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Day 3 友の為に 上


 

 私は今、悩んでいる。

何度も止めようと思ってグシャグシャにしては広げを繰り返した事でしわくちゃになった紙と私は対峙している。

有益なのは間違いない、ラタをこのまま魔術師として成長させるのは簡単だが、中身がよくない方向に育ちつつある今だからこそ、一番意味のある物だと理解している。

 

「いちじゅうひゃくせん……まん……」

 

節約しようと思えば出来る。

クソムカつくけど私の名前を出せば簡単に出来る。

だけどそれじゃ……確実にラタの為にはならない。

 

「一般魔術師学校の学費高すぎだろ……今悪魔と戦争中なんだぞ? 無償で受け入れろよ!」

 

これまでの報酬を使わずに貯めていたのはラタの為。

そう、この金はラタの為の金なんだ。

学校に行ったことが無いアイツに少しぐらい師匠として楽しい時間を提供してもバチは当たらない!


金は金で買えない物と交換できる時に最も価値を発揮する、それは頭じゃ分かってる。なのに、何故こんなにも申し込み用紙が重く感じるんだ?

 

「て、手強いじゃないか」

 

書くぞ、申し込むぞ!

 

「お前……紙のくせに魔術を使うのか!?」

 

腕が重い!

いや腕だけじゃない、ペンも、インクも!

全てが私に抵抗している。

 

「こんなに手こずったのは魔王から逃げる時以来だな……だが、私を舐めるな!」

 

だが……動かない。

腕が動かない。

心の内側の私が私に悪魔の囁きをしている。

 

『自分の母校に自分の名前を出して入学させればタダだぞ』

 

わかってる!

それはわかってる!

でもそれじゃラタは私の弟子として仲間達から孤立してしまうだろうが。

 

『校長はあのクソザコ女なんだから、軽く脅しとけばタリラの弟子だと公言しないように出来るだろ』

 

脅すだと?

こっちから弟子を入学させてくれと頼むのに脅すのか?

そんな事出来る訳ないだろ!

 

『ならどうする? その金を大人しく支払うか?』

 

私は負けない。

弟子の為、この貯めていた金を……。

 


 「学校? 行きませんし行きたくありません」

 

「まあ聞け、私もかつて通った学校なんだから絶対に学びはあるぞ」

 

自分の弱さが憎い。

ま、まぁ?

一般学校だとこいつが受験しない可能性もあるし?

そう、これはリスクを考えた大人な対応であって決してもったいないと思った訳でない。

弟子の成長の為の投資をケチる師匠がどこにいるってんだ。

 

「そんじょそこらの魔術師には負けないぐらいには育ったって、お師匠様は私に言いましたよね」

 

「言ったさ、だがお前よりも強い魔術師はいくらでもいるとも言ったはずだ」

 

「学校で今さら何を学ぶんですか?」

 

「えーっと……私が苦手な魔術とか」

 

人間として成長して欲しいから学校に行かせようとしているなんて絶対に言えない。

何とかしてその気にさせないと、あのクソザコ女に頼んでラタを引っ張って行ってもらう必要が出てくる!

 

「お師匠様の苦手な魔術って……実用性の無い物ですよね? 仕事じゃ約に立ちませんよ」

 

「魔術に役に立たない物なんてないさ、覚えておいて損はない」

 

「……なら何故お師匠様はマスターしなかったんですか?」

 

「それは……その……」

 

「じーーー」

 

ダメだ。

言い返せない!


「お師匠様と離れたくありません」

 

「いやここから通えるから、学校行ってみろって、楽しいぞ! もしかしたら彼氏とかできたり」

「男が近づいてきたら物理的に女の子にします」

 

こいつはやりかねない。

目がマジだ、殺人鬼みたいな目してる。

 

「あのー」

 

「へ?」

「あ?」

 

「扉開いてましたので入りましたが……えーっと、契約をさせて頂きたくて」

 

金髪の縦巻きロール。

綺麗な肌に青い瞳、人形みたいな客がカウンターの向こうにいる。

 

さ、さっきまでのやり取り見られてたのか!?

私のブランドイメージが……とほほ。

 

「お師匠様、お客様の対応しますからこの話は忘れてください!」

 

どうすっかな。

一回あのクソザコ女と戦わせてみるか?

まだラタじゃ勝てないだろうし、強くなれるかもしれないってのをチラつかせてやれば……。

 

「契約ですね、出発前ですか? それとも後ですか?」

 

「いえ、実はその今から頼みたいのですが」

 

「当日ですね、では行き先とお名前を記入して下さい」

 

いや強さを求めるなら私の元で学んだ方がいいと言われそうだし、間違ってない。

理論より実戦、私がやってきた事だから学校よりも成長は早いだろうさ。

でも違うんだよラタ、その年齢でその強さなら十分なんだから……。

 

「ルサンチマン様ですね、行き先は……えーっと、怨嗟の谷ですね」


「かなり危険な場所ですが、大丈夫でして?」

 

「怨嗟の谷なら踏破済ですから大丈夫です!」

 

「踏破済? 成る程、後ろのお師匠様とやらが……それでしたら是非お願いしますわ」

 

あの子の付けているペンダント、あれは……特別魔術学校の生徒の証!

ついてるぞ私!


「それでは契約料なんですが……怨嗟の谷ですとこれぐらいになります」

 

「か、かなり高いですわね」

 

「確実な命の保証ですから」

 

「近くの回収師はもっとリーズナブルでしたわ」

 

「自分の命がこの支払い額の価値よりも低いのであれば、他店を検討して下さい」

 

作戦は決まった。

名付けて、友達が学校に行くなら私も行ってみたいです作戦!

我ながらシンプルかつ最高の作戦を思いついてしまった。

そうと決まれば……!

 

「……ッ! もう結構、他店を使いますわ!」

 

「待てわかった、この私が契約してやる、格安でな」

 

「本当ですの?」

 

「お師匠様!?」

 

ラタの目が丸くなっている。

私が格安で契約するとか言うのが初めてだから、めちゃくちゃ驚いてやがる。

 

「ああ、この格安でどうだ? その代わり条件が一つだけあるが」

 

「それは契約を使用した場合の条件ですの?」

 

「ああ、だから契約時点じゃこの金額を払うだけでお前の命は100%保証してやる」

 

ラタが記入した金額のケタを一つ削り、他店と同程度の金額を提示すると、ルサンチマンだったかは目を輝かせながらサインをした。

 

「流石最高の回収師の店と名高い店ですわ! 先生に聞いて来たかいがありました」

 

「あはは、よせよ照れるだろ」

 

「それに比べて……フッ」

 

「お師匠様、こいつ殺していいですか?」

 

「やりますの? このルサンチマンと対峙して無傷で済んだ者などいませんわよ」

 

「やめろラタ、もう契約したんだから絶対に手を出すな」

 

ルサンチマンか。

私の事を知らないみたいだし、別の大陸からやってきた感じだろうか。


「ではよろしくお願いしますね、えーっと」

 

「自己紹介が遅れたな、私はタリラ、タリラ・ルリラだ」

 

ルサンチマンは私に抱きつき、とびっきりの笑顔で。

 

「頼るような事の無いようにしますが、もしもの時はわたくしの命をお願いしますわ」

 

そう行って、店から出ていった。

……すっごいいい匂いしたな、あの子。

 

「お師匠様? 浮気ですか?」

 

「浮気も何も、私達はただの師匠と弟子だろ?」

 

「お師匠様さっき抱きつかれて、いい匂いがするとか思いませんでした?」

 

「……してないぞ」

 

「むー! お師匠様の浮気者! 罰として今日はお師匠様のベッドで深呼吸させて下さい!」

 

不機嫌かつ暴走しそうなラタを説得しようとしたが、全くもって学校には興味を示さなかった。


……ってか、ルサンチマンがやばくなって私を呼ばなかった場合はこの作戦崩壊するよな?


まぁあのレベルで怨嗟の谷に行くって事は多分呼ばれる。

ルサンチマンの怨嗟の谷に行く目的は……友人の遺骨の回収か。


「遺骨回収か」

 

多分、無理だな。

  


 

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