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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
プロローグ
2/59

水晶玉の映す未来

濃紺の(もや)を閉じ込めたような水晶玉が淡く光を放った。その奥にぼんやりと建物や人影が映り、次第にはっきりと見えてきた。


見慣れた街並みだが、今とは時代が違うことがわかる。灰色の石畳の通りを人々が行き交う。歩いている人、二頭立ての馬車、街を見回る騎馬隊……、一般的な交通手段での移動しか確認ができない。


道の端の所々に白い石が円形に敷かれている。魔術師であれば、そこから希望する行き先へ瞬時に移動できる常設の魔法陣だ。しかし、そこに足を止める者は誰もいない。皆、何事もないように白い石を踏んで通り過ぎていた___


「やはり、変わりないか…」


水晶玉を覗いていた黒髪の男は肩を落として深くため息を吐いた。



男が水晶玉から視線を外すと、それは光を失い、元の通りその奥には暗い靄が漂っていた。


しばらく(うつむ)いていたが、短く息を吐いて顔を上げるとペンを取り、山羊革の表紙の本を開いた。几帳面な字でびっしりと書き込まれたページを捲っていき、その続きに日付から書き始めた。


___青星(せいせい)(れき)528年 春の中月(なかつき) 3日


 百年程の後、魔術を扱う者現れず

 この未来を変える為、我が命を捧げる___


そう記すと男はペンを静かに置き、丁寧に本を閉じた。



あと数十年のうちに魔術が絶えるという説が出た頃は信じる者がほとんどいなかったが、今では現実のものと受け止められている。それを避ける術はないかと多くの魔術師や学者が知恵を絞り合っているが、今のところ何の解決策も見つけられずにいた。


魔術が途絶えることを止めることができないなら、復活させることができないかと一週間程前に魔法陣を刻んだ石盤を街の広場に設置した。その成果を確認したのが、先程の水晶玉の中に浮かんだ風景だ。


男は黒いローブを羽織ると棚の前に立った。ガラス扉を静かに手前に引いて開け、大切に収められている大きさも色も様々な魔法玉(まほうぎょく)の中から、拳より少し小さい藍晶石(らんしょうせき)の玉を取り、確かめるように手のひらの上で転がした。それを山羊革の表紙の本と共に鞄に入れると、部屋を後にした。

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