当主として、兄として(後編)
穏やかに笑うギルバートに、僕はアリアへの気持ちの変化を順を追って話した。好きだという気持ちを抱いだいたのはごく最近だ。それでも心から妃にと望んでいることが伝わってほしいと、できるだけ細かいところまで言葉で表した。
どれだけ彼女が可愛らしくて、愛しくて、僕の全てをかけて守りたいと思っているか――
「わ、わかった。ライリーの気持ちはわかった」
ギルバートの声に、僕は自分だけが夢中になって話していることに気づいた。
「すまない。つい……」
「ははは、ライリーの話を聞いて安心したよ。アリアの身の安全のためだけに婚約の話が出たのかとも思っていたんだ。気持ちの伴わない婚姻であれば、アリアが寂しい思いをするかもと、少し心配だったんだけど」
「そんな思いはさせない。一生大切にすると誓う」
僕の勢いに、ギルバートは少し気圧されたように笑った。
「ギルバート、」
僕は今日、侯爵邸ここに着いてから疑問に思っていたことを聞いてみた。
「僕に対して怒っていないのか?アリアがどんな目にあったのか、聞いたんだろう?」
「ああ、聞いている。でも、お前がどうアリアを救ってくれたかも聞いた」
「いつの間に…」
「お前達が帰城した日に、フィリップ殿下に呼ばれたんだ。そこで仔細を聞いて、アリアにも会わせてもらった」
「兄上に?」
「ああ、殿下には、アリアを騎士団の保護下におきながら危険に晒したと畏れ多くも頭を下げていただいた。アリアからもお前が命懸けで助けてくれたと聞いたんだ」
「そうだったのか」
「殿下から伺った話から、どれだけ組織立って襲撃されたのかわかった。我が家の護衛ではとても対処できない。その状況からアリアを助けてくれたんだから、ライリーがいてくれてよかったと思っている」
「そんな…」
やはりよかったと言われるのは申し訳ない。そう思ったが、ギルバートはすっと立ち上がった。
「アリアを助けてくれて、心から感謝している」
そう言って深々と頭を下げた。
「やめてくれ、バート」
僕も慌てて立ち上がり、ギルバートに座るよう促した。彼はソファに再び腰を下ろすと、落ち着いた声で言った。
「その話の後、王室から婚約の申し込みの書状が届いた。アリアの安全を考えると、これ以上の環境はないと思う。アリアさえ拒まなければ、ハンティントン家として断るつもりはない。ただ…」
「ただ?」
ギルバートはふっと笑った。
「アリアを嫁に出すのが寂しいだけなんだろうな。ライリーが、アリアの身の安全のためだけに婚約を考えているのなら、脅威がなくなるまでと期限をつけて、いずれは婚約解消を条件にしようかとも思っていた」
「そんなっ!僕は、アリアに危険があろうとなかろうと側にいたい。僕がきっと彼女を幸せに…」
「はははははは!」
アリアへの気持ちを必死で伝えようとした僕の言葉は、ギルバートの笑い声で遮られた。
「わかったよ。ライリーの話を聞いて、すっきりした。アリアのことはお前に任せる」
僕を真っ直ぐに見て、ギルバートは続けた。
「ただし、アリアが悲しむようなことがあれば、すぐに連れ帰るけどな」
僕も背筋を伸ばして言い返した。
「それは絶対にない」
僕らは揃って笑い声を上げた。




