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夢路(4)


それから四人はルヴェルグの執務室で宰相と合流し、防音壁で作られた隣室に移動した。人払いをし、ルヴェルグを中心に円形のテーブルを囲うように座る。


「二人とも、無事で何よりだった」


「ご心配をおかけしました」


ルヴェルグは眉を下げ、心臓が止まる思いだったと呟くとクローディアの頭を撫でた。その隣にいるリアンには優しく微笑いかけ、肩にそっと手を置く。


「事故の時の話は現場にいた者達から聞いた。突然時計塔が爆発したそうだな」


「はい。あれは事故だったのですか?」


「人為的に起こされたものだ」


やはり、とリアンは目を伏せる。爪が食い込む勢いで掌を握りしめたリアンを見て、クローディアはその手に自分の手を重ねた。


そんな二人を見て、ルヴェルグは一瞬だけ口元を緩めたのち、淡々とあの事故のことを語り始めた。


「調べによると、数日前にあの孤児院には物資が届けられたそうだ。送り主は国が定期的に送っている支援機関だったから、シスター達はすぐに中を確認しなかったらしい。…その結果、気づかずに仕掛けられていたものがあの事故を起こした」


「現場からは火薬の跡や燃えやすい植物、油を吸ったと思われるものも見つかっています」


宰相は銀縁のメガネを指先で少し押し上げ、紙の束をリアンに差し出した。それを受け取ったリアンはクローディアにも見えるように広げ、目を通していく。内容は事故の調査報告書だった。


そこには事件当日の目撃証言から、後日行われた大規模な捜査のことが記されていた。淡々とした文で書かれていたが、文字を追っていくにつれ、あの日の光景が蘇ってくる。


半壊した建物、痛みで苦しむ子供の鳴き声、燃え盛る炎。息をすることすら苦しかったあの時のことを忘れることはないだろう。

クローディアは書類から顔を上げた。


「ほとんどの子供たちは外で遊んでいたけれど、建物内にいた子供は怪我をしていたわ」


爆発に巻き込まれ、怪我をした者はほんの数名だったのが不幸中の幸いだ。多くの子供たちが外で遊んでいて、難を逃れたが、何の罪もない子供を巻き込んだ犯人を許すことはできない。


「物資を孤児院に届けたのは、あの地域の運送を担当している第八騎士団の者たちだ。いつもの時刻、場所で、いつも通りの仕事をしたという」


何者かが物資に爆発物を混ぜ、国一の規模の孤児院を爆発させた。偶然にもリアンがあの場所に到着して間もない頃に。


「あれは、誰を狙ったのでしょうか」


淡々とした口調でリアンは問いかけた。その声音から行き場のない怒りを感じたクローディアは、唇をきゅっと引き結んだ。ラインハルトと宰相も同じことを思っているのか、悔しそうな、悲しそうな表情でリアンを見つめている。


ただ一人、表情を変えなかったルヴェルグは組んでいた脚をほどくと、前を見据えたまま口を開いた。


「十中八九ヴァレリアン殿下を狙っているだろうな。あの爆発が起きた時刻が、犯人の“予定通り”ならばの話だが」


犯人はリアンを葬るために、訪問先の孤児院で事故が起きるよう仕掛けた。それで間違いないとルヴェルグは考えているようだが、何かが引っ掛かるのか、その目は卓上の書類へ注がれたままだ。


「……こんな時、あの二人がいてくれたら、と思う」


ルヴェルグが言ったあの二人とは、もう二人の兄のことだ。穏やかで優しいエレノスと、変わり者だけれど頼もしいローレンス。家族であり忠臣でもあるふたりを、ルヴェルグは誰よりも信頼していることをクローディアは知っている。


「ルヴェルグ兄様…」


「……悪い。らしくもないことを言ったな」


ふ、と何かが抜かれたような、淋しげな表情で。静かに弱音をこぼしたルヴェルグは、ぽすりとソファに背を預けた。


怪我人が出る事故が起きただけでなく、家族の行方も分からなくなって。片腕であるエレノスも戻っていない今、ルヴェルグは身体を休めるどころか、気を張りっぱなしだっただろう。


それでも傍に居たくて、クローディアはルヴェルグの元に戻ってきたが──まだ何もできていない。


連日の疲労が溜まっているルヴェルグと、そんな兄を見て胸を痛めているクローディア。そんなふたりを見つめていたリアンが口を開こうとしたその時、部屋の扉が勢いよく叩かれた。


「……何用か」


ルヴェルグが弾かれたように立ち上がる。ラインハルトも行こうとしていたが、ルヴェルグはそのまま座っているよう手で合図をした。


この秘密の部屋の前まで来られる人間は限られている。今室内にいる面々と、エレノスとローレンス。そしてもう一人は──。


「──セヴィ。何事だ?」


──セヴィ・ハディエス。ルヴェルグの腹心である青年は、扉が開くと同時に跪き、声を上げた。


「──エレノス様がお戻りになられました」


その報せに、クローディアも立ち上がった。


「お兄様がっ…!?」


クローディアは今にも飛び出しそうな勢いでルヴェルグの傍に駆け寄ったが、報告に来たセヴィが頭を垂れたまま入り口にいるので、その向こうに行くことが出来なかった。まだ何か伝えなければならないことがあるのだろうか。


「申せ、セヴィ」


「オルヴィシアラの王太子殿下も、ご一緒です」


「フェルナンド殿下が? なにゆえこのような時に」


「力になれれば、と仰っていましたが…」


セヴィは膝をついたまま顔を上げ、部屋の奥にいるリアンを見遣った。それから何かを察したのか、ルヴェルグはセヴィだけを連れて部屋を出て行った。


クローディアもその後を追おうとしたが、リアンがクローディアの手を掴んで引き留めた。


「リアン、どうして止めるの…?」


「忘れたの? エレノス様が疑われてること」


「分かっているわ。…でも、話してみないと分からないじゃない」


「話をして、分かることなの?」


棘のある言い方に、クローディアは口を閉ざした。

話さなければ分からないことを教えてくれたのは他ならぬリアンだというのに、どうしてそんなことを言うのか。

クローディアは呆然とリアンを見つめていた。


「……ごめん」


何に対する謝罪なのか。小さくそう呟いたリアンはクローディアの手を握ったまま歩き出し、執務室を出た。


先を行くリアンの背中から、その考えを読み取ることはできない。けれど、クローディアのエレノスに対する家族の愛情が、誰よりも大きく強いことを分かってくれたのだろう。


たとえエレノスが事件に関与していたとしても。何か理由があってのことだと、クローディアは誰よりも信じているから。


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