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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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[幕間]想い合う二人(中編)

『想い合う二人』はライナス王子の従者チェスター視点のお話です。

アリア様を(なた)で切り付けた女が、私に向かって剣を捨てろと叫んだ時、足元に冷たい空気が流れてきたのを感じた。


間もなく夏を迎えるこの時期には不自然な冷たさに私はハッと気づいた。


―――殿下の魔術だ。


殿下がアカデミーの外れの丘陵地で水魔法を攻撃に応用する練習をされていた時、集中が高まると共に周りの空気が肌がピリッとするほど冷たくなることが幾度かあった。そうした時に飛び出す水の矢は、凍るまではいかないが、ぎゅっと凝縮されて岩をも砕く威力があった。


殿下はその攻撃で、この二人にダメージを与えてアリア様を助け出すおつもりだろう。


ただ一つ問題なのは、今、殿下の魔力の残りが少ないことだ。宮殿に着いたらすぐにアリア様の魔力を引き受けるつもりで、今日の出発までにできるだけ魔力を使っておられたのだ。


___『枯渇しては命に関わるから、攻撃一回分くらいの魔力は残しているけどな』


今朝の出発前にも魔力を使った鍛錬を終えた殿下は、そう仰っていた。


魔術の発動に魔力を使い果たせば、引きずられるように生命力が使われるから気をつけるようレイドナー教授が殿下に話をした時、私も側にいた。


本当に魔力が残っているのかと心配する私に『アリアから魔力を受け取ってから、自分の中の魔力がどれくらいあるのか感じられるようになったんだ。生命力を使ってまで魔術を発動しないから、そんな不安そうな顔をするな』と殿下は笑った___



攻撃は一度だけ。


失敗は許されない。しかし、相手は殿下が魔術を使えることは知らないはずだ。二人の意識を私に惹きつけられれば、その攻撃を確実に当てていただける。


私と視線を合わせた殿下は、小さく頷いた。


それを合図に私は受け止めていた剣を大きな音を立てて弾くと、後ろに飛び退いた。そして大袈裟な動作で剣を(ほお)った。


私の狙い通り、二人とも私の方を見ていた。


次の瞬間、二人の叫び声と剣が地面に落ちる金属音が響いた。僕は落ちた剣を蹴り飛ばし、肩を抑えて崩れ落ちた男を押さえつけた。


殿下も荷馬車の方へ馬を走らせ、荷台の上で女を取り押さえたのが見えた。女の両手を後ろに回して縛り上げるのを確認すると、私は男達の方へ視線を戻した。


押さえつけている男の肩には氷の矢が刺さり、その周りから肘に向かってパリパリと音を立てながら氷が広がっていた。男は自分の腕が凍っていくのを見て、恐怖で体が震えていた。


私は腰の鞄から縄を取り出し、きつく縛り上げた。男の上着、鞄など物が入りそうなものは全て剥ぎ取り、隠し持った武器がないか確かめた。


殿下は女を縛り上げた後、アリア様の傍らに寄って傷を負った肩の上に右手をかざしていた。


―――治癒の魔法を?でも残りの魔力が…


嫌な予感がした。


「殿下、お()めくださいっ!」


叫んだ声は、アリア様へと集中した殿下の耳には届かないようだった。


すぐにも殿下をお()めしたい。けれども取り押さえた者の確認は必須だ。小さなナイフだけでも、形勢を逆転されることがある。焦る気持ちを抑えながら確認を続けた。襟の後ろ、ズボンの裾、あちこちに隠し持った小型のナイフや薬包などを見つけては遠くに放った。先に縛り上げた男も、同じように確認する。


「うぅっ…!」


殿下の(うめ)き声に、ハッと顔を上げた。激しく咳き込み、(うつむ)いた殿下の口元からはポタポタと血が落ちていた。


「殿下!!」


私は殿下の元へ駆け寄った。


殿下の右手のひらから淡く白い光が広がり、アリア様の傷を覆っていた。端からゆっくりじわじわと傷が塞がっているが、これ以上魔術を使えば、殿下のお命にかかわる。


「殿下、もうお()めください!」


私は殿下の腕を掴んだが、その腕はびくともせずアリア様の傷への治癒を続けた。


「止め…ぬ。さっ、ゴホッ、下が…れっ」


咳き込み(かす)れているが、その声には強い意志が宿っていた。


「しかし!」


私も食い下がったが、殿下は私を強く睨むとアリア様へと視線を戻した。白い光が少し増して、アリア様の傷からの出血が徐々に減っていく。


それだけ殿下の命が削られていく。


「お願いです。お止めください」


私は(すが)るように何度も懇願したが、殿下は首を横に振るだけだった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「チェス…タ…、血……は」


はっ、はっ、と苦しそうな呼吸の合間に、殿下がアリア様の状態を尋ねた。虚ろな視線は、目の前の傷も見えていないのかもしれない。


「血はほぼ止まっています。もう大丈夫ですのでお止めください、殿下」


「そう…か……」


傷にかざしていた震える手が力無く下りるのと同時に、殿下の体がぐらりと前へ傾き、私は慌てて支えた。


「殿下っ⁈殿下!しっかりなさってください。殿下っ!!」

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