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鈍 三

 朧山の山道を、ひとりの青年が歩いていた。すぐ後ろには仮面を被った少女を従えている。

 奇抜な格好の青年だ。真っ白い生地の和服。大きすぎる袖口、長い裾は足首の上で結んでいる。

 顔立ちは端正だが、長い髪は整えもせず乱雑にまとめられていた。


 深いため息。

「やってしまったな。まさか寝起きで(さく)とはぐれるとは」

 少女からの返事はないが、青年は気にせず続ける。

「結界の維持を任せていたから起きてすぐには会えないと思っていたが、まさか消えるとは」

 青年が林の暗がりを見ると、妖異がいた。異様に長い手足、黒くしわがれた皮膚、白目のない瞳。木の影から青年を見つめている。


 青年が視線を外すと、怪異は弾け飛んだ。後には汚い染みだけが残る。

「いやはや。生き返ったはいいものの、余計なものまで復活させてしまった。星の力とは恐ろしいものだ」

 星辰の動きに応じて発動する術。死んだ魂を蘇らせる、強力な術。


 千年ぶりに起きた青年は、世界を見るために式神を派遣していた。その一匹が、かつて退治した強力な妖異の気配を伝えてくる。

(にび)か」

 式神に偵察を命じる。


 鈍はそれなりの力を持つ妖異なので、現世から区切られた異界に潜んでいるはずだ。式神はすぐに異界の場所を突き止めた。

 しかし、意外な結果になった。

「……倒されている? この時代にもそれなりの術師はいるのか」

 金属の体はすでに霊力を失い、本体も見当たらない。

「……いや、違うな。朔か。あいつめ、こんなところで油を売りよって。妖異の肉なんぞ腹の足しにもならんだろうに」

 なあ、と仮面の少女、(えん)に尋ねる。


 偃は答えない。己の対になる式神にすら興味はないようで、ただぼんやりと宙に浮いている。

「ん? ああ、なるほど。そういうことか」

 いまだ鴉を使って気配を探っていたのだろう、青年は何かを見つけ、にやりと笑う。

「面白い。朔ほどの神格が人に憑依するか。……なんであれ、回収せんとな。行くぞ、偃」

 言って、青年は歩き出す。


 青年の名は堂本明仁。千年前に死んだ、妖怪退治の伝説を残す陰陽師。

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