受け取った魔力
ライナス王子視点のお話に戻ります。
ウェーンブレン宮殿へと魔術調査班が移動した翌朝、僕は王都へ戻るために宮殿のエントランスで見送りを受けていた。
レイドナー教授に挨拶を済ませると、隣に立つアリアに視線を移した。
「ここにいる者に何でも遠慮せずに言うんだよ。色々と不安だろうが、我慢する必要はない」
「ありがとうございます、殿下」
昨日、晩餐まで皆で楽しく過ごしたからか、アリアはここへ着いた時よりも表情が明るくなった気がする。
それでも、僕が側にいてやれないことに僕が不安に思った。やはり、王都からここまでは遠い。
「アリア、宮殿に私の従者のケインを置いていく。定期連絡のためにここを離れることもあるが、それ以外のここにいる間は貴女の命に従う。私に急いで伝えたいことがあれば、この者が王都へ走るから、時間を気にせず遣いに出していい」
「私にそんな過分な…」
「貴女のためというより、私が安心したいためだ。剣の腕も保証するから、追加の護衛だと思ってくれてもいい。邪魔かもしれないが、側に置いてくれ」
ケインは、チェスターの一番の部下だ。僕の従者の中で剣の腕はチェスターを含め直属の騎士らに次いで高い。アリア専属の護衛は複数配置されているが、腕が立つ者を一人でも多く側に置いておきたい。そして何より馬術が得意で、僕が早駆けするのにも容易く着いてくるから、アリアからの早馬に適していると思い、彼にここに残る任務を命じた。
「邪魔だなんてとんでもない。とても心強いです。ケイン様、どうぞよろしくお願いします」
「何なりとお申し付けください、アリア嬢」
ケインはアリアへ従者としての礼をした。
◇ ・ ◇ ・ ◇
魔術調査班の移動が完了し、僕が王都に戻って十日が経とうとしていた。五日に一度ケインが報告に来ることになっている。明日、二回目の報告がある予定だ。
前回の報告書には、アリアの魔力の変化が書かれていた。宮殿に向かう馬車の中で僕に溢れる魔力を移したが、その後、魔力を使わなければ、二日でまた溢れてしまうらしい。そうならないように、日々魔力を使う訓練をするよう計画されていた。
一方、魔力を受け取った僕の方は、自分では魔力をほとんど生み出さないから使えば減るだけだ。受け取った直後、レイドナー教授の立ち合いで、他の者には知られないよう魔力許容量の計測をしたが、以前はほぼ空だった水晶玉が白い光でいっぱいに満たされていた。
___「………すごいですね。これは殿下が引き寄せられたのですか?それともアリアが渡したのでしょうか?」
「それがよくわからないんだ。自然に流れてきたと感じたが…」
「そうですか。文献では、魔力の受け渡しにはどちらか又は両方の能力と意志が必要だと書かれていました。殿下かアリアのどちらかが、無意識で受け渡しをコントロールされたのかもしれないですね」
「そうなのか。それなら、私かもしれない。アリアが溢れて重苦しいと感じていた魔力を私に押し付けようだなんて考えないだろうし、私の魔力がいっぱいになりそうな時にあの子は手を離そうとしたが、魔力の流れ込みは止まらなかったからな」
「そうであれば、殿下の能力なのでしょう。でしたら殿下、引き受ける魔力は、ご自身の許容量の九割までとしてください。今回は偶然にも上限まで引き取られたということです」
「それを超えると?」
「思ったように体が動かせなくなると思います。殿下は何かあれば咄嗟の回避行動を取らなければならないので、魔力の重さで動けなくなるような状況は避けていただくべきかと。それから…」
「まだあるのか?」
「はい。魔力を全て使ってしまわないようにお気をつけください」
「使い切ったらどうかなるのか?」
「魔術の発動に生命力を使ってしまう可能性があります」
「わかった、覚えておく」___
生命力を使ってしまう可能性とは恐ろしい話だが、自分の魔力量を感じることができるようになったので大丈夫だろう。
それよりも、アリアが魔力を使うことで体力を消耗して疲れているだろうと思うと心配になった。
―――僕が側にいれば、その魔力を引き取ってあげられるのに。
王都に戻ってから僕は、以前アリアが魔術の訓練していたアカデミーの林の向こうの丘で魔力の使い方を試行錯誤していた。
剣を振りながら、青い水魔法を意識する。最初はただ水飛沫が飛ぶだけだったのが、集中のコツを掴むと、まとまった水が鋭い矢のように剣先から飛んでいった。薄い木の板を割る程度から練習を重ね、集中すればするだけそれは固く、次第に厚い板や一抱えくらいの岩も砕くことができた。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
ただ、威力のある魔術を使うと相当疲れる。剣術だけを考えると、ほんの準備運動程度の動きしかしていないのに、呼吸は乱れ、汗が流れ落ちていた。
―――アリアは溢れる魔力の重苦しさも感じながら、魔術を使って体力を奪われていたのか…
汗が滴り落ちる顎先を袖でぐっと拭いながら、彼女の辛さを今になって実感した。




