悪夢と安堵
アリアを抱きしめながら、ふと思った。
―――今なら魔力も十分あるし、アリアの肩の傷を治してあげられるんじゃないだろうか。
僕は背中に回した手をこっそりアリアの右肩の後ろにかざし、心の中でアリアの傷が治ることを願いながら気持ちを集中させた。
手のひらが温かくなって、そこから放たれる淡い光が傷の辺りを包んだ。服の上からだから傷の状態も、それが治っているのかもわからないが、少し痛みが取れるだけでもいいと思っていた。
「ライナス様⁈何をなさっているのですかっ!」
アリアがパッと右肩の方を振り返った。
「ははは、やっぱりバレたか」
「わからないと思ったのですか?」
驚くだけかと思ったら、どうやら怒らせてしまったらしい。僕が思ったより、アリアには心配をかけていたようだ。
「すまない。でも、先に聞いたとしても治癒の魔法をかけさせてはくれないだろう?」
「当たり前です。殿下は安静にしていただかないといけないのですよ」
「でも、本当にどこにも不調がないんだ。魔法切れしてすぐにアリアが魔力を十分に分けてくれたからだと思う」
「今は大丈夫でも、後からどこかに不調が出るかもしれません」
「そうかもしれないが……、アリアの傷が気になって眠れなかったら、それが原因で不調になるかもしれない」
「そんなの屁理屈です」
可愛らしく頬を小さく膨らませて怒るのを見て、僕は笑いたくなるのを堪えた。笑ったら、きっと更に怒らせてしまう。
「屁理屈じゃないよ。昨日から何度も夢でアリアが斬りつけられる光景が夢に出ては飛び起きるんだ。僕がしっかり守っていれば、君はあんな怖い思いも、こんな傷を負うこともなかったんだから」
昨日から丸一日寝てはいるが、本当に何度も夢にうなされていた。アリアが斬りつけられたあの時の光景だったり、実際には起こっていないアリアが魔力切れを起こして苦しむ姿だったり……冷や汗をびっしょりとかいて飛び起きた。これ以上悪夢を見たくなくて起きていようと思っても、体は疲れているようで、また気を失うように眠りに落ち、悪夢を見る…それを繰り返した。
こうしてアリアが僕の横に座ってくれている姿を見るだけで、涙が出そうだった。彼女が痛い思いをしているなら、それを少しでも治してあげたいのに、アリアは首を横に振った。
「ライナス様のせいではありません…」
「いや、やっぱり僕の責任だ。傷を治したからといって許されるものではないけど、治癒の魔法をかけさせてくれたら、少しは安心して今日は眠れるかもしれない」
「そんなの…」
そんな言い方をしたらアリアが困るのはわかっていたが、それでも彼女の怪我を癒したかった。
「そうだ、アリアが先に魔力を僕に渡してくれたらどうだろうか。その分しか治癒の魔法は使わないから」
「でも……、魔術を発動するとライナス様の体力が奪われるのでは?」
「その時はアリアが癒してくれるか?」
―――アリアの魔術のレベルなら、疲労を癒す程度なら彼女が疲れるほど魔力を使わないだろう。
なんだか無理矢理だが、僕がアリアの傷を治さないと気が済まないことは伝わったようだ。アリアは小さくため息を吐いた。
「それなら……」
アリアは渋々僕の申し出を受け入れて、両手を差し出してくれた。




