Day 2 救えない人 エピローグ
人身売買は違法じゃない。
これを聞けば他の大陸から来た人は驚くし、権力者の横暴を許すなと怒る人もいる。
だが私の知っている限り、権力者が人身売買をやろうと言い出した記録は無い。
売る物が無く、実力もない、さらに才能にも恵まれず神の奇跡すら授からなかった人が最後にたどり着いた商売だとどこかで読んだ記憶がある。
「お師匠様、洗濯終わりました!」
「ああ、ありがとな」
「でもお師匠様、何故下着を洗濯に出さないのですか? 丹精込めて洗いますよ?」
「下着はいい、自分で洗う」
「そ、そんなぁ……」
「だってお前に任せたら毎回下着が新品になって返ってくるんだもん!」
「それは丁寧に洗っているから新品同様になっているだけです!」
本当に新品になってんだっての!
変態弟子め、本当にいつか襲われるんじゃないかと不安で仕方ない。
「あっ、そういえば今日はメルちゃんの受け渡し日ですよね! 見送りに行きますか?」
「買われる日に見送りってお前、デリカシー無いな」
「へ? でももう二度と会えないかもしれないんですよ? なら会っておいた方がいいじゃないですか」
それは……確かにそうだな。
もう二度と会えないかもしれないってのがわかってるなら、会いに行くべきかもな。
「そういやあの日、お前大丈夫だったのか?」
「あの日……あ、メルちゃんの日ですよね? 低位でしたが大量の悪魔に囲まれた状況に飛ばされてびっくりしましたよ」
「あるあるだ、さっさと慣れろ、それに対多数の戦い方は教えただろ」
「でも戦わなかったんですよ! えっへん!」
多数に囲まれて戦わなかった?
それでいて契約者を無事に回収したって事は上手く逃げたのか?
「近くに丁度いいエサがあったので、それに意識を向けさせて逃げてきました」
「エサ?」
「はい! 生きのいいエサです」
私は別に人を殺したい訳じゃない。
だからそんなエサを使うようなやり方はすべきじゃないんだが……仕事はしてるし、どう教えるのが正解なんだろうか。
「メルちゃんに会いに行くついでに広場行きましょうよ」
「広場? 人が多いから嫌なんだけど」
「でも今日は一大イベントの処刑があるんですよ! 見るの久しぶりだから楽しみにしてたんです」
あの父親の処刑か。
「メルちゃんの引き出しも同じ会場ですから、ほらお師匠様行きますよ!」
ノクターンに挨拶しておかないといけないし……はぁ、行くか。
泣き声と悲鳴と憎悪の言霊。
それらを打ち消す程の盛り上がりと、殺せのコールが広場を包み。
涙を浮かべたメルが、父親の首を跳ねた。
「あ……ラタちゃん」
「メルちゃん! もう二度と会えないかもしれないけど、元気でね!」
「…………」
光を失ったメルがノクターンの従者に連れられて、馬車に乗っていく。
私を見つけたノクターンはでかい腹を揺らしながらのっそのっそと近づいて、軽い挨拶をする。
「次は味方として雇わせてください、大魔術師タリラ様」
「ふっ、傭兵として雇うのは止めておけ、高いぞ」
「確かに当家の全てを持っていかれそうですな! ですが、それらよりも大切な物を守る際にはお願い致します」
「そんな時は契約に来い、貴族からは特別料金を取るがお前には一度だけ平民と同じ価格で受け付けてやる」
「心優しいタリラ様に感謝します、では、これから教育がありますので」
「ああ、達者でな」