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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第3章 不穏
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岩山の上の宮殿

渓谷の川にかかる橋を渡り山道を登ると、その先には重厚な鉄扉の門がある。普段は開け放たれていたその扉は、魔術調査班の滞在中は閉められ、許可を得た者に対してのみ開かれることになった。


我々の乗る馬車が門を通過した後、ガシャーンと大きな音を響かせて扉が閉まった。


僕の向かいに座るアリアは、固い表情で窓から騎士団の兵らが宮殿周辺を物々しく警備する様子を見ていたが、扉の閉まる大きな音にビクッと身を縮めた。これまでこんな緊迫した所に来ることはなかっただろう。


「アリア、大丈夫か?」


僕としてはもう少し兵を増やしてほしいと思っていたが、アリアが緊張するには十分な雰囲気だったようだ。僕の声にハッとこちらを向いて「はい、大丈夫です」と小さく頷きながら答え、スカートをぎゅっと握りしめて俯いた。その不安そうな様子を見て、僕はアリアの横に移り、その肩をそっと抱いた。


アリアは足元を見つめたまま、遠慮がちに僕の上着の裾を指先でつまんだ。


―――遠慮せずに甘えてくれたらいいのに。


僕は彼女の背中に手を添えて、もう少し抱き寄せた。アリアは僕を見上げて少しほっとした顔をしてから、頭を僕の肩に乗せた。


宮殿のエントランスまで馬車が静かに進む間、僕の手のひらにはアリアの温かな体温とトクン、トクンと規則正しい鼓動が伝わってきた。


「大丈夫だ」


そう声を掛けながら背中をさすると、アリアは無言で頷いた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


宮殿のエントランスの前で馬車を降り、アリアの手を取って建物の中に入った。


警備の兵らは配置についているが、魔術調査班がまだ到着していない宮殿の中はとても静かだった。カツンカツンと足音が大理石の床に響いた。


「素敵な装飾ですね…」


僕は何度か訪れたことがあるが、初めてのアリアは柱の装飾や天井に描かれた絵を見て、感嘆のため息を吐いていた。


「気に入ってくれたのならよかった。貴女の部屋の鍵を預かっている。案内しよう」


「どんなお部屋か、楽しみです」


アリアの笑顔に僕もつられて頬が緩んだ。アリアの手を僕の腕に掛けさせ、エントランス正面の階段を上がった。


「左がアリアや女性調査官達の部屋になっている。レイドナー教授や他の調査官は右だ。ここに兵が常時二人立つから、教授に用があれば呼んでもらえばいい」


階段を上がった突き当たりで事前に聞いていた居室の説明をした。


「居室が二階で、他は…?」


「調査研究を行う部屋は一階だ。部屋割りは皆がここに来てから決めてもらう。あとは食堂も一階だ」


「皆さんと食事をすることになるのですね」


「ああ、広間の一つを使う予定だから、全員揃って席につけるだろう。静かな方がよければ、食事を貴女の部屋に持って来させることもできるが。その方がいいか?」


「いえ、アカデミーでは一人か、叔父様と二人で食事をしていたので寂しかったんです。だから、皆さんと食事できるなら嬉しいです」


「そうだったのか。僕も食事に誘えばよかったな」


「ふふふ」


アリアは僕の言葉にただ笑った。


軽い気持ちで言った言葉だが、アリアの反応が曖昧で、誘ってよかったのか、誘わなかったのが正解だったのかよくわからなかった。それが(かえ)ってアリアのことを意識させた。


―――僕は、アリアのことを誘いたかった……のか?


落ち着かない気持ちで胸元をさする僕を、アリアが不思議そうな顔で見上げて「どうかされましたか?」と聞いた。


「いや、なんでもないよ」


僕は誤魔化すようにできるだけ穏やかな笑顔を作った。




各部屋の扉が並ぶ廊下の突き当たりまで進むと、大きな木の扉の前に兵が二人待っていた。


「彼らが貴女の部屋の警備にあたる。交代の者とは追々会うだろう」


僕がアリアに説明をすると、兵達はアリアに敬礼をした。王都での人々に魔術師への反発を見て不安を感じていたから、アリアへの態度が王族の警備の時と変わりないことに安堵した。


もちろん、僕が一緒にいるからアリアに敬意を見せている可能性はある。そう思うから、今日僕がここに来たとも言える。アリアが王族の客人であるという印象をこの宮殿の警備兵、使用人らに印象付けるために。


「どうぞよろしくお願いいたします」


ここに着いた時は強張った顔をしていたアリアが、兵達へ笑顔で挨拶するのを見て僕はほっとしていた。


僕は兵に部屋の鍵を手渡し、扉を開けさせた。


「さあ、アリア。ここが貴女が過ごす部屋だ」


僕は彼女の背中に手を添えて部屋へ入るのを促した。


「わぁ……」


部屋の中ほどまで進むと、アリアが口元に両手を当てて息を飲んでいた。高い場所に建つ宮殿の窓の向こうには、爽やかな青空を背景に森と湖、奥の方には雪を被った山々の景色が広がっていた。


アリアの青い瞳も陽の光を受けて輝き、とても綺麗だった。これからしばらく過ごす部屋からの眺めを楽しんでいる様子に、僕はほっとしていた。

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