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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
エピローグ
58/59

白藍の宮殿にて

王城からほど近く、王都郊外に建つセレスティレイ宮殿。少し青みがかった白い石造りの建物は、白藍(しらあい)宮とも呼ばれる美しい宮殿だ。数百年前、当時の国王が愛する妃のために建てたもので、その後も王子や王女の住まいとして使われてきた。


現在のこの宮殿の主人(あるじ)は、第七王子のライナス・エドワードⅢ・シュワルツ。二十歳を迎えたばかりの若い王子だ。王位継承の重責がないからか、明るく親しみやすい雰囲気で、それでいて国のために献身的に行動する一面もあり、あまり表立って国民の前に立つことはないのに皆から愛される王子だった。


その王子が、つい先頃、ハンティントン侯爵家令嬢のアリア・ローズマリーと婚約して宮殿に迎え入れ、王都を中心に祝福ムードが広がっていた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


宮殿の一室、大きな窓から光がたっぷりと差し込む明るい部屋に、コの字に大きな机が三つ並んでいる。真ん中の一番大きく細やかな彫刻が施された机に、王子のライナスが座って確認した書類にサインを書き入れていた。


彼は魔法庁長官の任に就いてから王立アカデミー内に執務室を持っていたが、誰でも立ち入れる場所では警備上問題があるとの理由で、このセレスティレイ宮殿に執務の場を戻していた。



王子から向かって右手の机には側近のチェスターが山積みになった書類を分類しては席を立ち、ライナスの机へと運んだ。


そして左手には、控えめなオフホワイトのレースがあしらわれた群青色のドレスに、すっきりとしたまとめ髪のアリアが座っていた。数冊の辞書を繰りながら何かを訳しているようだ。


婚約を公式に発表してすぐに、ライナスはアリアを守るため、そして常に側にいられるようにと魔法庁長官の補佐に任命し、共に執務にあたっていた。ただ簡単な書類整理だけと思われたが、彼女の古代語の知識は、古い文献の解読に大いに活かされることとなった。




「ライナス様、まだ一部ですが…」


そう言ってアリアが書類を手に立ち上がり、ライナスの机の前に立った。


「ああ、見せてくれ」


ライナスは受け取った書類のうち、アリアが手書きしたものに目を通した。


「これは…、青星(せいせい)(れき)528年…今から1500年くらいも前なのか」


「はい、あの魔法玉と一緒に見つかった書物です。インクが薄れて読めないところも多いのですが、わかった部分を書き写したものをレイドナーの叔父様が今朝持ってきてくださって」


アカデミーで長年、魔術史学を研究しているレイドナー教授が、古代魔術に関する物品の発掘調査で見つかった書物――魔術師が残した手記と思われるものの現代語訳をアリアに依頼していた。


アリアが差し出したのは、教授から渡された手記の写しとそれの一部を訳した内容だった。ライナスは、アリアが訳した文章を読み進めた。インクが薄れて読めなくなった部分は空欄になっているが、それを一通り読み終えると顔を上げた。


「魔術師が、魔術が途絶えそうなことを危惧して、後世に何かできないか試行錯誤している、ということか?」


「そうみたいです。文章が多く残っている箇所から訳すよう言われたので、背景がわからない部分があるのですが…」


「それなら、残りを訳していけば、わかることもあるかもしれないということだな」


「ええ、そうですね。では、続きを…」


アリアは自分の机へと戻ろうと書類をまとめ始めた。ライナスは、アリアが手にした書類をさっと取り上げて机の端に置くと、立ち上がった。


「あっ…」


驚いて書類の束を目で追うアリアを見て、ライナスは笑顔になった。おそらく彼女がどんな表情を見せても愛しくて仕方がないのだろう。


「僕もキリがついたんだ。少し休憩しないか?」


ゆっくりと歩いて机を回り込んでアリアの隣まで来ると、その肩をそっと抱いて額にくちづけた。


「ラ、ライナス様、お忙しいのではないですか⁈」


まだ従者がいる場所でのふれあいを恥ずかしがるアリアの様子を、ライナスは楽しんでるようだった。アリアのほつれた髪を指先に絡めて耳にゆっくりと掛けた。耳を(かす)める指先の感触に、アリアはますます赤くなった。


「チェスター、構わないだろう?」


「はい、残りは明日でも構いません」


ライナスの机に積まれた確認済みの書類を確かめて、チェスターは笑顔で答えた。


「アリアとの時間を作りたくて、朝から頑張ったんだ」


「それなら…」


アリアも少し頬を赤らめたまま微笑んで、ライナスの腕にそっと手を添えた。


「今日は噴水の横に日陰を作ってもらっている。そういえば、シェフが新しいレシピのタルトを焼くって言ってたな」


「それは楽しみです」


「ああ、それから…」


二人は楽しそうに話しながら部屋を出ていき、その後ろを護衛の近衛兵が二人ついていった。がっしりした長身の黒い短髪の方が王子の護衛長のロバート。そして、赤みがかった茶色い癖毛で細身の男はチェスターの部下だったケインだ。今はアリアの専属の護衛となっていた。



「いってらっしゃいませ」


チェスターは皆を見送ると、王城へ報告に向かうため、確認を終えた書類を手に廊下を皆とは反対の方へ歩き出した。


馬寄せへと続く渡り廊下を歩きながら庭を見下ろすと、夏の中月(なかつき)の強い日差しをキラキラと反射する噴水の横に、白い大きな布が木々の間に張ってあった。そして風にはためく布の下に花で飾られたテーブルが見えた。


テラスから庭に降りたアリアが、その華やかなテーブルを見て満面の笑みで準備をした使用人達に感謝を伝えていた。渡り廊下まで声は届かないが、アリアの笑顔と恐縮する使用人らの様子、そして少し離れて様子を見守るライナスの嬉しそうな顔を横目で見ながら、チェスターまで顔が(ほころ)んでいた。


パタパタと音を立てる日除けの布へ目線を上げたアリアが、その先にいたチェスターに気づいた。ライナスの方へ振り返って一言二言交わしてから、もう一度渡り廊下を見上げてチェスターに向かって手を振った。


チェスターも小さくお辞儀をして笑顔を返した。



穏やかで温かい雰囲気に包まれた庭が視界から外れると、チェスターの顔は厳しくなった。手にしている書類には、あのウェーンブレンの襲撃の追加調査内容が記されてた。

これで一旦完結です。毎話読んでくださる皆様がいて、ここまでお話しを綴ることができました。ありがとうございます。


まだ青星の水晶の物語として書きたいことは残っていますが、ライナス王子とアリアが幸せな時を迎えた時で、一度話を区切ります。再開しましたら、また二人のことを一緒に見守っていただけましたら嬉しいです。


千雪はな

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