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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第1章 かつて魔術が存在した世界で
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残っていない手掛かり

爆発が起こった翌日、僕は朝から再びハンティントン邸を訪れていた。


調査班のリーダーをしているシューミットが、アリアの側付きの侍女達に話を聞くというので同席を願い出たのだ。


ハンティントン邸は郊外の静かな場所に建ち、周りは白樺の林と野原に囲まれている。小川にかかる橋を渡り、小高い丘を登って屋敷の正門をくぐった。


いつもは穏やかな雰囲気の屋敷の中は、暗く沈んでひんやりとした空気が流れていた。今日は出迎えは断っていたので、僕はチェスターと共に、事前に聞いていた侍女らが治療を受けている部屋に向かった。



部屋の前ではシューミットが既に待っていた。


「ライナス殿下、おはようございます」


「おはよう。急に同席させてもらってすまない。聞き取りは貴殿に任せる」


「はい、かしこまりました。では、入りましょうか」


シューミットに促されて部屋に入ると、アリアの側にいた侍女が二人、並んだ寝台に横になっていた。二人とも飛んできた木片でできた切り傷や壁に叩きつけられた打ち身など、あちこち包帯を巻かれていた。その怪我の程度と経過を僕らを出迎えた医師が説明し、最後に言った。


「しばらく安静が必要ですので、寝たままの姿勢でお願いいたします」


「ああ、それで構わない」


そして僕は部屋の壁際に立った。椅子が用意されていたが、座って話を聞く気持ちになれなかった。


シューミットは、侍女達と視線を合わせるため、寝台の間に置かれた椅子に座り、その後ろには記録係がノートとペンを構えていた。


「まだ体も辛いところ申し訳ないが、貴女方が知っていることを聞かせてもらえるだろうか」


「はい」とシューミットに向かって返事をした栗色の短い髪の侍女が話し始めた。


「お嬢様は、部屋にお戻りになってすぐに手にされていた箱から青い玉を見せてくださったんです。『綺麗でしょう』って大変嬉しそうにされていました」


心臓がドキンと跳ね、思わず口をはさんでしまった。


「それは……私が渡した物だ」


僕が渡したあの魔法(ぎょく)が爆発の原因だろうか。しかし、爆発現場での収集物の中に、青い魔法玉はなかった。小さな欠片(かけら)すら見当たらず、部屋には持ち帰らなかったのかとも思っていた。跡形もなく弾け飛んだということだろうか。それとも………


「それを棚に置かれるところまでは見ました。その後は、お嬢様にお茶をお出しするために、私は自分の手元を見ていたので曖昧なのですが…『これは何かしら』と仰ってから何かを読み上げて……」


「何かとは?」


「わかりませんでした。聞いたことのない国の言葉でしたので…」


「どこの国だろうか…?」


シューミットは見当もつかない様子だったが、僕は魔法玉と聞いて、思いついた言葉があった。


「古代語か?」


「薬草のことが書かれていた古い言葉ですね。……そうかもしれません」


僕の発言に答えたのは、もう一人の癖のある赤毛の侍女だった。


「その言葉が爆発の引き金になったのだろうか?」


「………わかりません。申し訳ございません、その後のことは………お嬢様が…、アリア様………申し訳…」


その後は言葉にならなかった。僕は侍女の震える肩に手を添えた。


「辛いことを思い出させて申し訳なかった」


赤毛の侍女は首を振るばかりで、益々涙が溢れていた。もう一人の侍女も、それ以上に知っていることはなく、ただ涙を流すだけだった。



控えていた看護師達に侍女らを任せて、僕はシューミットと共に部屋を出た。


「アリアが読み上げた物は、収集した中にあるだろうか?」


「申し訳ございません。まだ確認できておりません」


「貴殿も今、聞いたばかりだ。把握していなくても問題ない。すぐに確認をしてくれるか」


「はっ、では御前失礼致します」


シューミットは敬礼して、足早に立ち去っていった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


僕はもう一度アリアの部屋の入り口に立っていた。


昨日の夕方に聞いた調査報告を思い出しながら、昨日のまま残されたその場に足を踏み入れた。一通りは記録が済んだと聞いているが、できるだけ落ちている物を踏んだりしないように慎重に歩いた。


現場で見つかった物からは、爆発の原因と考えられる物は見つからなかった。部屋にいた侍女二人も、火薬やガスの臭いはしなかったと言い、大きな窓から十分な光が差し込む時間だったため、小さなランプすら点けていなかったと報告書に記録されていた。


侍女らの証言と、床に粉々になって落ちていた木製の棚の残骸やガラス類の飛び散り方から、アリアが壁際の棚の前にいる時に、そのあたりから爆発が起こったようだった。ただ、二人ともその瞬間は別のところを向いていたため、確証はないのだが…。


―――何か見落としてはいないだろうか。


アリアが立っていたであろう棚があった場所に立ってみた。


大きな物は調査班によって既に収集されたが、足元には棚の残骸の他、割れたティーセットやグラスの小さな破片が無数に落ちていた。


けれども、あの青い魔法玉は特徴的で欠片でもわかるだろうが、収集物の中にはなく、この足元にもやはり見当たらなかった。


―――やはりあの魔法玉は消えてしまったのだろうか。だとすると…


周りを見回して、昨日、アリアを蘇生をしなかったことよりもまず先に感じた違和感を思い出した。それは、何も焦げていない事だった。


アカデミーの研究室であれば、実験で急激に発生した気体だったり、何かを圧縮した時に容器が耐えきれなかったなど、様々な要因が考えられるが、こんな居室で爆発が起きるとすれば、ランプなどに使われる可燃性の燃料や悪意を持って仕掛けられた火薬に火がついて起きるだろう。それなら、飛び散った残骸に焦げた跡があるはずだ。


それが、焦げた物が一切なかったのだ。棚の前辺りを中心に扉も窓枠も吹き飛ばす威力で……


魔法玉が残っていないことで、過去に読んだ魔術の本に書かれていた内容を思い出していた。でもそんな事がここで起きたんだろうか。誰かに話して信じてくれるだろうか。


自分でも信じられず考え込んだ。

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