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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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消えた抗議活動

魔術調査班からの定期報告を受けて要望の物や補給品をなどを乗せた馬車に僕も同行する形で、ウェーンブレン宮殿へと向かった。


少しでも宮殿で過ごす時間を作りたくて、まだ日が昇らない早朝に出発した。どの通りもまだほとんど人通りはなく、とても静かだった。



王都の街を抜け、郊外の長閑な道を通った。その沿道の所々には、抗議活動で皆が揃って腕に巻いていた赤い布や、掲げていた立て看板が落ちていた。


「抗議する者がいないくなったな」


「そうですね」


隣の馬に乗るチェスターに話し掛けた。僕がそう言ったのは、早朝だから人がいないという意味ではない。それをチェスターもわかって返事をしていた。


アリアが乗る馬車に投石があった頃から、アカデミーや王宮の前の他、王都内の広場や郊外の集会場など、人が集まるあらゆる場所で抗議活動が連日行われていた。抗議の対象は魔術師とそれを擁護する者達――つまりはアリアと魔法庁だ。抗議者達は《魔女を国外へ追放せよ》と書かれた旗を掲げ、朝から晩まで交代をしてまで人通りがある間は途切れることなく抗議の声をあげていた。


そんな抗議活動の活発化を懸念してアリアと魔術調査班を移転させたが、彼らが王都を離れたことは公表していなかった。それなのに――


「魔術調査班の移転後すぐに抗議活動がなくなりましたね」


箝口令(かんこうれい)を敷いていたのだが。やはり庁内から漏れたんだろうな…」


ある程度は覚悟をしていたものの、身近なところに裏切り者がいることが確実となり、僕はため息が出た。


―――抗議活動の目的は何なのだろうか。アリア達をこの国から追い出して、一体何を企んでいるのだろうか。僕は何を見落としているんだろうか。


「殿下?」


僕が考え込んでいると、隣からチェスターが心配気に声を掛けてきた。


「ああ、抗議活動の目的を考えていた」


「なかなか調査が進んでおらず申し訳ございません」


「いや、よく調べてくれている。我々が向こうに動きを悟られないように移転を急いだのと同じように、向こうもこちらに情報を掴ませないように動いているからな」


アリアの馬車への投石と抗議活動を企てた者が同じであることは間違いない。首謀するのは少数で、抗議に参加した者達のほとんどは王都から少し離れた港町で集められていた。治安の悪い酒場で金に困った者達に、食事と風呂、寝る場所を与え、更には活動に参加すれば報酬も出していた。雇われ参加者達は十分な待遇に満足して雇い主についての疑問を持つことなく、首謀者の情報は何も出てこなかった。


ただ―――


「魔術調査班に間諜(スパイ)がいる可能性が高いと考えています。今回、それを突き止めます」


チェスターが僕にだけ聞こえる程度に声を潜めてそう言った。我々が向こうの情報を掴めずにいるのに、こちらの情報がアリアに近いところから漏れていることに焦りを感じていた。


「ああ、慎重に頼む。アリア達だけでなく、お前達の身の安全も確保してくれ」


「はっ、かしこまりました。しかし殿下、いざという時は我々のことは駒としてお使いください」


「わかった。努力する」


「努力ではなく、そこは冷静にご判断を…」


「わかった、わかった」


「殿下……」


我が身を守ることを優先しなければならないことは、当然、頭では理解している。しかし、チェスター達側近らにも危険な目には遭ってほしくないと思ってしまう。


これまでそんな決断に迫られることなく、平和に暮らしてこれたことを今になって実感した。


「だからフィル兄上にお前は甘いって言われるんだろうなぁ…」


ぼそっと吐いた独り言を、チェスターは小さく笑うだけで返事を返してこなかった。その態度に、僕は横を向いて小さく膨れるという子供じみた反応しかできなかった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


森に入りしばらく行くと、渓谷の木々の切れ間から岩山の上に建つウェーンブレン宮殿が見え隠れするようになった。日も昇り、水面が輝く川沿いの道を馬で行くのは気持ちがいいものだった。


色々と気掛かりなことはあるものの、もうすぐアリアに会えると思うと楽しみな気持ちの方が大きくなっていた。


―――アリアにはつい十日ほど前に会ったばかりなのに、僕は彼女を恋しく思っていたのだろうか。


そんなふうに考えたら顔が熱くなってきそうで、ふぅっと息を大きく吐いた。とその時、これから向かう道の先、木々の向こうから馬の走る蹄の音が近づいてきた。

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