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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第4章 不安と祝福と
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花言葉

ギルバートと話をして数日後、ハンティントン侯爵家から公式に婚約を了承する旨、返信が届いた。《ただし、アリアが望むのであれば》との彼の念押しする気持ちがひしひしと伝わってくる几帳面で力強い字の添え書き付きで。


―――それはわかってるよ。


その一言が書かれた紙を手に、僕は小さく笑った。




侯爵家からの返事が来るまでに、婚約者候補の家や王家を支える主要な者達など思いつく限り必要だと思う相手と話をして、了承の言葉をもらっていた。特に婚約候補だった家の当主や令嬢方については、僕が二十五歳になるまでに望む相手がいなければ正式に婚約するとの条件があったものの、こんなにも温かく祝福されるとは思っておらず、驚くと同時に感謝の気持ちになった。


―――祝福されたのはいいが、まだアリアに求婚もしていないのだが…


そう、アリアにはまだ何も話していないのだ。僕との婚約について反対する者からの心ない言葉をアリアにぶつけられることがないようにと思い、まずは周りに認めてもらうことを優先した。


ハンティントン侯爵家からの了承も得られたことだから、いよいよアリアに僕の気持ちを伝える時が来た。


―――これでアリアに断られたら、かっこ悪いな。


一人でふっと笑ったが、そう考えたら急に自信がなく不安になってきた。アリアが王族なんて様々な制約がある窮屈な立場になりたくないと思っても不思議ではない。


―――今の身の危険がある間だけでもと言えば、受け入れてくれるだろうか。それだと、危険がなくなれば、僕の元から去ってしまうのだろうか……


不安になると、考えが後ろ向きになってくる。


「これじゃ、ダメだな」


「えっ、殿下、どうかされましたか?」


チェスターの聞き返す声に、僕は彼と書類の確認をしていたことを思い出した。まだ本格的な執務には戻っていないが、今回の襲撃の調査と後処理のための報告書の確認などは、フィリップ兄上から頼まれていた。


「ああ、すまない。独り言だ。午後のことを考えていた」


「なるほど。少し休憩されますか?」


「いや、大丈夫だ。早く片付けてしまいたい」


「では、こちらの確認をお願いいたします」


差し出された新たな書類の束を受け取った。ウェーンブレン宮殿にいた護衛の兵達や魔術調査班の研究官ら、使用人達から聞き取った奇襲前後の調査書だ。襲撃した実行犯は全て捕えたが、その者らだけで企てたとは考えていない。まだ見えてこない背景――組織の規模、首謀者、そしてアリアを狙う目的を掴む糸口がないか、注意深く記載された内容を一つ一つ目を通していった。




「よし、これで終わりだ」


襲撃に関する僕の所見をまとめた書類にサインを書き入れると、それをチェスターに手渡した。


「お預かりいたします。ちょうど昼食のお時間ですので、食堂に向かわれますか?それともこちらに運ばせましょうか」


「食堂に行くよ」


今日予定していた執務を全て終えたことだし、執務室(ここ)ではなく食堂でゆっくりと昼食を取りたいと思った。何より、気持ちを落ち着けたかった。


「かしこまりました。では私はこちらを提出してまいります」


チェスターは書類をまとめて手にすると、一礼して部屋を出ていった。僕も席を立ち、護衛のロバートと共に食堂へと向かった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


渡り廊下を歩きながら、中庭の方を見た。


今日の午後、この中庭でアリアと約束をしている。その場で求婚をするつもりだ。そのことを考えると、ドクンドクンと心臓が大きく鳴った。ふぅっと息を吐き、務めて落ち着くようとするが、なかなかうまくいかない。


視線を反対に向けると、庭師がバラ園の手入れをしているのが見えた。昔から王城の庭の手入れをしているノーマンだ。僕が幼い頃は、季節の花や木々の特徴を教えてくれる話が面白くて、仕事をしている彼を見つけると走り寄っていた。


僕はふいっと庭へと降りた。


「殿下⁈」


ロバートが驚いて僕に声を掛けた。


自分のことで頭がいっぱいだった。何も言わずに急に進路を変えれば驚くのも当然だ。


「すまない。ちょっとノーマンに頼みたいことがあって」


そう言うと、ロバートは黙ってついてきた。




「ノーマン」


「ああ、殿下。どうかされましたか?」


僕が声を掛けると、振り返って帽子を取り、日焼けした顔をくしゃっと笑顔にした。


「綺麗に咲いているな」


「はい。ここの区画は今の時期に咲くように育てていますので、ちょうど見頃です」


目の前には鮮やかな赤色のバラが咲き誇っていた。


「一本分けてもらえるか?」


「もちろんでございます。一本でよろしいですか?」


「ああ。午後のお茶の時間あたりに用意してほしい」


「かしこまりました」


何のためになど無粋なことを聞かずとも、ノーマンは僕がなぜバラを欲しがったのか察したようだ。『あの小さな王子が…』と顔に書いてあった。


花言葉をいろいろと教えてくれたのはノーマンだ。一輪の赤いバラに《私には貴女しかいない》という意味があると言うことも。


僕は急に照れ臭くなって「じゃあ、頼んだ」と少しぶっきらぼうに言って、食堂へと再び歩き出した。

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