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Day 2 救えない人 上


 

 

 私とラタの日常の殆どは修行と仕事で埋められている。

午前中に掃除洗濯飯作りの修行をラタにさせ、午後からは仕事に出向くのが基本だ。

 

「いらっしゃいませ! ……あっ、メルちゃん!」

 

四度眠から起きて顔を洗おうとすると、一階からラタの声がした。

どうやらいつものあの客みたいだが……。

 

「こんにちはラタちゃん!」

 

「久しぶりだね、ラタちゃん」

 

「メルちゃんのお父さんも、お久しぶりですっ! 体は大丈夫ですか?」

 

「ああ、しばらく休んだからもう大丈夫だ」

 

「それはよかったです」

 

メルとあの男、確か戦士系の親子だったな。

あいつらが来ると2階にいても重い装備がこすれるような音がしてイライラするからよく覚えてる。

 

だがそれと同時に、賢い親子だという事も知っている。

 

「じつは来週仕事がありまして、またラタちゃんの所の保険を契約したいんだが、大丈夫かな?」

 

「契約ですね! えーっと来週は……はい、大丈夫です、では行き先と契約人数を記入して下さい!」

 

あの男は昔、私ではない他の回収師と契約をしていた。

だが、契約していた回収師の腕が未熟だった為に妻を亡くし、今は一人で娘を育てているらしい。


「うわー! すっごいたかーい!」

 

あんのガキ、もう10歳ぐらいにはなってるだろ。

人の店でサービスの値段にケチつけんなっての!

 

「あはは……ごめんね、メルちゃん」

 

「メル、安全は一番高級な物なんだからそういう事は言っちゃダメだっていつも言ってるだろ」

 

「わかってるよ! このお店は人助けがお仕事だから、しっかりお金を払ってまた助けてもらうんだよね」

 

「ああそうだぞ、それにな、ここは他よりも高いけど絶対に助けてくれるんだからな! 考えてみろ、帰り道悪魔や悪い人に襲われたらどうする? パパは戦えるけどお前はそうじゃない、だけどこの契約をしていればラタちゃんやタリラ様が安全の保証をしてくれるんだから……覚えておきなさい、金は大切だが命を買う事は出来ない。つまり金より命の方が大切なんだよ」

 

その通りだ。

あの父親はやはり頭がいい。


「おっと、変な空気にしちゃったね、ごめんよメル」

 

「言ってる事あんまりわかんないけど、メルはパパ大好きだから! ラタちゃん、パパを守ってね!」

 

父親の遺伝子を本当に引き継いでいるのか怪しいぞあの小娘。

……いや、この問題はあまり考えるべきじゃない。

ドロドロをみているのは好きだが、関わりたくない。

 

「勿論だよメルちゃん! ごほん、それではお父さん、手を出して下さい。メルちゃんは私を見ててね」

 

父親の手とメルの瞳に魔法陣が刻まれた。

時々この刻みを失敗するから不安だったが、今回も上手くいったみたいだな。

 

「ラタちゃん見てるけど、もういいの?」

 

「ありがとう、ラタちゃん」

 

「その魔法陣は危機を察知したら起動するようになっています、起動するのに必要な物も魔術も奇跡もありません、勝手に起動しますから安心して下さい」

 

「わーい! ラタちゃん遊ぼー!」

 

「ちょっとメルちゃん! 引っ張らないで、こけちゃうから……お師匠様、あとはお願いしますー!」

 

階段で見ていた私にそう言うと、ラタとメルは玄関からどこかに行ってしまった。

まったく、この後は夕飯を作る修行があるんだからな、それまでに帰ってきてくれよ?

 

「タリラ様、うちの娘がすいません」

 

「私のバカ弟子も乗り気だったし、気にするな」

 

この男、少し強くなったか?

筋肉量は増えてないが、魔力の流れがスムーズになってる。


「一つ、タリラ様に謝らなければいけない事がありまして」

 

「ほう、どんな悪さをしたんだ?」

 

「今回の仕事は売りに行くだけなんですが、第5大陸の近くには私だけでなく別の仲間も……ご存知でしょうが」

 

第5大陸?

悪魔が侵攻してきてるのは第3大陸からだから、比較的平和な方向向うのか。

こりゃ……何もしなくてよさそうだ。

でも念の為、後で用紙見ておくか。

 

「いたような気もするがあんまり覚えてないね、それがどうしたよ」

 

「彼らは……他の回収師に頼むらしいです。傭兵として人を雇う者もいるとか」

 

は?

 

「ふーん、それで?」

 

「タリラ様の店にしろと言ったのですが、聞いてもらえませんでした、すいません」

 

ふざけんなお前、収入減るだろうか!

くっそ、こいつタダじゃすまさん、少し嫌がらせしてやる。

 

「お前が謝る事じゃないだろ、それにそいつらはその回収師や傭兵への支払いを自分の命の価値だと理解してんだろ? なら私がどうこう言う話じゃないが……一つだけアドバイスしとくよ、実は……」

 

「……本当ですか、タリラ様」

 

「あくまで噂、可能性の話だが警戒はしておけ」

 

にっしっし、傭兵は裏切る可能性が高くて最近も傭兵が主人を殺して逃げたって噂があるって今作ったホラ話にビビってやんの。

 

「そうなった場合はどのように逃げれば……そもそも数が……」

 

あー面白い面白い、さてと、冷静に考えりゃビビる必要無いって分かんのになぁ。

強くなっても頭は硬いままみたいだな。

 

「お前は黙って目的地まで歩いてりゃいいさ、そんな時に戦うのが私やラタの仕事なんだからな」

 

「娘だけは、お願いします」

 

「娘だけだぁ!? お前さっき私達と契約したよな? 100%回収実績のあるこの店で契約したんだよな?」

 

「は、はい、ですがもしもの時は」

 

「もしもの時は私とラタが死んでもお前とメルを助けるし、倒せない相手なら時間稼ぎするに決まってんだろ! 少しは安心しろっての、お前はこの大陸で一番の安全安心を手に入れたんだからな」 

 

彼が私達の実力を疑っている訳では無いと思う。

おそらくだが、前回の仕事で自分は妻を守れず回収師も役に立たなかったから不安になってるだけだ。

無謀よりもいい事だとは思うが、そんなんじゃ人生楽しくないだろうに。

 

「大丈夫、安心しろ、お前には私達がついてる」

 

「……ありがとうございます」

 

私が始めた話だが、まさか私が説教しなきゃいけなくなるとは思わなかったぜ。


「そういえば第5大陸の近くには勇者様がいるみたいです、なんでも仲間達は勇者様がいる場所に近いからいざとなったら助けてもらえると思っているみたいで」


「哀れだな、お前も仕事仲間は選んだほうがいいぞ? 勇者にそんな余裕がある訳ないってのに」

 

そもそも勇者が何で後方に引きこもってんだよ。

前線いけよ、戦えよ。


「タリラ様は、もう勇者を目指さないのですか?」

 

「……プライベートな話だぞ、セクハラで訴えてやる」

 

「楽しいお喋りでした、私は家に戻りますが……もしメルがここに来たら早く家に戻るように言っておいて下さいませんか」

 

男は玄関でくるっと回り、私に頭を下げて消えていった。

 

もう勇者を目指さないのか……ねぇ。

 

姫様に気に入られて、評議会の信頼を得る為に金を回して、それから……。

ダメだ、もう二度とやれる気がしない。

特にあの姫様だな、絶対に私を嫌ってるからその時点で勇者はムリ。

 

「そもそも、もう目指してないんだよな」

 

さてと、とりあえずラタが帰って来るまでに私が晩御飯を作ってやるとするかな。

ふっふっふ、ラタの喜ぶ顔が目に浮かぶ!

 

「絶品ビーフシチュー、作っちゃおうかな」

 


 

 「お師匠様、髪型変えました?」

 

「……ああ、イメチェンだよ」

 

「あの、何で今日外食なんですか? 何も稼いでませんよ?」

 

「あー、その……まぁ、たまにはいいだろ」

 

言えない。

火力間違えたなんて、絶対に言えない。



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