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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第2章 魔術研究所
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王子と魔力(中編)

レイドナー教授が隣室から出してきた魔道具は三つ。装飾が施された木枠に収まる砂時計のようなクリスタルの円柱は、知っている。魔力量の計測器だ。


その隣にあるのは、白く濁る石が付いた腕輪だ。シルバーの台座に施された彫刻が見事だ。僕のお気に入りの物はもう少しシンプルだが、よく似ている。


「この腕輪は?」


「身につけた者の魔力の種類を表す物です。魔術師が集団で任務にあたる時に、どの魔力を持つかをわかるように使ったようです」


「やはり、魔力の種類がわかる物だったんだな」


また興奮しそうなところを落ち着くよう心掛けながら、教授と話を続けた。三つ目は…


「それで、この水晶玉は?」


顔の大きさくらいの大きな水晶玉が、光沢のあるえんじ色の生地のクッションの上に置かれていた。


「これは、魔力許容量を測る物です」


「魔力許容量?」


「これはあとで説明いたします。まずは他の二つから測ってみませんか?」


そう言いながら教授がその魔道具を木箱から取り出し、テーブルの上に出したところで扉がノックされ、扉の向こうから名乗る声が聞こえた。


「マーガレットです」


「どうぞ」と教授が答えると、静かに扉が開き、書類を手にした白衣を着た研究官が入ってきた。僕に丁寧にお辞儀をすると、僕らが座るソファではなく、教授の大きな机へと歩いていった。


「データを纏めたものをお持ちしました。ケニスから預かった書類と一緒にこちらに置いておきますね」


その研究官――マーガレット・ウッドウェルは丘から帰る時に最後までアリアに付き添ってくれていた女性だった。


切れ長の印象的な瞳や少し上を向いたスッとした鼻筋、厚めの唇など、エキゾチックな印象だ。レトーリア王国の北東部やその隣国のユトレフィス公国でよく見られる顔立ちだな、と思いながら二人のやり取りを聞いていた。


「マーガレット、ちょうどよかった。アリアを呼んできてもらえませんか?」


「ええ、構いませんよ。少しお待ちくださいね」


マーガレットは教授の頼みに笑顔で答えると、書類を机の上の箱に入れて部屋を出ていった。


この研究班は口調は適度に砕け、教授以外の研究官らがファーストネームで呼び合っていて、信頼関係と雰囲気の良さを感じさせた。


 ◇ ・ ◇ ・ ◇


「アリア様をお連れしました」


マーガレットは他に作業が残っていると言って、顔だけを出してすぐに帰っていった。焦茶のベルトや裾のレースが落ち着いた印象のモスグリーンと白のストライプのワンピースを着たアリアが部屋に入ってきて、僕を見るとにこっと微笑んでくれた。


「叔父様、どうかされましたか?」


「まあ、アリアも座りなさい」


そう促されて、僕の隣にアリアが座った。そしてテーブルに置かれた魔道具を見て納得したように話し始めた。


「殿下と魔道具のお話をされていたのですね。でも、なぜ私が呼ばれたのですか?」


「魔道具の話というか、殿下の魔力を測るところなんだ」


「えっ、ライナス様も魔力が⁈」


アリアが驚いた顔でこちらを見た。深い青い瞳の中に緑や白のマーブル模様が渦巻いて、本当に神秘的で吸い込まれそうだ。ついじーっと見つめていたら、アリアの瞳が更に大きくなった。アリアは両手で僕の頬をガシッと挟み、鼻と鼻が付きそうな距離で僕の瞳を覗き込んだ。


―――近い、近いっ!


僕は思わず息を止めた。


視界にはアリアの揺らめく宝石のような瞳しかない。驚きを表すように瞬きを繰り返している。その度に上下に往復する長いまつ毛が僕に触れるんじゃないかと思うような距離だ。


ドクンドクンと跳ねる鼓動と、真っ赤になっているであろう僕の顔の熱がアリアの手から伝わるんじゃないかと心配になった。


―――近い近い近いって!


これ以上息を止められなくなり、アリアの両手を掴んで僕の顔から引き剥がすと、僕はアリアから顔を逸らして「はぁぁーっ!」と止めていた息を一気に吐き出した。


ようやく顔を近づけ過ぎていたことに気づいたアリアは、頬を赤らめて慌てた。


「ご、ごめんなさい!ライナス様の瞳が揺らいでいるのが見えて、つい…」


動揺して乱れた息を整える僕と、両手で顔を覆い耳まで真っ赤になって恥じらっているアリアを見て、レイドナー教授は大笑いしていた。

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