伝わる鼓動
アリアを妃に迎えたい。
昨日の報告の時、そう兄上達の前で口にしたことで色々なことが前へと進み始めようとしていた。アリアは、皆に祝福されて王室へと迎え入れたい。
そのために、まず話をしなければいけない相手、ハンティントン家当主ギルバートとの約束を取り付けた。先程返事が届き、三日後に侯爵邸でその場が設けられることが決まった。
―――三日後……、ギルバートにどんな顔をして会えばいいのか。アリアをあんなに危険な目に合わせたのだから、何を言われようとも受け止めるつもりだが…
「殿下、大丈夫ですか?」
ハッと声の方を向くと、チェスターが心配そうな顔をしていた。
魔力切れでダメージを受けた僕の体は、アリアの治癒の魔法のおかげですっかり回復していて、多少の疲労感が残っているだけだった。しかし例の如く、数日間の安静を指示されていた。
吐血したことをうっかり言ってしまったものだから、自分の離宮ではなく、医師らが常駐する王城内で静養をしていた。
頭がぼーっとして重い感じがするのは、昨日の昼過ぎから丸一日寝ていたからだろう。もうこれ以上は眠ることもできず、寝台の上に座ってぼんやり窓の外を眺めていた。
「すまない。大丈夫だ。少し考え事をしていた」
「もう少し横になられますか?」
「いや、さすがにもう眠れない」
「では、アリア様がお見舞いに来られたいと仰っていましたので、お呼びしてもよろしいでしょうか」
「本当か⁈」
自分の声が思った以上に明るくて、少し恥ずかしくなった。チェスターも僕の様子を見て小さく笑った。
「かしこまりました。少しお待ちください」
◇ ・ ◇ ・ ◇
コンコンコンと扉がノックされ、チェスターがアリアを連れて戻ってきた。
「では、失礼いたします」と言ってチェスターが退出すると、アリアは心配そうな顔で僕の方へと走り寄ってきた。
「ライナス様、大丈夫ですか?」
「ああ、君が治してくれたからね。ダンスも踊れそうなくらいだが、皆を安心させるためには、もう数日はここで過ごさないといけないみたいだ」
僕がため息を吐いて笑うと、アリアも「それなら、よかったです」と笑って、寝台の横に用意された椅子に座った。
「アリア、怪我の具合は?」
「もうしばらくダンスは無理そうですが、普通に生活するには問題ないですよ」
そう言ってにこっと笑った。その笑顔が可愛らしいと思って見ていたら、アリアは僕の手を取って真剣な表情になった。
「あの場でライナス様が止血してくださっていなければ、命が危なかっただろうとお医者様に言われました。命を救ってくださってありがとうございました」
そして、僕の手をぎゅっと握って「でも、殿下のお命を危険に晒すのはもうおやめくださいね」と、少し大袈裟に怒った表情を作って付け加えた。
「ああ、わかった。気をつける」
僕は、繋いだその手をぎゅっと引いた。アリアは椅子から立ち上がった勢いのままこちらへと倒れかかり、僕は彼女を両手で受け止めた。
「ライナス様⁈」
僕の胸元で見上げるアリアの驚いた顔が、たまらなく可愛かった。
「急にすまない。少しだけ、こうさせてくれ」
僕はアリアの肩の傷には触れないように気をつけてアリアを抱きしめて、その髪に頬を寄せた。背中に回した僕の手に伝わってくるアリアのトクン、トクン…と規則正しい心音がとても心地よかった。
驚いて身を縮めていたアリアは、ふぅっと力を抜き、無言で僕の胸に頭をもたせかけた。そして遠慮がちにアリアの手が僕の背中へと回った。
背中に触れる小さくて柔らかな手のひらが温かく、僕のことを確かめるように力のこもる華奢な指先がくすぐったい。
―――アリアが無事で本当によかった…
言葉は交わさなくても、お互いの温もりを感じる静かな時間をとても幸せに感じた。




