カルト教団
カルト教団の本拠地、朽ちた城の地下儀式の間
薄暗い儀式の間には、冷たい空気と不気味な沈黙が支配していた。
壁には古代のルーン文字が浮かび上がり、そこからかすかな魔力が漏れ出ている。
中央には巨大な水晶球が鎮座し、その周囲に複雑な魔法陣が描かれていた。
水晶球の中には、リッチエンペラーの影がわずかに揺らめいていたが、完全には現れない。
水晶球の前に立つのは、この教団の絶対的なリーダー、アークリッチ・ヴェルドラス。
彼は不死の魔術によって自らをアンデッド化した古の賢者であり、リッチエンペラーの復活を目指して数世紀にわたり策を練っていた。
「我らの主が復活するまで、あと少し…...」
ヴェルドラスはその言葉を口にしながら、瘴気に満ちた杖をゆっくりと振りかざした。
彼の瞳には冷酷な決意が宿っている。
リッチエンペラーの復活を果たすため、何百年もこの儀式を準備してきた。
だが、その最後の一歩を踏み出す前に、不穏な兆候が現れ始めた。
「ザルザール様」
その声に応じて現れたのは、教団の幹部の一人であるリッチナイト・ザラザール。
骸骨騎士の姿をした彼は、かつては人間の騎士団を率いていたが、現在は不死の力を手にし、ヴェルドラスの忠実な戦士として従っている。
「アンデッド軍が次々と壊滅させられています。封印の地周辺で何者かが動いているようです。」
ザラザールの報告に、ヴェルドラスは険しい顔を見せた。彼の骨ばった手が杖を握りしめ、その指先に黒い炎が灯る。
「誰が我々の領域に足を踏み入れたのか…?」
水晶球を見つめると、そこに映し出されたのは、倒されたアンデッドたちの無残な姿だった。
強力な力を持つ冒険者たちが、教団の防御網を次々と破り、進行している様子が見える。
彼らの中には、銀色の髪を持つエルフの女性リリスと、漆黒の鎧を纏ったダークエルフ、ノエルの姿があった。
「リリス…...そしてノエルか」
ヴェルドラスは苦々しげに呟いた。
エルフとダークエルフ、両者の族長の娘たちが、自らの計画に再び立ち塞がろうとしている。
「奴らの一族は、古代から我らが主の復活を妨げてきた。だが、今回もそう簡単に阻止されるわけにはいかぬ」
その言葉に応じるように、ザラザールは静かに頭を下げた。
「アンデッド軍を再編し、次の戦闘に備えます。今度は逃しません!」
その瞬間、ヴェルドラスの背後から、もう一人の幹部であるネクロマンサー・シリアがゆっくりと歩み寄ってきた。
シリアは教団の中でも死霊術に長けた魔術師であり、その冷酷さと残忍さで幹部たちの中でも恐れられている存在だ。
「リリス、ノエル、そしてあの謎の戦士………面白いわね。彼らを見つけるのは容易ですわ」
シリアは不敵な笑みを浮かべながら水晶球に手をかざした。
彼女の指先から黒い霧が生まれ、使い魔たちが召喚された。
彼らは高らかに笑い声を上げながら、瞬時に姿を消していった。使い魔たちはリリスたちの動きを監視し、追跡する役割を果たす。
「逃げられるものなら、逃げてご覧なさい。いずれ追いつめて、骨まで残さず引き裂いてあげるわ」
シリアの言葉に、ザラザールは無言で立ち上がり、冷静に剣を握り締めた。
「次は我々の力を思い知らせてやる」
ザラザールの声には確固たる決意が宿っていた。ヴェルドラスもそれを感じ取り、冷酷な微笑みを浮かべた。
「奴らがアンデッドを倒したのは誤算だが、それだけでは終わらせぬ。我々にはまだ手札が残っている」
ヴェルドラスは杖を持ち上げ、水晶球にさらなる魔力を注ぎ込んだ。
水晶球は一瞬、暗い紫色に輝き、次の瞬間には周囲の空気が揺らぎ始めた。その中に、リッチエンペラーの顔がほんの一瞬だけ浮かび上がった。
「我らが主よ、どうかお力を」
ヴェルドラスは小声で呟きながら、次なる計画を練り始めた。
「ザラザール、シリア。お前たちは直ちに行動に移れ。アンデッド軍の再編と、奴らの追跡を進めよ。特にリリスとノエル、そしてあの謎の戦士が再び封印の地に向かおうとすれば、容赦なく叩き潰せ」
二人は頷き、それぞれの役割に向けて動き始めた。
数時間後、リッチナイト・ザラザールは、教団の地下深くにある訓練場に足を踏み入れた。
そこには、すでに集められたアンデッドの大軍が整列していた。彼らは骸骨兵やゾンビの兵士たちで構成されており、鎧を身に纏った者、武器を手にした者など、さまざまな姿をしていた。
「お前たちの力はまだ足りないが、今度の戦いでは奴らに痛みを与えなければならない。再び我々が敗北することは許されない!」
ザラザールは隊列を見渡し、アンデッド兵たちに冷たい視線を投げかけた。
彼らは無言で、ただ命令を待っていた。ザラザールの右手にある剣が、闇の中で鈍く光を放つ。
「全員、戦闘準備を整えろ!」
その瞬間、地下の訓練場全体に低いうなり声が響き渡り、アンデッド兵たちは一斉に動き始めた。
ザラザールは無言のまま、剣を腰に戻し、そのまま静かに後退していった。
一方、シリアは使い魔を召喚した後、彼女の私室に戻っていた。
薄暗い部屋の中には無数の書物と魔法道具が散らばっており、彼女はその中から一冊の古い書物を取り出した。
書物には、リッチエンペラー復活の儀式に必要な手順が詳細に記されている。
「リリス、ノエル、そして.....ゼランと名乗るその戦士。お前たちには少し遊んでもらいましょう」
シリアは微笑みながら、書物を開いた。彼女は呪文を詠唱し、再び魔法陣が浮かび上がる。
そこには、リッチエンペラーの復活に必要なさらなる儀式が記されていた。彼女の狙いは、この儀式を完成させリッチエンペラーの復活を加速させることだった。
「あと少し……あと少しで、我らが主は目覚める」
シリアは手を振りかざし、魔法陣の中央に立つ水晶球にさらなる魔力を注ぎ込んだ。
水晶球は一瞬だけ輝きを放ち、再び闇に覆われた。
しかし、その中でかすかに動くリッチエンペラーの姿が、徐々に現実のものとなりつつあった。
「リリス、ノエル、そしてその戦士ゼラン。貴方たちの抵抗など、もはや無意味よ」




