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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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命に替えても守りたい人(後編)

僕は魔力を使い切り、生命力を削ってでも治癒の魔法でアリアを助けたいと思った。あの心臓の痛み、息苦しさ、頭に響く耳鳴り――全身を引き絞られるような感覚は、生命力を搾り取られているということなのだろうと意識を失う直前、僕は死を意識した。


しかし、今、僕は生きている。しかも、自分の中に力が満たされていく感覚がする。


―――一体、僕に何が起こっているんだろうか…


ゆっくりを体を起こそうとしたら、傍らに座るアリアがしっかりと僕の手を握っていることに気づいた。


ぴたりとくっついた手のひらから、アリアの魔力が一気に流れ込んでいた。僕の意識が戻ったことで、枯渇していた分を埋めるように彼女から魔力を吸い取ってしまっているようだった。そしてアリアの魔力は底をつこうとしていた。


僕は慌ててその手を解いた。


しかし、既に魔力を失い過ぎたアリアが貧血を起こしたように倒れていく。僕は咄嗟に彼女を抱き止めた。


「アリア、すまない!」


「……大丈夫です」


ついさっきは顔色がよかったのに、また青白くなって弱々しく微笑んんだ。


「大丈夫じゃない。魔力を返すから、さあ、手を出してくれ」


僕がアリアの手を取っても、その手はぎゅっと握りしめられて手のひらを合わすことができなかった。


「アリア、お願いだ。少し手を開いてくれ」


僕は魔力を使い切った時の苦しさを思い出し、早く魔力を返さねばと焦ったが、アリアは穏やかに微笑むと首を横に振った。


「私はまたしばらくしたら魔力が満ちてきますから大丈夫です。今は、ライナス様に少しでも多くの魔力を持っていてもらうべきです」


「そんな…」


アリアの顔色を見ると、大丈夫の言葉に全く説得力はない。



複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。そちらを見ると、ロバートを先頭に応援の兵らと馬車がこちらに来るのが見えた。


「アリア、迎えが来た。もう大丈夫だ」


「………」


「アリア?どうかしたのか?」


返事もせずに(うつむ)いたままのアリアを見て、何か悪いことでも…と不安になった。僕の問いかけに顔を上げたアリアが遠慮がちに口を開いた。


「ライナス様、あの、お願いが…」


「ああ、なんでも言ってくれ」


「私、立ち上がれそうにないので、連れ帰っていただけますか?」


―――立てないほど疲れ果てたのは僕のせいだ。


でも遠慮しながらも、それを僕に言ってくれたことを嬉しく思って、ふっと笑いが漏れた。


「もちろんだ。責任を持って安全なところへ連れ帰る」


「殿下、ご無理なさらず、私が…」


横からチェスターがアリアを連れて行こうという身振りをするので、キッと睨みつけた。多少息苦しさは残っているが、魔力に満たされてかなり回復している。アリアを連れ帰る役目は僕自身が果たしたい。



僕が荷馬車を降りてアリアを抱きかかえると、彼女は「んっ」と小さく声を漏らして顔を歪めた。


「傷が痛むのか?」


「ごめんなさい、少しだけ。だから大丈夫です」


そう言ってアリアは微笑んだ。僕の魔力では止血までが精一杯で、痛みを取り除くほど傷を治すことができなかったのに、アリアに謝られて益々申し訳ない気持ちになった。


僕は少しでも傷に響かないよう静かに歩き、用意された馬車に乗り込んだ。チェスターは、この場の後処理を任せるロバートと話し終えると馬車の扉に前に立った。


「殿下、王城へ向かいますが、よろしいでしょうか」


「ああ、そうしてくれ」


襲撃された宮殿は、今は落ち着いて過ごせるような状態ではないのだろう。時間は掛かるが、より警備が堅い王城の方が安全だ。


「かしこまりました。私は前におりますので、何かあればお呼びください」


チェスターが静かにキャビンの扉を閉め、御者の隣に座ると、僕らを乗せた馬車は走り出した。



アリアは僕に魔力を吸い取られて、かなりの疲労状態のようだった。馬車に乗ってからも僕に抱きかかえられたまま、頭を僕の肩に乗せて、いつの間にか寝息を立てていた。


「僕が君のことを守ってあげたいのに、僕の方がいつも守られているな…」


独り言を呟き、アリアの顔にかかった髪を指先でそっと横に流した。肩に掛けたブランケットの下には、血で汚れた服、肩に巻かれた包帯が見えた。


魔術調査班を宮殿へ移すことが、王都での魔術師に対する抗議活動から遠ざけられる選択だと思ったのに、奴らがアリアを(さら)いやすい状況に誘導されていただなんて。完全に僕の判断ミスだった。


「ごめん、アリア」


僕はアリアの額に頬を寄せた。傷のせいで熱があるのだろう。その額はかなり熱くなっていた。


「ごめん…」


今はその言葉しか出てこなかった。



もうこれ以上、アリアに辛い思いはさせたくないし、僕も彼女を失うかもしれない思いを三度も味わいたくない。


―――どうしたらアリアを守ってやれるだろうか。


僕の腕の中で眠るアリアの顔を見つめていた視線を窓の外に移すと、これから自分がすべきことを考えた。

いつもお読みくださりありがとうございます。


これで第3章は終わりです。次の章へ移る前に、ここ数話のお話を別視点で書きたいと思っています。お付き合いいただけましたら嬉しいです。

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