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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第4章 不安と祝福と
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バラの花を君に(後編)

「ありえないと言ったのは、私が王家に嫁ぐことです」


僕の求婚に対して「それは、絶対にありえません」と言った意味を、アリアはそう説明した。


僕が彼女の婚約者としてありえないと言われたのかと落胆していたが、そうではないことがわかり安堵する一方、まだ彼女が言わんとすることが掴めずにいた。


「なぜ、アリアが王家に嫁ぐことがありえないのか教えてくれるか?貴女なら、身分も教養も誰もが認めてくれるのに…」


そんな心配がないように、先に周りの了承を得たのだ。その心配はいらないことをアリアにも説明しようとしたが、彼女は首を横に振った。


「私の資質以前に、ハンティントン侯爵家と王家の婚姻が不要だと…」


アリアはだんだんと俯いていき、声も小さくなっていった。


「不要だと誰かに言われたのか?」


「………兄様に」


「ギルバートに?いつ?」


僕には婚約を了承すると公式に文書まで送ってきたのに、アリアにはそんなことを言って、彼女から断るように仕向けていたのだろうか。


―――やはり本当は、可愛い妹を王族の一員としての責を負う立場に立たせるよりも、普通の貴族へ嫁がせた方がいいと思っていたのか?


そう考えても仕方がないと思いつつ、先日、アリアのことを任せると言い、婚約相手としてギルバートは認めてくれたと思っていたから、僕はショックを感じずにはいられなかった。


いつの間にか僕も俯いていた。


アリアの答えを聞こうと顔を上げると――なんだか様子が思ったのと違った。下を向いていてよく見えないが、その表情は申し訳ないというより、照れてバツが悪そうな感じがする。ふと気がつくと、髪の間からのぞく耳の先まで赤くなっていた。


「アリア?」


「あっ…あの…、二、三年前…」


「二、三年?」


思ったより前の話だ。


「…兄様に、私がライナス様のことをお慕いしていると気づかれてしまって……」


「………⁈」


落ち着いていた僕の心臓が再び跳ね上がった。


「そうしたら、我が家と王家が婚姻を結ぶ必要はないから、私が殿下のお相手に選ばれることは絶対にありえない、って……」


『ありえない』とアリアが言った理由はわかった。アリアの曾祖母は王家から嫁いでいる。三代前の国王が大変可愛がったローズマリー王女であることは、よく知られている。その王女を託された当時のハンティントン侯爵が、いかに国王から信頼されていたかがわかる余話(エピソード)だ。さらに、今の当主ギルバートは僕の親友だから、政略的な意味を考えると、僕とアリアの婚姻は必要ないということだ。


―――そんなことはどうでもいい。その前にアリアはなんて言った?


「……アリアが、僕を……」


―――慕ってくれていたって…?


恐る恐るアリアが顔を上げた。様子を伺うように僕に向けられた瞳は、深い青色の中に滲む緑や白が揺らめき、吸い込まれるように見入ってしまった。


「あの…」


アリアの遠慮がちな声に我に返ると、彼女は真っ赤な顔をして僕の言葉を待っているようだった。


「あっ、すまない」


じっと見つめすぎて恥ずかしく思わせてしまったかと謝った。


「そうですよね。私の気持ちなんて…ご迷惑なだけですね」


―――いや、そんなことは…


「殿下にはもう何年も前から候補の方がいらっしゃったのに、今回のことで破談にして私との婚姻を結ばなければならなくなってしまって……私…、なんとお詫びを申し上げ…」

「いや、違う!」


説明の足らない謝罪の言葉で、アリアが誤解したことに気づいた。早口で話し始めたのを、僕は慌てて遮った。


「ち、違うんだ。えっと…なんと言えばいいんだろうか……」


こんなしどろもどろでは、子供の頃なら教育係に怒られていたところだろう。言葉が出てこないことで僕も焦りそうになったが、これではいけないと、ゆっくり息を吐いた。


僕は、再びアリアの瞳を真っ直ぐに見た。


―――こういう時は、取り繕おうとしないこと。


もう一度ふぅっと一呼吸置いてから、「アリア」とその名を呼んだ。


「はい」


小さな声で返事をしたアリアもこちらを見つめ返して、僕の言葉を待った。


「僕は貴女のことが好きだ。心から大切に思っている」


アリアはバラの茎を両手で握りしめて目を見張っていた。僕の気持ちは、彼女には予想外だったのだろう。僕は最後まで続けた。


「生涯、貴女のことを守ると誓う。だからこの先ずっと僕の傍にいてほしい」


敢えて簡潔な言葉を選んだ。僕らの関係に政略的な意味も、誰かへの遠慮もいらないことを納得するまで説明するより、僕の気持ちを真っ直ぐに伝えたいと思った。


「アリア、この手を取ってもらえないだろうか」


僕は再び片膝をついて右手を差し出した。


気持ちを全て吐き出したことで、吹っ切れたようだ。あんなに緊張していのが嘘のように、僕の気持ちは落ち着いていた。


アリアが僕の言葉を心の中で反芻し、なんと答えるべきか考えていることがわかった。



「私でいいのでしょうか…?」


「ああ、貴女がいい」


アリアは手元のバラの花をじっと見つめてから、彼女の右手をそっと僕の手のひらに乗せた。


「………夢みたい」


少しはにかみながらそう呟くアリアを見つめながら僕は立ち上がり、彼女をそっと抱きしめた。アリアの鼓動が僕に伝わってくる。それだけでたまらなく愛しくて、その髪にくちづけた。


アリアは僕の腕の中で顔を上げて優しく微笑んだ。こちらを見つめる宝石のような瞳に吸い込まれるまま、アリアに顔を寄せた。お互いに静かに瞳を閉じるのに合わせて、ゆっくりと唇が重なった。

これで本編は一旦おしまいです。あとエピローグを投稿したら完結とします。ここまで読んでいただきありがとうございます。


エピローグは、まだ完全な完結ではないので、ハッピーな後日談ではなく、今後のお話に備えて人物紹介の要素を入れた内容にしようかと思っています。お時間がありましたらお読みくださいませ。


続きのお話は、時期は未定ですが、是非書きたいと思っています。また機会がありましたら、お付き合いいただけましたらとても嬉しいです。

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