第8話 ワカトノ
「あんはん、はよきめよし」
「ん~~、どれもイマイチ」
「なんやて?」
「あ、なんでもないわい、金が足りんで堪忍な」
「ち!」
(舌打ちってこのころもあったのかよ)
投宿して3日め、貴丸は武家のボンボンに見える衣服や脇差しとか足拵えも揃えてもらい、町をうろついた。
お付きはアイヌ人の若者、タイシャ、和名は大二郎と名乗っている。
17歳なのでまだ髭もチョロリンパだ。
「・・・ワカトノ、あの店はダメダメ?」
「ああ、ダメダメだ、鍛冶師の腕がイマイチ、すぐにダメになる」
「ワカトノはどこでワカル?」
「鉄の色やで、あかんな、産地は遠いしな~」
「ほんまでっか」
「何か和言葉がビミョーやな~」
「へ?」
「なんでもないわい」
敦賀は越前の港町、織田信長と反目している朝倉の勢力範囲。
浅井の裏切りからの虎口をしのいで生き延びた信長は、一息ついたところだ。
戦渦が広がる中、鉄砲に必要な塩硝はどの武将も欲しがる戦略物資だ。
高嶋屋伝右衛門は震えあがった。
「こりゃ戦局を左右するで、恐ろしいわ」
「ほんまか?」
(こいつアホだし、しかたねえよな)
「今、公方様を支えているのは織田様やし、そこに売っておけばええねん」
「「そやな~」」
(高嶋屋も同類かよ)
「そやけど、他の武将に睨まれるで、あくまで秘密裏にやるべきや。
京におる織田様の部下は?」
「それやったら村井貞勝様やで、世話になっとるわ」
「繋ぎつけてや、値段次第じゃごっつう仕入れまっせ。
大陸には何百万石もの鉱山があるらしいわ」
「ほんまか」
「掘った土がそのまま売れるんやで、目の色変えるやろ」
「そやな~」
(本当に錬金術だよね、只の土塊が最終的には金に変わるもんな)
という具合で京所司代と交渉中だ。
今のうちに必要な道具類を集めるべく歩き回ってる。
「てか、ミチは遊びすぎやろかな~」
「そやね」
「あ、三吉、奇遇やね」
「わいも道具屋巡りやけどな、どこも不穏や」
「朝倉様と織田様が?」
「みんな逃げる準備しとるようや、録なもんないで」
「ほんなら思い切って織田様が支配しとる堺に行ってみる?」
「そやな、大将に言っておくわ」
「うん」
村山様から連絡があり、堺の今井宗久に会えとのことだった。