表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

アンデット騎士

リリスとノエル、そして俺は、ギルドから依頼を受けてリッチエンペラーの封印場所に向かっていた。


  道中の空気は張り詰めていて、誰も口を開かず、ただ周囲の異変に注意を払い続けている。


  周りの木々が不気味なほど静かで、鳥の鳴き声すら聞こえない。


  足元に広がる黒い草は、腐敗したように枯れ果て、まるでこの地に死が染み込んでいるようだった。


「どうしてこんなにもアンデッドが増えているの…...」


 リリスが小声でつぶやいた。


  その銀色の髪が風に揺れ、彼女の表情はいつも以上に険しい。


  彼女もこの異常な事態に深く警戒しているのがわかった。リッチエンペラーの封印場所に異変が起きているのは確実だが、何がそれを引き起こしているのかはわからない。


「封印がこんなに早く弱まるはずがない…...ギルドマスターもそう言ってた。900年前のハイエルフの賢者が封じた強固な封印だったんだ。少なくとも、あと100年は持つはずだったのに.....」


 リリスの言葉が頭をよぎる。ギルドマスターも、かつてその賢者と親交があったと言っていた。


 そんな強力な封印が、何かの原因でここまで弱まっている。リッチエンペラーの存在感が確実に増しているのを、俺たちは感じていた。


「何か、外から干渉されているのかもしれないな」


 俺の言葉に、ノエルが頷く。


「その可能性は高い。だが、こんな強力な封印に干渉できるほどの力を持つ者がいるなら、それは...…」


 ノエルは言葉を切り、鋭い視線で周囲を見渡した。


 その目には、彼女がどれほどの脅威を想定しているかが浮かんでいた。


 俺も同じ思いだった。


 これほどの規模の干渉は、ただの小細工ではない。


 何者かが意図的に封印を緩め、リッチエンペラーを蘇らせようとしている。


「俺たちがここに来る前に、アンデッドたちが動き出していたのもその証拠だろう。すべてが連動してるんだ」


 俺の言葉に、リリスが少し眉をひそめたが、何かを決心したように頷いた。


「今はとにかく確認が必要だわ。封印がどれだけ弱まっているか、そしてそれを食い止める手段があるのか早く調べないと」


 俺たちはさらに進み、次第に不気味な瘴気が漂うようになった。封印場所に近づくにつれ、空気が重くなり、腐臭が漂ってくる。


 これがリッチエンペラーの影響だとすれば、かなり深刻な事態だ。


 やがて、俺たちは封印の地にたどり着いた。


 そこはかつての戦いで破壊された遺跡であり、中央には古びた石碑が立っている。


 その周囲には無数のアンデッドの残骸が散らばっていた。


 誰かがすでにここを通り過ぎて、戦闘が繰り広げられた形跡がある。


「ここは……」


 リリスが石碑に近づくと、魔力の流れが変わったのがわかった。石碑から漏れ出している瘴気が、周囲の空間を歪ませ、闇の力が渦巻いている。


「封印が…...完全に崩れる前に、何とかしないと!」


 リリスはすぐに魔法陣を描き、封印を安定させようとした。


 しかし、彼女の力だけではどうにもならないほど、封印はすでに弱まっていた。彼女の額に汗がにじむ。


「間に合うか?」


 俺は彼女に声をかけたが、リリスは苦悶の表情を浮かべながら首を振った。


「ここまで弱まっているとは思わなかった。誰かがこの封印に直接干渉したんだわ…...それも、かなり強力な存在が。」


 その瞬間、俺たちの周囲にまたアンデッドが現れた。彼

らは封印を守るための存在ではなく、むしろ封印を破壊しようとする者たちだった。


 リリスが魔力を注ぐ間、俺とノエルは周囲のアンデッドを撃退することに集中した。


「これ以上封印が破られたら、リッチエンペラーが目覚めてしまう!」


 リリスが叫びながら最後の力を振り絞っている。俺たちも彼女を守りながら、必死に攻撃を続けた。


 しかし、アンデッドの数は増え続け、その力も徐々に強くなっていく。


「このままじゃ持たない!」


 ノエルが息を切らしながら言ったその時、遠くから轟音が響いた。


 俺たちは驚いて振り返ったが、そこには巨大な闇の渦が現れ、その中心からさらに多くのアンデッドが現れようとしていた。


「これが、リッチエンペラーの力か?」


 俺は呟き、再び刃を構えた。


 リリスが必死に封印を維持し、俺とノエルが周囲のアンデッドを一掃しようと戦っている中、突然、空気が一気に変わった。


 冷たく重たい瘴気がさらに強まり、足元の大地が震える。まるでこの地そのものが目覚めるかのような圧倒的な存在感を感じた。


「何だ?この感じは?」


 俺が剣を握り直していると、突如、目の前の空間が歪み始め、暗黒の裂け目が現れた。


 そこから現れたのは、全身が黒い鎧に覆われた巨大なアンデッド騎士だった。


 その鋭い眼光が俺たちを見据え、巨大な剣を構えてゆっくりと歩み寄ってくる。


「貴様らが、封印を守ろうとしている愚か者か?」


 アンデット騎士は低く響く声で呟き、俺たちを冷ややかに見下ろした。


 彼の姿は異様な迫力を持ち、ただのアンデッドとは一線を画している。圧倒的な力を秘めた幹部の存在だ。


「お前か封印を弱めたのは!」


 ノエルが歯を食いしばって言葉を絞り出す。ザラザールは不敵な笑みを浮かべると、その巨剣をゆっくりと地面に突き立てた。


「その通りだ。私はリッチエンペラー様の忠実な騎士、ザラザール。お前たちの努力もここで終わりだ…...封印はすでに無力化されつつある。いずれ我が主は完全に復活し、この地を支配するだろう」


 彼はゆっくりと剣を持ち上げ、俺たちに向けて構えた。


「邪魔立てする者は、ここで消え去れ!」


 その言葉と同時に、ザラザールの剣が暗黒の光を放ち、強烈な瘴気が俺たちに襲いかかる。


 俺はすぐにその攻撃をかわしたが、その圧力だけで周囲の大地が砕け、木々が倒れていく。


「強い…...!これは、ただのアンデッドとは違う!」


 俺はすぐに戦闘態勢を整え、ザラザールに向き直った。ノエルもすぐに剣を構え、リリスを守りながら戦う準備を整える。


「このままじゃ封印が!」


 リリスが叫ぶが、彼女の力だけでは封印を維持するのが限界だ。


 このままでは、リッチエンペラーが復活するまでに時間がない。


 だが、目の前に立つこのザラザールの圧倒的な力を前にして、どう戦えばいいのか…俺は必死に策を練る。


「リリス!封印を守るのは今のうちにしかできない、俺たちが時間を稼ぐ!」


 俺はリリスにそう伝え、ノエルとともにザラザールに突進した。


 ザラザールは冷たい視線で俺たちを見据え、その剣をゆっくりと振り上げる。


「愚か者ども…...お前たちがいくら抵抗しようとも、運命は変えられぬ」


 その言葉とともに、ザラザールの剣から暗黒の炎が放たれ、俺たちを包み込もうとする。


 しかし、俺はその攻撃をすり抜け、間一髪でザラザールの懐に飛び込んだ。


「ここだ!」


 俺は「クリムゾンブレード」を全力で振り下ろし、ザラザールの鎧に深い傷を刻み込んだ。


 しかし、彼はわずかに眉をひそめただけで、驚くほどの回復力で傷がすぐに癒えた。


「貴様の力では、私には到底及ばぬ」


 ザラザールは冷たい笑みを浮かべながら、再び攻撃を仕掛けてくる。


 その強烈な一撃に、俺は防御を固めたが、ノエルがその瞬間、素早くザラザールの背後に回り込み、剣で追撃を仕掛けた。


「一撃で決めさせるわけにはいかない!リリス、私たちが止める!」


 ノエルの声に応じて、リリスは力を振り絞り、魔法の光をさらに強めた。


 その瞬間、ザラザールが動きを止め、リリスに鋭い目を向けた。


「お前か…...封印を守ろうとしているのは」


 その視線に、リリスは一瞬、気圧されるが、すぐに意志を固めて立ち上がる。


「あなたたちにリッチエンペラーを復活させるわけにはいかない!」


 リリスの言葉に、ザラザールは冷たい笑みを浮かべながら剣を構えた。


「ならば、その命をかけてみるがいい!」


 再びザラザールの剣が振り下ろされる。


 俺とノエルはそれを防ぎつつ、なんとか時間を稼ぎ、リリスが封印を維持するために全力を尽くしていたが、この戦いが終わるまでにどれだけの時間が残されているのかわからない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ