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エピローグ

この関係に名前を付けるならば、家族だ。だけど世の中でありふれているものと、ふたりの間に結ばれてついたその名は、同じのようで少しだけ違っていた。


けれど、それで良いのだと今は思う。おはようとおやすみを誰よりも近くで伝え合い、病める時も健やかなる時も支え合っているのだから。



「ああーー!!なんということだ!!!」


この春に大急ぎで改装された大聖堂に、この世の終わりのような声が響き渡る。それを間近で聞いてしまったエレノスは柳眉を寄せながらも、声の主の頭をポンと優しく叩いた。


「今度はどうしたんだい? ローレンス」


「ああ!兄上!聞いてくれたまえよ!」


弾かれたように振り向いたローレンスは、両手いっぱいに抱いていた色とりどりの花々をエレノスの前に突きつけると、どれもこれも美しくて選べないのだと項垂れている。


一度機に様々な花の香りを嗅がされたエレノスは咽せてしまい、涙目になりながら花を見ることになったが、その中からある花を見つけ、一輪抜き取った。


「この花を中心に、ブーケを作ってあげるといい」 


「……さすがは兄上! 今から作れば間に合うだろうか?いや、間に合わせてみせる!!」


約束の刻までもう猶予がないというのに、大慌てで駆けていったローレンスをエレノスは苦笑しながら見送った。



今日はオルヴィシアラ王国で新王の戴冠式が執り行われる。

今からふた月前に王国は国王を失ったが、帝国の皇帝──ルヴェルグ一世の命により遣わされた皇弟ローレンスが、前王ロイスチェラムとオルシェ公とともに腐敗した政治体制、及び宗教制度を撤廃した。


一部の貴族からは非難の声もあったが、王国の貴族は揃いも揃って民に重い税を課しては苦役を強い、何十年もの間奪取を繰り返してきた為、民たちはローレンスの改革に大いに喜んだ。


新王となったのは、帝国へ婿入りをしていた第二王子のヴァレリアンであった。人々は驚いたが、大勢の護衛とともに城に入ったヴァレリアンの姿を見て、感嘆の息を零していたという。


また、ある老人はこう云った。

──陽色の王が帰還なされた、と。



長い夜が明け、いくつかの季節が過ぎ去り、王国にまた春がやってきた頃。


ある種の花を咲かせるために王国の庭師となったシェバスの元に、ひとりの子供が駆けてきた。


「──シェバス!僕を隠して!」


明朗な声に、花の手入れをしていた老人は目元の皺を増やし、元気に駆けてきた子供を抱き留めた。


「これはこれは、殿下ではありませぬか。またサボられるので?」


「シェバスなら喜んで協力してくれるって、ローレンス伯父上が言ってたんだ」


「…全く、あの御方は」


遠くから少年の名を呼ぶ声が聞こえる。おそらくまた勉学をさぼってここに逃げ込んできたのだろうとシェバスは察していたが、こんな事が遠い昔にもあったと思い返しているうちに、お迎えが目の前まで来ていた。


「──アルメリア」


それは少年の名前だ。王妃クローディアが愛する花の名をつけられた少年はシェバスの後ろからひょっこりと顔を出すと、こんなに早く見つかるなんて、と無邪気に笑う。


「父上は駆けっこが速いですね」


「得意だからね。──さあ、クローディアのところまで競争しよう。俺に勝ったら、勉強を抜け出したことは黙っててあげる」


「本当ですかっ!?」


「その代わり、先生にはちゃんと謝るんだよ。時間は無限じゃないんだから」


少年は父親が迎えにきたことが嬉しかったのか、元気よく頷くと再び駆け出した。


「いつも悪いね、シェバス」


「良いのですよ。国王陛下」


「その呼び方はやめてくれって言ってるのに」


シェバスは「ふぉふぉ」と笑うと、手入れ途中だった花壇の中から花を一輪手折り、少年の父親に差し出した。


「どうぞ、王妃様のお部屋に。今年も見事に咲きましたよ」


「ありがとう。きっと喜ぶよ」


「──父上ー!ハンデは嫌です!一緒に走ってください!」


競争をしようと言いながら、未だに動かずにいる父親に痺れを切らしたのか、少年が頬を膨らませて此方を見ている。


二人は苦笑すると、シェバスは一礼して仕事に戻り、国王──ヴァレリアンは花を手に駆け出した。



新王に跡継ぎが生まれたのは、即位してから一年後のことだ。


アルメリアと名付けられた王子は、白銀色の髪と海色の瞳を持つ父親似の子で、その翌年に生まれた子は母親に良く似た黄金色の髪の王女だった。


即位三年目に生まれた王子は、帝国の跡継ぎにと望まれ、ルヴェルグ一世の養子となった。



ヴァレリアン一世の名が歴史に刻まれ、その治世について記されていたのは、分厚い本のほんの数ページほどだ。

だが、その数十年の中で、彼は様々なことを成し遂げていった。


彼が王となってから、国には食べ物を求めて犯罪に手を染める子供がいなくなった。神に祈りを捧げる者も、血を吐くほどまでに働いて苦しむ者もいなくなった。


彼は王となるための知識や経験は歴代の王と比べたらないに等しかったが、民の声を聞き、民の生活を見て、努力し続けた。


その傍らで支え続けた王妃の名はクローディア。ふたりは時折お忍びで孤児院を訪れては、子供たちと手を繋いで遊んでいたそうだ。


本作品はこれにて完結です。書ききれなかったことを番外編で伝えていけたらな、と思います…!

お付き合い頂きありがとうございました。

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