!」


 と満足げに笑みを浮かべた。ビウたんも小さな胸を張って自慢げである。


 出来立ての熱い風を顔に受けながらも鉄板を「あちちっ!」と言いつつ木製の調理台へと移動させれば、鉄板の上には行儀よく並び、こんがりと綺麗な焼き色のついたライオンさんの形をしたパンがあった。


 メアリーは次々とオーブンからパンを取り出していく。「よいしょっ、よいしょっ」とメアリーはパンたちを机の上に並べ、定番の長方形の食パンからノア食パン、コッペパンやクロワッサンなどがむぎゅっと並んだ。

 

「ノア~、手伝って~」


 ノアと呼ばれた茶トラの毛並みに、ゴールドの瞳。まん丸としたフォルムの顔に、耳毛が長くアメリカンカールのようなくるんとした耳を持った白い翼の生えた、ねこみたいな生き物のカリフェルがこちらにやってきた。


『お店の方は準備ばっちりにゃよ~。あとはパンを並べるだけにゃ!』

「あっ、先に出してた食パンとコッペパンはサンドイッチに使うから残しといて~」

『分かってるにゃよ!』


 ふたりの息はぴったりで、慣れた作業である。ノアは風の魔法を使い、どんどんとパンをお店の棚へと運んでいく。空いていく作業台を横目にメアリーは次の工程へと進むことにした。


 マッチを擦って、ぽっと灯った火を魔導コンロへ近づける。四角い卵焼き用のフライパンを温め、油をひいて、溶いた卵をそっと流しこむ。傾けると薄く広がった卵が、じゅわじゅわと音を立てながら焼けていく。

 焼きあがったらフライ返しでまな板へ移動し、また次の卵を焼く……そんな作業を繰り返していたら、店頭にパンを運び終えたノアがふよふよと戻ってきた。


「いいかんじに並べられたにゃ~♪ メアリーの手伝うにゃよ!」


 ノアが焼きあがった薄焼き卵をくるくると巻き、刷毛ではしっこに卵液を塗って棒状になったものをもう一度フライパンへ戻す。それをメアリーが軽く焼いて形を整え、再びまな板へ。するとノアが魔法でサイコロ状にカットし、さらに断面に格子状の切れ目を入れていく。


 最後にメアリーが優しくほぐせば、ふんわりとしたたんぽぽの形をした卵焼きの完成である。


『うわぁ~!卵焼きがたんぽぽになりました!すごいです!』

「ビウたん見るの始めてだっけ?…そっか~、ノアと試作研究してた時、疲れて寝ちゃってたもんね~」


 目を輝かせてたんぽぽの卵焼きを覗き込むビウたんに、切れ端の卵焼きをその小さな口元へと運ぶ。幸せそうにモキュモキュと口はぐビウたんにメアリーとノアの目元が緩む。


 ピンクベージュのような毛並みに加え、胸毛や腹毛、尻尾の一部には白くふわふわの毛を持つリスみたいなシルエットのモフィリー属のビウたん。


 その小さな頭をメアリーが小指で優しく撫でると、モフィリー属特有のうさぎのような少し長い耳が嬉しそうにピクピクと動いた。耳の縁はふわふわの毛で覆われており、オーバルぎみに見えたりと形がはっきりわからないところもまた愛らしい。


 しかも植物魔法と空間魔法を操る天才で、移動式のパン屋さんをすることができるのもビウたんの力があってこそである。


 先ほど焼き上げたたんぽぽの卵焼きを使って、いよいよ仕上げの飾り付けをしていく。ふんわりと切れ目を入れたコッペパンにしゃきしゃきレタスを敷き、ぽかぽかとしたお日さまの色合いをしたオーロラソースをたっぷりと塗る。


 そこへちょこんとスクートのゆでたまごをトッピング!まるでその姿は、殻からちいさなお顔をのぞかせるひよこみたいだ。


 そこにたんぽぽの卵焼きを添えれば、春の訪れを感じるような”たまごたっぷり、たんぽぽコッペパン”の出来上がりである。


『おお~!いい感じになったにゃ!今回のテーマ ”ガーデンパーティー” にぴったりにゃ♪』

「ふふんっ、わたしにかかればこんなものよ!後は、いちごでチューリップと、オレンジでデイジーのフラワーサンドイッチをつくれば完成だよ~」

『それならノアでも出来るにゃ。メアリーは着替えてくるにゃよ~』


「ありがとう、よろしくね」と告げて、メアリーは厨房奥にある2階の住居へと続く階段を駆け上がっていった。


 2階へと上がってきたメアリーは鏡の前で、どんな格好がいいかな~と考えていた。


「ん~。フルフォレストに合う姿…ギンガムチェックなガーリー系もいいけど、ラフで素朴な町娘風も捨てがたいな~。いや、それだとこの世界に馴染みすぎて普通すぎるか…。んー。まぁ、そんな時があってもいっか。きまりー!」


 先月はシュルス山脈でお店を開いていた。そのときは、氷の世界からインスピレーションを受けて、近未来をイメージしたSFチックな姿で過ごしていた。けれど、だからこそか、こうした自然のぬくもりや温かさが恋しくなったのかもしれない。


 メアリーは小さく頷き、目を閉じて両手を胸の前で組む。そして頭で思い浮かべたイメージを想像しながら静かに呪文を唱えた。

 すると足元からゆらりと淡い光が広がり、魔法陣が浮かび上がる。その光の輪がゆっくりとメアリーを包み込み、頭の上まで昇るとぱぁっと光が弾けた。


 メアリーがぱちりと目を開ければ、そこには別人の姿が写っていた。


 生成りのリネンのくるぶしくらいまであるワンピースに同じリネン素材でできたワンピース風の水色のエプロン。足元はネイビー色の布で出来たパンプスのような靴だ。

 髪型はマットな硬そうな印象のブロンドヘアーになり、頭には端切れでできた布でリボンをしている。

 顔は真っ白な肌に日焼けして赤くなった頬に散らばるそばかす。目は澄み渡った空のようなブルーだ。


「うんうん、いい感じ!シンデレラ風の町娘!」


 鏡の前でくるりと回り、仕上がりを隅々までチェックする。

 ふわりと広がる裾に思わずテンションが上がりそのままメアリーは階段を駆け下り、ノアにお披露目する。

 ノアにグッドサインをもらい、ノアとビアたんにおそろいのエプロン生地で出来たリボンを結んであげる。

 3人はいつも、何かおそろいのリボンやアクセサリーを身に着けていた。変幻自在に姿が変わるメアリーの目印にもなり、まわりの人たちからもほほえましく、可愛らしいと思われている。


 ノアが仕上げてくれたサンドイッチをメアリーとビアたんがお店に運び、ひとつひとつ丁寧に並べていく。


 今回の内装はメインのテイクアウトスペースを夜のガーデンパーティー、イートインはお昼のガーデンパーティーをイメージしてみた。


 そのためテイクアウトの部屋の部分は円形型をチョイスし、天井は空間魔法を使い思い切り高く開放的な雰囲気に仕上げてある。


 中央にはフルフォレストの街をイメージした大きな木のオブジェを作り、幹の部分にパンや焼き菓子、小分けバターなどを並べられるように工夫してみた。


 さらに、天井にまでのびる枝葉が店内を優しく包みこみ、その太い枝からは透明なガラス玉がたくさん釣り下がげられていた。中にはキャンドルが灯され、ゆらゆらと揺れる光が木々のまわりを妖精が飛んでいるかのような幻想的な雰囲気を作り上げていた。


 その雰囲気を壊さないよう壁はネイビー色の塗り壁にし、夜の雰囲気をプラス。またイートインの順番を待つお客さんが座れるようにウッドのイスを設置し待ち時間もこの空間を楽しめるように設計した。


 パンを並び終え、「ふぅ…」と椅子に腰かけてひと息をつきがてら店内を眺める。

 

「ビウたん、今回もイメージ通りにありがとう~!ほんとに素敵……フルフォレストのお客さんが喜んでくれるといいなぁ。」

『絶対、喜んでくれますよ!メアリーさんとノアさんはいつもセンス抜群ですから!』

「ふふっ、ありがとう!でもそれを形にしてくれてるのはビアたんでしょ~。私たちみんな天才だねっ!」


 メアリーとビウたんがくすくすと笑い合うのを少し離れたところでノアが左前足についた銀の2つの腕輪を弄りながら、穏やかな表情を浮かべ見つめていた。  


 しばらく見守っていたノアだったが、オープン時間が近くなり2人のもとへ駆け寄るのであった。



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