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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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不安と葛藤(中編)

『不安と葛藤』はアリア視点のお話です。

ライナス様の両手が、もう一度私の前に差し出された。そこに私の手を重ねれば何が起こるか、予想がついてドキドキした。


恐る恐る手を伸ばして、殿下の大きな手のひらの上にゆっくりと置いた。手のひらがくっつくと、私から殿下へ魔力が流れ出した。それと同時に殿下に魔力が溜まっていくのも感じた。私の溢れ返る魔力の量はわからないのに、手から伝わる殿下の許容量がどんどん満たされていく。


―――このままだと、殿下の魔力が溢れてしまう。


この魔力に押し潰されそうな感覚を殿下に渡してはいけないと手を引っ込めようとしたが、殿下は私の手をキュッと握ってそれを許さなかった。


―――ああ、もうすぐいっぱいになってしまう。


殿下の魔力がいよいよ溢れそうになった時……


「あっ…」


その感覚は急に訪れた。


今までは膨大な魔力が私の許容量を超えて溢れ、上から私に覆い被さって息苦しささえ感じていた。それが、ふっと消えた。魔力が私の中に収まり、少し余裕さえできた。久しぶりに気持ちよく息が吸えてほっとすると同時に、魔力の流出も止まった。


「あ、止まったのか?」


殿下から感じられる魔力も溢れることなく収まっていることに安堵しつつ、その言葉に頷いた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


私は心の中で葛藤していた。


私が魔力を授かったことをきっかけに、ライナス王子殿下は魔法庁長官に就かれた。庁内全体に気を配りながらも、私に事あるごとに困ったことはないかと声を掛けてくださった。魔術師に対する抗議活動が活発になると、殿下が率先して動いて魔術調査班の移転を実行して起こりうる危険を回避しようとしてくださっている。そして先程は、私には抱えきれない魔力をギリギリまで引き受けて、今、到着しようとする宮殿の警備の多さに、どんな危険に備えているのかと不安を感じていると、「アリア、大丈夫か?」と言って馬車の向かいの席から私の横に移って、優しく肩を抱いてくださった。


殿下は、爆発した魔法(ぎょく)を渡した責任感と、私が不安がるから優しくしてくださるだけだと思うのに、私を特別に気に掛けてくださっているのではと勘違いしそうになる。


―――甘え過ぎてはダメよ。しっかりしないと。


そう自分に言い聞かせながらも、この先の漠然とした不安は黒い波となって押し寄せて私を飲み込もうとする。本当は兄様に頼るべきなのだろう。けれど、私が侯爵邸(いえ)を離れてから会える時間が限られてしまった兄様よりも、魔術庁長官としての役割とはいえ、私の様子を気に掛けて傍にいてくださる殿下を心の支えにしているのは確かだった。


少しだけ…と言い訳を心の中で呟いて殿下の上着の裾を摘んだ。


すると殿下は私の背中にそっと手を添えて、抱きしめてくれた。水の魔力で満たされた殿下の体温は私と同じくらいまで下がり、ほんのりと温かくとても心地良かった。ほっとして緊張していた体から少し力が抜けた。


顔を上げると、殿下の優しい瞳がそこにあった。甘えてはいけないというそんな思いは、いとも簡単に崩れていく。私は殿下の肩に額を乗せて静かに息を吐いた。安心したあまり溢れてきそうな涙はなんとか(こら)えた。


「大丈夫だ」


落ち着いた低い殿下の声に、私は感謝の気持ちを伝えたかった。でも声を発したら涙がこぼれ落ちそうで、私はただ頷いた。

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