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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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[幕間]想い合う二人(前編)

『想い合う二人』はライナス王子の従者チェスター視点のお話です。「隙と奇襲」以降のお話を、王子と行動を共にしていたチェスターの目線で振り返ります。


残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

ライナス殿下が魔法調査班の様子を確認されるためにウェーンブレン宮殿へ向かう途中、宮殿が何者かに襲われ、アリア様が連れ去られたという知らせが入った。


殿下は、私と殿下の護衛長のロバート、私の部下のケインを連れてアリア様の行方を追った。途中、我々を足止めしようとする男達が道を塞いだが、そこはロバートとケインの二人に任せ、殿下と私は先を急いだ。


私の前を全速力で馬を駆る殿下の背中を見て、改めて殿下のアリア様への想いを感じていた。


以前は、ご友人のハンティントン侯爵の妹とだけの存在で、何も特別な感情はお持ちでなかったと思われる。だが、侯爵邸で魔法(ぎょく)が爆発し、アリア様に魔力が宿ってから、殿下はアリア様のことを気に掛けられていた。それは、殿下がお渡しになった魔法玉が爆発したことによる責任感によるものではないと思われた。最初は責任感だったかもしれないが、近くで過ごされるうちにアリア様が殿下にとってご自身の手で守りたい大切な存在になっていることは明らかだった。


今現在、殿下の妃候補は三名いらっしゃる。アリア様はその候補には上がっておらず、殿下も望まれたこともなかった。しかし、妃候補のどの令嬢にも丁寧に接してこられているのを拝見し、どなたとご婚約が決まってもいいご夫婦になられるだろうと思っていた。


ただ、どなたへも常に冷静で、王族としての義務の一つとして妃として迎えられるものと考えられているようだった。今、感情を表に出して馬を走らせるような姿を見ると、殿下にとってアリア様の存在が特別になっていたことが伝わってきた。そして私も何としてもアリア様をお助けしなければならないと手綱を握る手に力が入った___




「チェスター、馬車だ!」


殿下の声に視線を上げると、木々の向こうに幌付きの荷馬車が見えた。


「ハイッ!ハイッ!」


御者が馬を急かす掛け声が(せわ)しなく聞こえるくらいまで追いついた。馬車の後ろには二人の護衛がついていた。


「先に行け!」


護衛達は馬を止めて我々の行く手を阻もうとした。


私は馬を走らせながら、背負っていた弓を手にして矢を馬車へと向けて構えた。車輪に狙いを定めて素早く弓を引き、矢を放った。


車輪が壊れた馬車は道を逸れて止まった。


「アリアっ!」


殿下は荷馬車に向かって叫んだが、護衛の男二人が馬で道を塞ぎ剣を構え、我々はその手前で馬を止めざるをえなかった。



「こっ、こんな危ない目に遭うなんて、きっ、聞いてないぞ!!」


御者は震える声でそう叫びながら御者台から飛び降りると、森の奥へと逃げていった。長い赤毛を一つに括った男は、剣を構えたままそちらに目を向けることなく「チッ」と舌打ちした。


もう一人の短髪の男は「おいっ!」と逃げる御者の方を振り返った。殿下はその隙を見逃さず、サッと間合いを詰めて切りつけた。


それを見た赤毛の男は、殿下に向かって斬りかかろうと動いた。私も同じように動き出し、男と殿下の間に入ってその剣を払った。


殿下はその隙に荷馬車へ向かわれるだろう。荷馬車にも他の護衛が潜んでいるだろうから、私もすぐに援護せねば。目の前の男を叩き斬り、地面に落ちたところを縛り上げた。次はもう一人を……そう思った時――


「動くなっ!」


荷馬車の奥から女の声がして、アリア様を盾にして荷馬車の奥から出てきた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


ザンッと荷馬車の上で(なた)が振り下ろされ血飛沫が飛んだ。一瞬の出来事だった。


アリア様を盾に出てきたのは、いつもアリア様を気遣うように側にいたマーガレットという女性研究官だった。その女が、何の躊躇いもなくアリア様に鉈を振り下ろした。


相手はアリア様を盾に、自分達の身の安全を要求してくると思っていた私は、予想外の残忍な行動に背筋が凍り付いた。


キラッ


視線の端で地面に落ちていた剣が動くのが見えた。私は反射的に腰の剣を抜き、こちらに向かってくる剣を受け止めた。殿下が切り捨てた短髪の男が腕から血を流しながらも剣を握っていた。向こうも必死だ。がむしゃらに振ってくる剣を受けては薙ぎ払った。


相手の隙を見つけ、そこに斬りかかろうとしたその時、女が叫んだ。


「この女を死なせたくなければ武器を捨てろ!我々は魔術師の生死は問わない!」


その言葉に私は剣を止めた。今、この男を切ってしまえば、逆上した女はアリア様を再び容赦なく傷つけるだろう。私は、正面から振り下ろされる男の剣を受け止めた。


「お前もだ!」


女は、今度は私に向かって叫んだ。わかっている。


―――アリア様がこれ以上傷つかないために早くこの剣を捨てなければ。


その時、地面を這うように冷たい空気が流れてきた。

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