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ー cerium side ー page02

「ぼ・・・らは、つ・・にいます。たす・て・・さい!」

 ノイズ混じりの音声だった。微かに男性だと分かる。自分の手の甲に溢れた涙が落ちてきて、ようやく泣いている事に気がついた。思い出せない悲しさなのか、心のどこかで惹かれる痛みなのか分からなかった。


「こち・・らは、月にの・・った、最後・・存者」


 見たくはなかった。聞きたくなかった。

 自分が壊れるからじゃない。

 自分が壊したものが何かを知るのが怖かった。

 でも、心がそれを許さない。


「ぼくのセ・・を!大切なカグヤをたす・・・け」


 私は両手で耳を塞ぎ、声を上げて泣いた。

 



 アダムがカプセルの傍でチェアでくつろぐ姿が映っていた。カプセルに向かって楽し気に喋りかけている。カプセル内の記録デバイスには既に録音は止められているようだと説明を受けた。


 映像を落ち着いて見れるようになったのは、初めて映像を観てパニック障害を起こしてから一月くらい経った頃だった。ドクターの付き添いが条件だったが、もう薬も必要ではなくなった。

 

 

 その映像は救出時に基地内のデータベースに保存されていた映像だ、と医師は言った。

 映像を見始めて記憶が刺激され、いくらか思い出せるようになってはいた。私はバクテリアの研究者で先任者の後を引き継いでいた事。自分がシェルター最後の世代の子供だった事。


 そして記憶を思い返そうとすると隣に黒い人の形をしたノイズがいること。

 おそらくアダムだ。

 肝心のアダムについては頑丈な扉で閉ざされているかのように、上手く思い出せない。ドクターは「思い出さない方がいいんじゃないかな」とだけ助言をもらう。

「君にとって大事なのは未来だしね」とも言った。


 たまにドクターの言葉に引っ掛かるように頭痛が走る。何かに触れた感覚だが怖くて先に進めない。このまま、そっとしておいた方がいいのか判断がつかない。それが最後の障壁だとわかっていた。それが全ての記憶に繋がっている。


 アダムが私の全てに触れていたのだ。


 再び、映像を注意深く見る。ノイズが走り、別の日の記録が映し出された。


 カプセルは紙で作った造花や紙のチェーンで彩られていた。アダムがロウソクを立てた小さなパンを持ってカメラに近づいてくる。そしてアダムは息を吹いて火を消した。

 映像を止めモニターに映った楽しそうにしている男に触れた。

「あなたは誰?」

 そしてモニターを抱いた。


 映像は何年もの間、撮られていた。カプセルに話しかける顔が悲しげだったその映像は遠くからのカメラで音声までは記録されていない。

「ドクター? 別のカメラの映像は?」

「それだけだよ」

「カプセルのモニターカメラがあったはず。マニュアルに書いてあったの。破損の時の為に音声とは別々になっているはずなの」

 ドクターは少し間を置いた。そしてデータベースにアクセスした。

「アーク、君の中に映像データは残っているかい?」

「ありません」

 ドクターはお手上げだ、と言わんばかりに肩を竦めた。

「替わってください」

「アーク、アドミニストレーターを移譲」

「了解……どうぞ」

 柔らかい女性の声は、どこか心が落ち着いた。

「映像カテゴリからセキュリティカテゴリへ」

「閲覧できるデータは十八万二千四百七十六件です」

「セキュリティカメラ」

「二万七千八百六十四件です」

「映像は?」

「ありません。先任者イリジウムによって削除されています」

「イリジウム?」

「天体観測員であり、****のパートナーです」

「え?なに?」

「そのワードは先任者イリジウムによって削除されています」

「イリジウム。アダムの本名ね」

 その名を出した途端に頭痛が走るが、無視をした。たぶん確信に近づいてきている。

「セキュリティシステムで保存してあるデータの種類」

「室内コンディション。酸素濃度データ。五種類の放射線検知データ。赤外線データ。振動検知」

「待って。赤外線データは、中? 外?」

「両方存在します」

「外側にアクセス」

「十万九千五百時間のデータがあります」

「さっき映像を止めた場所から対象がいなくなるまでを抽出」

「完了」

「赤外線の動きから現実のフェイスモーションを割り当てて、AIで映像に変換」

「完了」

「映して」

 長時間の閲覧に疲れているだろうから明日にしては、と勧められたが丁寧に断った。ドクターは諦めて椅子に座り腕を組んで一緒にモニターを見守った。




 映像に映った男性は最初の頃より年を経ていた。検知用のカメラのデータだけでは、本人とは似ても似つかないだろう。細部は分からないが髪も髭を剃ることもやめたらしくて、伸ばし放題だった。

 悲し気に微笑み、何かを喋っている。モニターに映る口を指先で触れる。

 ふと思いつき、その口が何を言っているのか確かめることにした。更にAIで時間を掛けて画像補正をし、基地内に読唇の心得がある人間に見てもらった。


「うん、大丈夫分かるよ・・・えっと、セ、セリム、ああ、君の名前はセリムなんだ! 驚いた、見落としていたよ! うん、続けるね。セリム、君が起きた時、僕を許してくれるかな、と言ってるみたい」





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