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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第2章 魔術研究所
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魔女に投石(後編)

侍女や護衛の兵らの話から投石された時の様子がわかったが、兵らがその盾になったのであれば……僕は話を聞いていて感じた疑問を口にした。


「それなら、貴殿らも石が当たったのだろう?血の跡もある」


「はい。皆、頭部や肩などに傷を負ったのですが…」


「まさか、アリアが?」


アリアが抱きしめていた侍女には治癒の魔法を施したのかもしれないと思ったが、馬車の周りを警護していた兵達の傷まで癒していたなんて、そんなことができるのだろうか。


「我々も何が起こったのかよくわからないのですが……急いでこちらに引き返す途中、村から離れてしばらく走ったところでキャビンの窓から光が溢れて真っ白な光に包まれました。その光が引いたら……痛みも引いていたのです」


兵はまだ信じられないという表情で話し、自分の頬を確かめるように指先で触れた。


「血の跡はあるが、傷跡は全くないな」


僕も見たままを呟いた。


向かいのソファに座るその者の頬には、飛んできた石がかすってできた傷から流れたような血の跡はあるが、その傷口はなかった。


もちろん魔術調査班の検証が必要だが、アリアが広範囲に治癒の魔法をかけたことはほぼ間違いないだろう。



___コン、コン、コン


扉がノックされ、廊下で警備をしていた兵が扉を開けた。


「殿下、アリア様の診察が終わったとのことです」


「ああ、わかった」


僕は診察の結果を聞いて、そしてアリアの様子を見に行こうと立ち上がった。向かいに座っていた兵も立ち上がり「それでは私は失礼いたします」と一礼して部屋を出ていった。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


廊下を出ると、隣のアリアの部屋から医師が出てくるところだった。


「ライナス殿下、只今ご報告に伺うところでした」


「ここで聞かせてもらえるか?」


もう一度部屋に戻って報告を受けなければならないほど深刻な内容でないことを願いながら、医師に聞いた。


「はい、問題ございません」


僕はほっと安堵のため息を漏らした。


「それでアリアの容態は?」


「怪我をされているところはございませんでした。極度の緊張から解放され、気を失われたのだと思われますので、しばらくお休みいただければ問題ございません」


「侍女や兵らの傷を治す魔力を使ったようなんだが、その影響はわかるだろうか?」


「私も古い文献でを最近読み始めたばかりで、症例などの知識に乏しいので魔力の影響かまではわかりかねるのですが…、症状としては過度の疲労状態と同じです」


「そうか」


「はい、ゆっくりお休みいただき、栄養のあるものをしっかりとお召し上がるのがよろしいかと思われます」


「わかった、栄養のあるものだな。手配させよう」


「私共も魔力の影響を考慮して注視するようにいたします」


「ああ、よろしく頼む」


医師が一礼して立ち去るのを見届けて、僕はアリアの部屋の扉をノックした。


すぐに侍女のエレンが扉を開けた。


「アリアの様子を見てもいいだろうか」


「はい、どうぞお入りください」


僕は寝台の横に用意された椅子に座り、静かな寝息を立てて眠るアリアを見つめた。


「ライナス殿下、私はお嬢様がお目覚めになった時に何か食べられるように用意をして参りたいと思います。お嬢様をお願いしてもよろしいでしょうか」


「ああ、医師も栄養のあるものをと言っていた。私はここにいるから、食事の用意を頼む」


「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」


侍女は丁寧にお辞儀をしてから部屋を出ていった。



静かになった部屋でアリアの顔を改めて見つめた。血で汚れていた頬や髪は綺麗になっていたが、過度な疲労と言われた通り、青白く疲れているように見えた。


彼女の手をそっと取り、僕の両手で温めるよう包み込んだ。ひんやりとした華奢な指先が少しでも温まればいいと思いながら。


アリアは突然魔女呼ばわりされ、石を投げ込まれ、どれだけ不安に思っただろうか。


―――誰が何のために…


ただ近隣の村人が不安に思って投石しただけのようには思えなかった。

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