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その時私は鳥になっていた  作者: 日多喜 瑠璃
13/13

13 最終回

最終回を迎えました。

いろんな想いを詰め込んだ作品です。

あと少し、最後までよろしくお願いします!

「健太君、意識が戻りましたよ。」

 島田からそう連絡が届いた。杏美の目から、また止めどなく涙が溢れた。

 ―会いたい。夢の中じゃなくて、現実世界にいるトリケン…健太さんに。

 杏美の想いは高まる。

「島田さん、あず…私、鳥研に戻っても良いですか?」

「僕は鳥研ではありません。菊池さんに聞いてみますね。」

 電話の向こう、島田が話すその奥から、豪快に笑う濁声(だみごえ)が聞こえる。

「島田ぁ、お前も戻って来ぃや。」

「菊池さんの声、聞こえます。うふふっ!」



 杏美はバイクに跨り、再びあの尾根伝いの林道に行ってみた。

「あ!」

 少しドキドキした。

 そこには、谷底を見つめ、物思いに耽る健太が居た。

「今日は。山村健太さん…ですよね?」

 杏美は、健太が谷から救助された様子を話した。健太がまだ混乱状態から抜け出せていなかった様だ。

「思古淵さん? ええ、たぶんその人の本名は…」

 健太が飛鳥を助ける際に、声をかけた相手。夢の中の人物・思古淵。その仙人の様な男の名は…

 ―森山悠斗。

 彼もまた、罪を背負い、罰を受け、償いを果たしたのだろう。


 カッパと呼ばれた中学生の頃。

 カッパ伝説を聞くたび、悲しさ悔しさが込み上げた。

 やり場のない思いは、他人のウィークポイントを笑う事でしか癒すなど出来なかった。

 事件の後、行方をくらました彼は、言い伝えられるカッパの悪行を封じ込めるべく、いや、自らをカッパと罵り、その過去を精算すべく髭を伸ばし、嘴にも似たその口元を隠した。

 森山悠斗は、限界集落である大見に1人住まい、カッパの悪行を封じ込める事の出来る人物・思古淵を名乗った。

 そんな彼も、少し大人に近づいたある日、ふと絵本が目に止まった。

「ひらのあずみ…」

 自らが放った炎は、思わぬ形で燃え広がった。そんな記憶を辿り、いつしか、森山悠斗も夢の世界に引き込まれていった。

 


 秋。夏鳥が旅立ち、入れ代わりに冬鳥がやって来る。

 そんな時期が近付いた頃、杏美はまた森へとやって来た。

 杏美が現れるのを、ソワソワと落ち着かない様子で待っていたのは、他ならぬ健太だ。

「一つ訊いていい?」

「うん。」

「あずのプレートキーホルダー、何で健太さんが持ってたんですか?」

「あ、あぁ、ごめんね。自分のデスク作ろうと思って整頓してたら、引きちぎっちゃったみたいなんだ。慌ててポケットに入れちゃったんだと思う。謝らなきゃね。」

「ううん、いいの。見つかったから、それで。」

 健太が謝ろうとするのを、杏美は制止した。

 ―そのおかげで出会えたんやもん。


「じゃあ、あず。行こう!」

 杏美はコクリと頷き、お互い顔を見合わせて歩き出した。

「体力、大丈夫か?」

「お互い様。うふふ…転けても怒らんといてね。」

「はは…怒るよ! 怪我したら大変じゃん。」

 現実世界での2人の体力は…まぁ、何と言っていいのか。

「ハァハァ…ちょっと休もう。」

「もう休むの!? ハァハァ。」

 ―こんなに体力なかったっけかなぁ。


 天気予報はゆっくり下り坂だ。しかし、今日1日は持ちそうだと言う。

 八丁平。夢だと言うのなら実にリアルな記憶。そのままの景色が目の前に広がる。

 それについてはお互い何も語らないが、2人の夢は何故かシンクロしている。

 笑い合った。

 お互いが傷付き、泣いた。

 そんな夢の記憶を心の片隅に置いて、2人は強く優しく成長していた。

 体力は別にして。


 キョロロロロ――


「あず、聴こえる?」

「えっ!?」


 キョロロロロ――


「ほら。」


 キョロロロロ――


「アカショウビン!!」

「うん。居るよ!」

「どこ!?」

「騒いじゃダメだ。静かに、ゆっくり探そう。」


 2人は、そろりと足を運びながら、周囲を見渡した。

「あっ!」

「おおっ!!」

「居たね。」

「うん、居た。すげぇ!」

 青々と繁る森の中、鮮やかな朱色が目に入った。

 追い続けてきた美しい鳥が、今、その姿を見せた。

 健太は、ゆっくりレンズを向けて、シャッターを切った。

 その時、どこからともなく声が聞こえた気がする。


 見つけてくれてありがとう―。


 2人はそっと手を合わせて呟いた。

「来てくれてありがとう。」

 森が、穏やかさを取り戻した。そんな気分になった。



 杏美が自宅に帰ると、京子に連れられて日菜乃と由莉奈がやって来た。

 一緒にいるはずだった青春時代は、過去に置き去りにしてしまった。でも、本当にそうなのだろうか?

 結果として今がある。今からでも青春を謳歌する事は出来る。3人はそう言って、手を握り合った。

「住まいは少し離れてる。でも、私達はいつも一緒よ!」

「何かあったら、お互いがお互いを頼ったらいいねん。ね!」


 この不思議な夢…いや、異世界の体験は、人に話しても伝わらないだろう。だから―。

「ひな、ゆっぴ、今度は私、小説書いてみる。この体験を基にして。」

 難しいと思う。

 でも伝えたい。

 不思議な夢の記憶。その中にあったのは、人として人を愛する事、人として自然を愛でる事。そしてその先にある幸せの形。

 杏美はそんな夢の記憶を、得意の文にして伝えていきたいと言った。

 もちろん2人は、全力でサポートすると言った。

 長い年月を経て、再び出会った親友同士なのだから。


 そして、今回の一件でもう1人、忘れてはならない人。図らずも杏美のプレートキーホルダーを握りしめた事で、出会う運命を手にしたその人。

 その人への想いも、文字にしていきたい。

 そんな杏美の想いを聞いて、日菜乃は耳元でそっと囁いた。

「あずには、大切にすべき人が現れたんやね。鳥さんだけじゃなくて、人が」

 杏美は少し笑顔になって、コクリと頷いた。


「健太さん…」

 森の中で自身の心の膿を洗い出すため、杏美が無意識に心の中に描いたもう1人の自分、飛鳥。

 夢の中のその飛鳥という人物のために、自らの心を清め、自分自身を変えようとした人。

 その結果、現実世界において…

 いやその表現自体が間違っているだろう。人が生きる世界は現実でしかない。夢の中で呼吸を続けている生き物など存在しない。

 だからこの3次元の世界のみが、生命を営める世界。

 そんな世界の中で、生きとし生けるもののために強く優しく生まれ変わった、その人。


 山村健太。


 杏美はゆっくり空を見上げ、その名を呟いた。


     完

前作「赤い鳥、泣いた。」をスタートさせた当初から、杏美を主人公にしたスピンオフは考えていました。


奔放な飛鳥と引っ込み思案な杏美。

1人の女の子が、夢と現実で異なるキャラクターを持つ。

それは、作者である私の気質と重なるのかもしれません。

それゆえ、「赤い鳥…」に飛鳥を登場させた瞬間から、「描きたい」と感じていたのです。


飛鳥という女の子は、杏美の青春時代に置き忘れてきた姿。

そう設定する事で、人の心の、いえ、私自身の多面性を表現できたのではないかな?

これを読んでくださった皆様も、何か感じていただけたなら嬉しく思います。


最後まで読んでいただき、心より感謝致します。

ありがとうございました。

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