Day 1 帰らぬ子 エピローグ
洞窟を出ると、あの白髪の身なりのいい男が待っていた。
彼の後ろには過剰なぐらいの医療魔術師と、いざという時の為の防衛魔術が大量に用意されている。
「お客様! 確認をお願いします」
拘束を解き、眠っている女を見せると、白髪の男は頷いた。
「確かにお嬢様です。しかし、何故眠っているのでしょうか」
「幼馴染の男かどうかは知らんが、ハルトって男を助けろって煩かったから眠らせたんだよ」
医療魔術師が眠りこけているお嬢様の状態を確認し、白髪の男に何かを伝えている。
それを聞いてさらに頷いた男は一礼をした。
「ここだけの話ですが、お嬢様はハルト君に惚れていました。ですがあの男は身分が違いすぎて、元々こちらで処分するつもりだったので、手間が省けました」
成る程ね。
イカれてる。
私達は死を望んだりはしない。
結果として死ぬならともかく、コイツは死を望んでやがった。
「しかしここまで宝石洞窟が危険だったとは……流す噂も考えなければいけませんね」
「それはどういう」
「ラタ」
男の顔が険しくなった。
これ以上は触れない方がいい。
「おっと、そうでしたそうでした、お嬢様の本日の装備は差し上げる契約でしたので、どうぞ持っていって下さい」
ブローチと剣と、いくつかの装飾品を手に入れた。
だが……うーん、どれも絶妙に使えない。
「それと、今日ここであった事はくれぐれも」
「顧客情報は守るよ、だがそっちはうちの宣伝しといてくれよな」
老人は笑顔で。
「勿論です! お嬢様は何も覚えてないかもしれませんが、当家が確実に回収をする店であると宣伝いたします」
そう言って、一団は戻って行った。
「お師匠様、さっき覚えていないかもしれないって」
「嫌な記憶を消すのは普通の事だよ、ま、どこまで消すかはしらねぇけどな」
2日後、泣き崩れるあの母親が広場にいた。
知らない回収師らしき男はボロボロになりつつ、何かを母親に渡している。
あの中身は、簡単に想像できるな。
「あれは……フランソワーズお嬢様! 何故、何故息子を助けてくれなかったんですか!!」
豪華な馬車に向かって走り出した母親の声は届かず、中にいたお嬢様は知らない人が何か言っているというような表情で、どこかに行った。
「お師匠様、今日はキノコが特売ですよ!」
「……キノコはちょっとなぁ」
「むー! 好き嫌いはダメなんですよ」
「ほらあのグニャグニャした食感がさ」
「グニャグニャしてないキノコ……はっ! ダメですよお師匠様! 男はダメです!」
何を言ってるんだ、このバカ弟子。