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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第1章 かつて魔術が存在した世界で
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呪文と奇跡

アリアの部屋の真ん中で考え込んでいたら、廊下の方から呼ばれた。


「殿下、よろしいでしょうか」


「ああ、シューミットか。何か見つかったか?」


「はい、現場での収集物の中から、古代魔術語と思われる文字が書かれてる物が幾つかありましたのでお持ちいたしました」


「ありがとう。こちらで確認する」


僕はシューミットからトレーを受け取ると、階下の書斎へ行こうと歩き出した。廊下を歩く僕の硬い足音がカツン、カツンと響いた。屋敷は静まり返っていた。


ふと立ち止まった。かつてのギルバートの部屋、今はアリアが横たえられている部屋の前だった。


「殿下?」


隣を歩いていたチェスターが僕に声を掛けた。


その扉を見つめ、ギルバートは好きな時に入っていいと言っていたことを思い出した。アリアの顔を見ようかと少し考えたが、扉を開ける勇気はなかった。


「いや、なんでもない」


再び歩き出し、静かに階段を降りた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


チェスターは廊下に待たせ、僕は一階の書斎に入った。


先程受け取った古代魔術語が書かれた収集物を机に並べて種類ごとに分けた。多くの破片は黒板だった。チョークで書かれたアリアの少しクセはあるが整った字を見たら、彼女が薬草についてメモをしていた姿が思い浮かんだ。他にはインクがはっきりとした新しい物も幾つかあった。


それらを除くと、古く黒ずんだ木片が一つと黄色く色褪せた小さなカード状の紙が二枚。この中に、アリアが読み上げた物があるのだろうか。


それが爆発を引き起こす呪文だったのだろうか。



―――魔法(ぎょく)と一緒に箱に入っていたのなら、紙のカードの方か?


書斎の本棚には、アリアが使っていた古代魔術語の辞書やアカデミーから出版された古代に関する書籍が揃っていた。僕がここで見るために置いていた魔道具の図鑑も一緒に並んでいた。


カードに書かれた単語がないか、まずは辞書を開いたが見つからない。いくつか調べるうちに、古代薬草図鑑に載っている薬草の名前と一致した。


―――そういえば…、だいぶ前にアリアが古い薬草棚をレイドナー教授から貰い受けたと言っていたな。その棚のラベルということか。


あの時のアリアの嬉しそうな顔を思い出し、もうあの可愛らしい笑顔が見られないと思うと胸が苦しくなった。




ハッと手が止まっていることに気づき、慌てて木片を手に取って辞書をめくった。


―――これ………か?


木片に並んだ二つの単語。その古代語の記号のような文字の並びが同じ言葉は……『解放』と…『力』__


「力を解放せよ…?」


声に出してから、もしかしたらまた爆発が起きるかもと一瞬焦って周りを見た…が、何も起こらず、はぁっと息を吐いた。


侍女が聞いたことのない国の言葉だと言っていたように、アリアは古代魔術語の発音で読み上げたのだろう。


《古代の発音で正しく呪文を唱えたから、魔法玉に込められていた何らかの力が爆発的に解放されたのかもしれない》


魔術の力による爆発であれば、物が焦げていなかったことの説明もつく。辿り着いた仮説がもっともらしく思えた。


古代語の発音――好奇心旺盛なアリアらしいが、そんなことまで勉強しなければよかったのに……


木片に書かれたどう発音していいか見当もつかない単語を苦々しく見つめていると、ノックもなく乱暴に扉が開いた。僕は飛び上がるほど驚いて部屋の入り口の方へ振り返ると、チェスターがそこに立っていた。


常に落ち着いている彼の慌てた様子に、身構えながら何があったのか聞こうとした。


「どう……」

「殿下っ!アリア様が___」


僕はアリアの名を聞いて立ち上がり…


「___目を覚まされたと…」


チェスターの言葉が終わらないうちに彼を押し退けるように部屋から飛び出した。階段を駆け上がり、少し開いた扉を大きく開けると、アリアがベッドに座っていた。



先に着いていたギルバートが、彼女を抱きしめていた。


「兄様…、く、苦しいわ……」


ギルバートが「すまない」と慌てて手を離したが、すぐに再びそっと抱きしめた。その腕の中でアリアがふふふと笑っている。


―――ああ、アリアの声だ。


僕はほっとしたら力が抜け、その場に座り込んだ。

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