色と冷たさの仮説(後編)
魔法玉の色と魔法の種類について、青が水、緑が風、白が治癒、赤が火、茶色が土、黄色が光と説明した。
ギルバートは、アリアの瞳が部屋に持ち帰った魔法玉と同じ色に変わったことを心配そうに口にした。それに対して、僕はアカデミーから出版された魔術に関する書籍で得た知識から、彼の疑問に答えた。
「魔術師の瞳の色は、自身が持つ魔力の種類が表れていたと言われている。複数の種類の魔力を持っていれば、その数だけ色がマーブル状に混ざっていたと文献にに残っているらしい」
「じゃあ、アリアは水と風と…あとなんだっけ?」
「治癒だ」
「ああ、その魔力を持つようになってしまったってことか…?もしそうだとしたら何が起きるんだ?」
「アリアがどんな影響を受けていて、何か変化があるのか、悪いが僕にはさっぱりわからない…。レイドナー教授に見てもらうのがいいと思うけど」
「そうだな。………でもアカデミーの被検体にされないだろうか」
ギルバートのその心配はもっともだ。
当然、兄として彼はアリアの安全を一番に考える。僕も魔道具やそれにまつわる魔術に関する話は大好きだが、アリアが倒れた時の絶望を思い出すと、彼女の幸せが一番だと断言できる。
しかしアカデミーの研究者達は、現代に魔術が蘇ったのであれば、それに興味を示さずにはいられないだろう。レイドナー教授に対しては叔父としての良心に期待したいが、これまで発掘された遺物や文献でしか知ることができなかった研究対象が目の前にあったら、その探究欲を抑えられないかもしれない…
「それはお前が教授らがアリアを酷く扱わないように注視しながら、アカデミーの力を借りるしかないじゃないかな。彼らの知識や知恵がないと、アリアに何が起きたのかの解明も不測の事態が起きた時の対処も難しいだろうと思うけど。
まあ、僕も自分の立場でできることを探してみるよ」
「お前はアリアに魔術が宿ったとして、興味は湧かないのか?」
「湧かないよ。魔術は好きだけど、アリアを被検体にするなんて、考えただけで寒気がする」
「そうか。それを聞いて、少し安心した」
そう言ったギルバートの固く不安そうな表情が少し緩んだ。が、すぐに眉間に皺を寄せて続けた。
「……なあ、アリアって、本当に息を吹き返したんだろうか」
「…そうだと思うけど……?」
ギルバートが何を言いたいのかわからなかった。
「アリアの体温が感じられなかったんだ。冷え切って、まるで………」
―――ああ、わかった。『死体』のように冷たかったが、その言葉を口にしたくないんだな。
僕はその機会がなかったからアリアには触れなかったが、かなりヒンヤリとしていたんだろう。
「僕は、アリアは息を吹き返したんだと思うよ。これも文献の記述だけど、水や風魔法の力を持つ魔術師は、普通の人間よりもだいぶ体温が低かったらしい。対して、火や土の魔術師は発熱したように体温が高かったようだ」
「アリアは水と風魔法に影響を受けているから、体温が低いと?」
「僕はそう思う。バートはアリアが別人だと思った?」
「いや、俺達のことはちゃんと覚えていたし、仕草もアリアそのものだった」
「そうだろう?瞳の色と体温が違っても、彼女はアリアだよ。だから、僕もお前と一緒に彼女を助けたいと思ってる」
「そうか…、……そうだな」
ギルバートの表情からはまだ不安が見て取れるが、少しは吹っ切れたようで、真っ直ぐに僕を見て笑顔を見せた。