封印場所
翌日、ギルド本部の重厚な扉が静かに開かれ、俺たちが案内されたのは、ギルドマスター・イリオスの個室だった。
室内には高級な木製の机が置かれ、その後ろにはギルドマスターが座っていた。背後の窓から差し込む柔らかな光が、イリオスの険しい表情を照らし出している。
「ゼラン、リリス、ノエル。ここ数日、封印場所周辺の動きが異常だという報告が相次いでいる。アンデッドの数が急激に増えている。そして、この事態は君たち二人にも関わる」
リリスとノエルが顔を見合わせ、緊張感を漂わせながらイリオスの言葉を待った。俺も、イリオスの言葉にただならぬ重みを感じていた。
「アンデッドの増加が確認された場所は、リッチエンペラーの封印がある地点だ。その封印は、900年前に邪神を封印した勇者パーティーのハイエルフの賢者が最後の力を振り絞って行ったものだ。賢者は、かつてはSSランクの実力を持っていた。そして……私の師匠でもある」
イリオスはその言葉に少し感情を込めた。彼の表情には、かつての師匠に対する敬意と感傷が垣間見える。
「賢者は900年前にその封印を完成させ、亡くなったが、封印はあと100年は解かれないはずだった。それなのに、今、その封印が弱まり、アンデッドが増えている…これは非常に異常な事態だ」
リリスが驚いた表情を浮かべながら尋ねた。
「リッチエンペラーの封印が……あと100年は解かれないはずよ!」
イリオスはうなずいた。
「そうだ。その封印は絶対のものだとされていた。だが何らかの力が働き、封印が弱まっている。もしこのまま放置すれば、リッチエンペラーが復活する可能性もある」
俺は聞き慣れない「リッチエンペラー」という名前に疑問を抱いた。
「リッチエンペラーって何なんだ?」
リリスがその質問に答えた。
「リッチエンペラーは、アンデッドの王。900年前にこの世界を恐怖で支配していた存在よ。彼は不死の力を持ち、その力で幾つもの国を滅ぼした。そして、最終的にハイエルフの賢者によって封印されたの」
ノエルも続けて説明する。
「リッチエンペラーの封印が解かれたら、アンデッドの大軍を引き連れて、この地を再び支配しようとするでしょう。封印が弱まっているとなれば、私たちエルフとダークエルフにも影響が及ぶ可能性が高いわ」
イリオスはその説明に同意しながら、さらに厳しい表情を見せた。
「今はまだ、リッチエンペラーが復活したわけではない。しかし、アンデッドの数が急増していることから、封印が完全に破られるのは時間の問題だろう。このままでは、賢者が命をかけて行った封印が無駄になる」
リリスは真剣な表情で口を開いた。
「私たちの父親たちが、この封印を何世代にもわたって守ってきた。このまま見過ごすわけにはいきません。すぐに向かいます」
ノエルも静かに頷き、イリオスの方を真っ直ぐ見つめた。
「私たちの一族に関わることならば、なおさら急がなければなりません。準備を整えてすぐに出発します」
イリオスは俺に目を向けた。
「ゼラン、君にも同行をお願いしたい。リリスとノエルだけでは、この問題に対処するのは難しい。君の力も必要だ」
俺は少し考えたが、すぐに返答した。
「もちろんだ、イリオスさん。リッチエンペラーがどれほど危険な存在かはよくわからないが、今の話を聞く限り、これは重大な事態だ。俺も全力で協力する」
イリオスは静かに頷き、俺たちを送り出した。
その後、俺たちはすぐに支度を整え、リッチエンペラーの封印場所へと向かうことになった。道中、リリスとノエルは沈黙し、深い考えに沈んでいる様子だった。
「ゼラン、私たちの父親たちは、この封印を何世代にもわたって守ってきた。それが弱まっているとなれば…...ただ事ではないわ」
リリスが静かにそう言うと、ノエルも険しい表情で続けた。
「封印が弱まるということは、何者かが封印を壊そうとしている可能性が高い。それが原因でアンデッドが増えているのだとしたら、リッチエンペラーの復活はもうすぐそこかもしれない」
俺たちは暗くなり始めた森を進みながら、次第に重くなる空気を感じていた。
リッチエンペラーの封印場所は、暗い森の中にひっそりと存在していた。周囲には古びた石碑や彫刻が残されており、その全てが時代の経過を感じさせるものだった。しかし、目を引いたのは、その場所に徘徊している数多くのアンデッドだった。
リリスは立ち止まり、周囲の魔力を感じ取ろうとした。
「これは…...封印が確実に弱まっている。このままでは、封印が完全に解けるのも時間の問題よ」
ノエルも周囲の様子を確認し、険しい表情を浮かべた。
「こんなにアンデッドがいるなんて異常よ。リッチエンペラーの影響が確実に強まっている」
俺は剣を握りしめ、周囲のアンデッドを睨みつけた。どれも低級なアンデッドだが、数が多い。そして何より、この場所が持つ不気味な空気が、俺たちに迫りくる脅威を物語っていた。
俺は剣を握りしめ、アンデッドの群れを睨みつけた。
「ここで全員倒すぞ。これ以上増やさせるわけにはいかない」
リリスとノエルは頷き、俺たちは行動に移った。
俺が先陣を切ってアンデッドに突撃すると、その内の数体が一斉にこちらに襲いかかってきた。
俺は「風魔法」を使って風の刃を生み出し、一気に数体のアンデッドを切り裂いた。周囲に血のような黒い液体が飛び散るが、次々と襲いかかるアンデッドに気を抜く暇はない。
「リリス、援護を頼む!」
リリスが杖を掲げ、強力な光の魔法を発動させた。光の波動がアンデッドに直撃すると、彼らの体が消し飛び、次々と灰となって地面に崩れ落ちる。
「ノエル、そっち側の敵も頼む!」
ノエルは素早く動き、複数のアンデッドを剣で斬り裂いていく。
彼女の攻撃は正確で、躊躇なくアンデッドを仕留めていく姿には、彼女がこれまで数多くの戦闘を経験してきたことが伺える。
俺たちは連携してアンデッドを一体一体確実に倒していった。俺は斬撃で次々と仕留めていった。ファントムスピードで素早い動きを繰り返し、戦いを優位に進めていく。
「まだだ!もっと倒すぞ!」
リリスとノエルがその言葉に応えるように、さらに強力な魔法と斬撃を繰り出す。
リリスの光の魔法はアンデッドにとって致命的なもので、彼女が放つごとにアンデッドの群れは瞬く間に消滅していく。
ノエルは絶妙なタイミングで、俺が捉えきれない敵を鋭い剣技で仕留めていった。
その動きは洗練されており、二人の協力によって、俺たちは数多くのアンデッドを次々と倒していくことに成功した。
気づけば、森の中は静まり返り、全てのアンデッドが灰と化して消えていた。




