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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第1章 かつて魔術が存在した世界で
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魔道具と王子

「ふふふふふ…」


思わず笑いを漏らしてから、ハッと周りを見回した。


___『不気味な笑い方はおやめください』


従者のそんな小言が聞こえるような気がしたが、部屋には自分しかいないのを確認して、ふぅっと安堵のため息を吐いた。


「僕の部屋なんだから、好きに笑ったっていいじゃないか…」


ぶつぶつと言い訳のような独り言を言いながら、目の前の棚に視線を戻した。


そこに並んだ水晶玉、手鏡、腕輪、金属製のゴブレット…どれも年代を感じる。昔から趣味で集めた魔道具を一つずつ柔らかな布で丁寧に拭いては棚にそっと戻し、一歩下がって眺めれば、再び笑いが漏れてしまった。


魔道具――かつて魔術が当たり前に使われていた時代に人々が使っていた道具たち。魔力を持つ者が絶えて千年以上経つ。


どんな魔術をどのように使っていたのか。今となっては古い文献を読み解くしかない。僕はその中で、魔道具がどのような役割を果たしていたのかを想像するのが何よりも楽しい。


魔力が存在しなくなった現代では、ただのガラクタだとか、魔術だなんて御伽噺(おとぎばなし)じゃないかとか言う者も少なくないが、僕は魔力を日常的に使っていたことを心から信じている。


「これが活躍してた頃に生まれたかったなぁ…」


白く濁る石が付いたシルバーの腕輪を手にボソッと呟いた。この腕輪は僕のお気に入りの一つだ。模様のように古代文字が刻まれている。『汝の魔力を表せ』という意味らしく、魔力を感知して石が光ったのか、魔力の種類によって石の色が変わったのか……想像すると楽しくなって、また笑いが漏れてきた。



―――コン、コン、コン


小さなノックに続いて扉がガチャリと開いた。僕は笑いを抑えて背筋を伸ばし、扉の方を向いた。


「ライナス殿下、そろそろお時間です」


「ああ、チェスター。すぐ出られる」


静かに腕輪を棚に戻すと、従者のチェスターが手渡してくれたマントを羽織り、部屋を出た。



「本日の最初の予定は…」


チェスターが今日の予定を一つずつ読み上げるのを聞きながら、城の廊下の窓から見える青空が綺麗だとぼんやり眺めていた。



『殿下』と呼ばれる僕は、レトーリア王国の王子だ。一応……


国王陛下――僕の父には三人の妃がいて、七男四女に恵まれた。そして僕はその末子、第七王子である。王位継承権があるのは男子のみだが、六人の兄とその息子達が五人、更に甥達の息子が三人いて、僕の継承順位は十五位だ。一応王子だが、王位が回ってくるだなんてこれっぽっちも考えたこともない。


妃同士の諍いさかいもなく、兄弟間の確執もない。そして僕も別に王位を争いたいとか思うことはなく、極々平穏な毎日を送っていた。ただ、王子としてどう生きていったらいいか、というのがここ数年の悩みだ。


一応、帝王学を学び、一応、剣術を磨き、一応、どこに出ても恥ずかしくないだけの教養を身につけて………


一通りのことはできるが、政治については兄達で十分回っているし、国内外の主要な政略結婚の相手は兄姉、年上の甥や姪らと婚姻済みだ。騎士団に所属したいと申し出た事もあるが、王子の警護に人員を割く必要が出てくると却下された。故に自分の進みたい道をこれといって見つけられずに、回ってくる視察などの仕事を日々淡々とこなしていた。


まあ、悩んでいると言っても、ウジウジするのは性に合わないので、周りは僕がそんなことを気にしてるなんて思わないだろうけど。



「___ということで、午後の予定は明後日に延期されましたので時間が空きますが、どうされますか?」


「そうだなぁ……、あ、レイドナー教授に会えないだろうか。先日発掘した魔道具を幾つか譲ってくれると話していたんだ」


レイドナー教授とは、王立アカデミーで魔術史を長年調査・研究している学者だ。その調査の中で発掘された魔道具は、検証された後、アカデミーに既に収蔵されている物と同等であれば市井に雑貨品として卸されるが、友人の叔父である教授は、僕の好きそうな物を見つけると声を掛けてくれるのだ。


「かしこまりました。ケイン、レイドナー教授の予定を確認してくれ」


チェスターが今日の予定を記した紙を部下のケインに手渡した。


「はっ。それでは、失礼いたします」


ケインはそれを受け取ると、僕に一礼して足早に立ち去っていった。確認ができたら、僕の立ち回り先に伝えにきてくれる。


僕はチェスターと共にエントランスに用意された馬車に乗り込み、最初の視察地へと向かった。

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