王子と魔力(後編)
「さて、落ち着いたかな?」
レイドナー教授の低い声に、アリアは顔を上げて小さく頷いた。僕も「ああ、大丈夫だ」と答えたが、正直なところまだ心臓はドキドキしていた。
「これが魔力量計測器です」
砂時計のようなクリスタルの円柱がコトンと静かにテーブルの上に置かれた。
「これで僕の魔力を測るのか…」
そう独り言を口に出してみたら緊張してきて、手をグッと握り締めた。魔力がありそうだとは言われたが、本当にあるかわかると思うとドキドキしてきた。
「殿下、手をこのようにかざしていただけますか」
教授が手本を見せたのに倣って、僕も計測器の上に手をかざした。
円柱全体がフワッと白く光った。
「わぁっ!」
魔道具に変化が起きるなんて初めてのことで、僕は思わず声を上げた。その光が落ち着くと……
「…ん?何もない⁈」
「いえ、底の方に少しだけ…」
「あっ、ありますね!ほら、ここに」
アリアが指差す先にコインほどの厚みの乳白色の淡い光が見えた。
「これ…だけか?」
少ないだろうとは思っていたが、これはあまりにも少なくないだろうか。僕が憮然としてると、教授が笑いながら教えてくれた。
「計測器は、最強の魔術師でも測れるように作られているのです。私のように魔力がなければ全く反応はないのですから、反応があるだけでも驚きですよ」
言われてみれば、さっき教授が手をかざしてみせた時は確かに何も変化はなかった。
「なるほどな。では、アリアはどうなんだ?」
「私、ですか?」
「どんなものか見てみたいんだ」
僕は計測器をアリアの前にそっと置いた。
アリアはすでに計測しているから、僕の魔力量との差を知っていて遠慮しているのだろう。少し困ったような顔で教授を見て、教授が頷くと彼女の右手をそっと計測器の上のかざした。
僕の時と同じようにフワッと白く光り――そして乳白色の淡い光が残った。
「………すごいな」
円柱の八割くらいの高さまで光っていた。ここまで違うと、悔しさも何もなく、むしろ感動していた。
―――本当に魔力が復活しているんだ。
「じゃあ、これは?」
僕は腕輪を手に取ってアリアに差し出した。これが反応するところを、どうしても見てみたい。
「ライナス様ではなく、私が測るのですか?」
「ああ、僕はきっと青一色だろう。アリアのを見てみたいんだ」
アリアの瞳の色やこれまで発動した魔術から、水と風の魔力を持っているのはわかっている。それが、腕輪についた石にどう表されるのか、見られると思うだけで興奮してきた。
「わ、わかりました」
僕の勢いに押されたようにアリアは腕輪を受け取り、自分の二の腕に装着した。青い淡い光が真ん中からじわっと滲むように広がってきた。僕は、その色の変化を見逃すまいと瞬きも忘れて見ていた。
中心から半分以上は青色、その周りに緑。更に一番外側を縁取るように白色に変わると光は落ち着いた。色の境界はグラデーションになっていて「綺麗だな…」と思わず言葉が漏れた。
「殿下も測ってみませんか?」
教授にそう言われて顔を上げた。
「私か?青くなるだけじゃないのか?」
「それを確かめるための道具です」
そう言われて、僕はアリアから腕輪を受け取り自分の腕に着けた。
真ん中からじわっと青色が現れ、それが縁まで広が……ると思ったら、半分を過ぎて少ししたら緑に変わった。
「えっ⁈」
そして、一番外側は白色に……
「私と同じ…」
アリアが驚きながら呟いた。僕も驚いて言葉も出てこなかった。
「思ったとおりだ」
教授の声に、僕はハッと我に返った。
「思ったとおり?」
「はい。おそらく、殿下もアリアもあの魔法玉の影響を受けて同じ魔力を授かったのだと思うのです。ですから、量は違えど魔力の構成は同じでも何も不思議はないかと」
「なるほど。でも、私の瞳はアリアと違って青一色だろう?」
「いえ、全体に色が薄くてわかりづらいのですが、殿下の瞳にも緑や白が混じっているんです。ルーペで見るとわかりますよ」
「本当?私も見てみたいわ」
アリアが興味津々に言うと、教授は彼女にルーペを手渡した。
「いや…、それは……」
僕の嫌な予感は当たっているようで、アリアは僕のことは忘れて、僕の瞳にだけ興味を持っていかれていた。
アリアは、ルーペ片手におでこ同士がぶつかりそうな距離で僕の瞳を覗き込んだ。
―――だから近いって!!
僕はまた思わず息を止めた。目を閉じたいのも、視線を逸らしたいのも必死で堪えた。
じーっと見つめてくるルーペ越しのアリアの視線に耐える。
―――近い近い近い近い……
「すごいわ!叔父様の仰るとおり、ライナス様の瞳も緑や白のマーブル模様になってるわ」
アリアが興奮気味に教授の方を向いて話し始めた横で、僕は止めていた息を思い切り吐き出し、バクバクいう心臓をなんとか鎮めようと胸元をさすった。




