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Day 2 救えない人 下


 あれから一週間後、今私はラタに起こされて朝食を食べている。


「メルちゃんは絶対に助けないと、ですよね!」

 

「お前なぁ、客にあんまり感情移入すんなって」

 

「あう、すいません……ちなみにお師匠様はいつもどんな気持ちで現場に向かうんですか?」

 

どんな気持ちで現場に向かうか……か。

私も最初はお前みたいに助けたいって気持ちでいっぱいだったのは覚えているけれど、もう今となってはただの作業でしかない。

飲み慣れた紅茶を飲むような気持ち……いや落ち着いてはいないか。

 

「そうだな、お前が死なないかどうかを心配してるよ」

 

「わ、私の事ですか!? お師匠様……そんなに私の事を……」

 

「変な方向に勘違いするなよ!? ここまでコスト割いて育てたんだから殺されたら困るって言ってるだけだ!」

 

「もうお師匠様ったら、照れ隠しですか? 可愛いです」

 

「おい座れ、私に近づこうとするな」

 

あの手と目は何だ。

この私を恐怖させるような魔術を教えた事なんて無いぞ!

 

「弟子のハグぐらい受け止めて下さい」

 

「そんな邪な目をした弟子のハグなんか受け止められるか! この間ハグしたら下着外したのまだ覚えてるからな」

 

「着たまま派なんですね、でしたら服の上から」

 

脳に警告として設定しておいた魔術が発動し、私とラタの足元に魔法陣が広がる。

まてまて、私が赤でラタが青って事は別案件に飛ばされるって事かよ。

 

「おふざけはここまでだ、ラタ、一人で大丈夫か?」

 

「大丈夫です、もしかしたらお師匠様の方がメルちゃんかもしれませんから、しっかり守ってあげて下さいね!」

 

「あの親子が向ったのは第5大陸近くだぞ? お前がメルの担当だろ……ま、絶対に助けてこいよ」

 

「はい! それじゃあ行ってきます!」

 

「ああ、しっかりな」

 

今日契約されている二件はあのメルと父親とハンターギルドの保険だったな。

私とラタが契約に応じて現場に向かうが、この家に二人いる時にはより危険な案件に私が、そうでない物をラタが担当している。

今回みたいに二人同時に呼ばれる時には、私の方が危険になっているから、多分ハンターギルドの仕事だろうな。

 

「回復薬も持ったし現場のハンター達に配ってやるかな、優しさ溢れるタリラ様とか言われて宣伝効果もあるし個人契約者も増えるかもしれないし……にしし」

 

杖で魔法陣を軽く叩き、私は現場に移動した。

 


 「タリラ様!」

 

私が呼ばれた先は、豪華な屋敷だった。

隣にはメルの父親がいて、彼女は父親に抱きついてブルブルと震えている。


「いきなり現れて……誰だお前は!」

 

目の前には恰幅のいい半裸の男と、戦士が三人……いや、騎士か?

部屋には特に細工は無いし、こいつらの実力も警戒するレベルじゃない。


「何があった?」

 

「この男が娘を……そう、拉致しようとしたんです!」

 

「拉致だと?」

 

おかしい。

拉致された、もしくは未遂だと言うなら何故父親のお前までここに居るんだ?

それとも屋敷に招かれてから拉致されそうになったとか?

 

「黙れ! お前が契約を破ったからだろうが!」

 

「ご当主様、後ろに下がって下さい!」

 

悪魔じゃなくて人が相手か、面倒だな。

ここでこいつらを皆殺しにする事は簡単だ、だがその後が怖い。


「まてまて剣を置いてくれ、まずは自己紹介でもどうだ? 私はタリラ・ルリラ、魔術師だ。さぁ名乗ったぞ、そっちの番だ」

 

並大抵の奴なら私の名前を聞けば襲いかかってくる事は無い。

何故なら絶対に勝てない相手だと分かるからだ。

 

「タリラって」

「大魔術師のタリラ・ルリラかよ」

「勇者筆頭候補だったあのタリラが何でここに……!?」

 

騎士の甲冑にはあまり詳しくないが、あのシルバーメイルに赤色の紋章は多分正規の騎士じゃなかったハズだ。

ここでぶっ殺しても問題無いだろうが、そんな事をすれば私達が狙われる側になってしまう。

 

戦闘をどうにか避けないと。

 

「大魔術師タリラ様、私の言い分を聞いてください!」

 

「その前に名を名乗れ」

 

当主と呼ばれた男は一礼をして、自分の身分を示すペンダントと指輪を私に見せ。

 

「この地域のしがない貴族のノクターン・シークと申します」

 

ノクターン?

聞いた事があるな、確かハンターギルドのあのうるさいのがよくお得意様だと言っていたような……。

 

「まずこの状況について説明します、この契約書をご覧ください」

 

契約書か、この父親の取引相手はこの貴族だったのか。

ますます面倒な事に……。

えーっと、どれどれ。

 

「私は正規の値段でその少女を買ったのです! なのにその男は引き渡しを行わず、味見代金を払えと暴れたのです!」

 

「た、大切な娘を売るわけ無いだろうが!」

 

「前回は私好みの女性を用意すると言っておいて契約を破り、また破るのか!」

 

「黙れブタ! 殺すぞ!」

 

契約書には魔術が組み込まれている。

契約を結んだ双方の魔力が流れ、これが後から作られた物でも、偽装でもない事を証明してくれる。

つまり、このノクターンとかいう貴族が正しい。

 

「お前は少し黙ってろ」

 

父親の声を奪って静かにさせ、契約に不備がないかを確認するが、全く不備は見当たらない。

それどころかこの契約には前金として相当な金額を支払う事になっていて、既に受け取りの魔力が流れている。

 

「お前が正しいな、ノクターン」

 

「流石は大魔術師のタリラ様、理解がお早い……ですが何故タリラ様はここに現れたのでしょうか」

 

「私はコイツと回収契約を結んでいてな、お前には残念な話かもしれないがこの父親と娘のメルを回収する事になっている」

 

「それは……困りますな」

 

くっそ、ラタの奴人身売買系の契約は関係性を探ってからだとアレほど言ったのに……!


「私は契約に従い、この二人を連れ戻さねばならん」

 

「ですがそれでは流石に」

「まぁ聞け、私はこれから第4大陸のダルクマートの街にある自分の店までコイツを連れていく、それで契約は完了だ」

 

「連れて行かれては困ると言っているのです! せめてその女の子だけでも置いて……ああ、成る程」

 

察しが良くて助かるよ、ノクターン。

 

「そういう事だ、今回はお前が正しいしお前の契約が優先されるべきだろうが、この私と友好的な関係を築く事にはそれ以上の価値があると思うぞ」

 

ノクターンは頷き、騎士達も剣を納めてホッとしている。

まぁ私と戦わずに済んだんだからムリもない。

 

「良きお付き合いを期待しております、タリラ様」

 

「ああ、それじゃあ一度こいつらは連れ帰るが、なるべく早く頼むよ」

 

「転移門を使ってすぐに向かいます、お前達、支度しておけ」

 

もし今回の案件をラタが引き受けてたら……お尋ね者になってただろうな。

 

「嫌……パパと離れるの嫌!」

 

メルに自分は売られたのだと理解させるには、まだ幼すぎるし、それは私の仕事じゃない。

 

でも、可哀想だ。

 

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