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青星の水晶〈上〉  作者: 千雪はな
第2章 魔術研究所
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揺らぐ瞳

闘技場でのアリアの魔力暴走で湧き出た水に溺れかかって数日は、水を大量に飲んでいたからか胸元に(つっか)えたような痛みがあり、大事をとって休まされた。動けないほどではないと言うのに、こういう時は誰も僕の話を聞いてくれない。王子として大事にされているのはわかっているが、過保護にされて、ふぅとため息が出た。


今日は昼前の診察で問題なければ、ようやく午後から公務を再開する予定だ。



___コン、コン、コン


扉がノックされ、部屋を離れていたチェスターが入ってきた。普段、側近であるチェスターはノックせず入ってくるので、誰かを連れてきたということだ。


「フィリップ殿下をお連れしました」


チェスターが扉を開けてお辞儀をすると同時にフィリップ兄上が部屋に入ってきた。確か今日は何かの式典の挨拶をする予定のはずだが、その前に様子を見にきてくださったようだ。騎士団の白い制服にロイヤルブルーのサッシュを肩から掛け、騎士団長の徽章を着けた兄上は、今日もため息が出るほどかっこ良かった。


僕の顔を見ると、兄上は穏やかな笑顔で言った。


「だいぶ顔色が良くなったじゃないか」


「はい、すぐにでも馬に乗れそうなほど体調はいいのですが…」


「ははは、それは諦めるんだな」


一度体調が悪くなれば、医官の許可が降りるまで寝台を抜けられないのは兄上も同じだ。僕の不貞腐れた顔を見て笑った。そして少し表情を引き締めた。


「ライリー、魔術庁の長は、本当にお前の任せてもいいのか?」


「はい、私が希望したことです」


「そうか。まあ、他に適任者はいないが…」と少し考えてから兄上は続けた。


「では、お前に任せる。しばらくは騎士団の直下の組織だから、何かあれば私に報告するように」


「はい、謹んでお受けいたします」


今まで第七王子以外、何の肩書きもなく生きてきたのが、初めて魔法庁長官の任を得た。


―――寝台の上の寝巻き姿でなく、小さくともどこかの間できちんとした格好でその話を受けたかったなぁ…


兄上もお忙しいので仕方がないことだが、あまりに緊張感のない任命の場にため息が出そうになった。


「ちゃんとした任命式は、後日設ける」


そう言って兄上が苦笑した。僕は思ったことが顔に出ていたのかと恥ずかしくなって、顔を逸らそうとした。


その顔を兄上がガシッと顎の方から掴んで正面へ向けた。


「どっ、どうはひまひたは(どうかしましたか)?」


頬を掴まれて、おかしな顔になっているだろう。戸惑う僕の顔を、兄上は覗き込むようにじーっと見つめた。夜空を思わせる深い紺色の瞳に睨まれるように見つめられ、僕はそれ以上の言葉を発せずに固まっていた。


「………お前の瞳の色…、揺らいでないか?」


「……えっ?揺らいで…?」


周りを見渡したが、手鏡なんてものはこの部屋にはない。


―――何だかこんなこと、少し前にもあったな。アリアの瞳の色が変わってて……僕も何か変わったのか?


僕は壁掛けの姿見に寄って、自分の瞳を覗き込んだ。色は以前と変わらず淡い水色だが、じっと見ていると確かにその濃淡が揺らぐように変わっていた。


「これは……」


「気づいていなかったのか?」


「はい。自分の顔をそれほど見つめることもないですし…」


「そうだな。お前の顔を覗き込む者もいないだろうしな」


僕の横まで来て、兄上は腕を組みながら鏡に映る僕の瞳をもう一度覗き込んだ。


「お前も例の爆発の影響を受けているかもしれないということだな。何かお前自身に変化があれば、それも報告するように」


そう言って兄上は、僕の返事を待たずに颯爽と部屋を出ていった。


「はい、かしこまりました…」


パタリと閉まる扉に向かって、僕は返事をした。


―――僕自身に変化が……


得体の知れない不安で胸の奥がざわついた。

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