第4話 なんのため?
「坊、またなにかつくるんか?」
「うん、浜に打ち上がって乾いてる藻を焼いて灰を作るんだ」
「この前は海水から塩を作ってたな」
「うん」
(ワイは三吉、漁師の三男で奉公先の炭焼き親方や鍛冶親方にこき使われていたのに嫌気が差して家出、大将に拾われた。
あの海賊は朝鮮の奴らや、ほんまに命拾いしたわ。
アイヌ人はワイのことをイクルイと呼ぶ。
酒飲みの意味や。
坊の名前はオンネシ、尊いウンコの意味やて、プププ。
子供は5歳ぐらいまで本当の名前をつけない・・・
ちょっとしたことで死んでしまうからや。
ワイの子も丈夫に育って欲しいもんや。
坊はほんまに工夫が好きや、坊のことをオイナとかオイナカムイと言う。
アイヌに知恵を授けた英雄の生まれ変わりらしいわ。
そうかもしれん)
「確かに塩があれば数の子は塩漬けがいいわな~」
「そやけど、塩を作るのに薪や木炭を使ってたらなんぼあっても足りひん」
「褐炭があるよ」
「なんやそれ?」
「燃える土や、木炭みたいにすれば煙も少なくて、タールも採れる」
「なん?」
「あ、場所なら多分ってとこわかるから、ニセコの方だよ」
「うう~む、なんで知ってんだ?」
「え~と、なんか夢で見たような」
「オンネシ、そこは遠いのか?」
「え~と、1日がかり、探さないとだから3日?」
「5人ぐらいで行ってみるか」
「そやな~」
(アイヌ人の伝統衣装のアットゥシは樹皮繊維で作る。
繊維を柔らかくしたり脱色するのに温泉を利用しているからニセコの自然湧温泉へ羊蹄山の西回り東回りの道がある。
山道を1日がかりで登っても、温泉があるなら入りたい。
体や頭を洗う習慣があまりないみんなに変な顔をされるけど、ウンコの後は揉みほぐした樹皮の繊維やらで拭くとか清潔感が前世と違う。
子供の尻は汚いし、大人のふんどしにもウンコがついていて水洗いするぐらいだ。
石鹸を作るのに必要なのは、海藻灰と生石灰に塩と油、油はユㇰ(魚やエゾシカなど)から採れるが、たまに打ち上げられた鯨の脂からとれる鯨油がランプにも使えて使いやすい。
シャンプー用液体石鹸には海藻灰の代わりに木灰を使う。
前世は歴史マニアが高じて大学を選んだだけあってラノベで描かれた知識もよく調べていた。
石鹸は交易にも使えるからミチも喜ぶだろうな。
中学の時に札幌の歴史を調べて鉱山跡のだいたいの場所は覚えてた。
それにしてもオイナっていろいろ伝承があるんだ。
雷にも縁があるか。
・・・江戸時代にアイヌは奴隷のような搾取を受けるんだよな。
・・・ボクにそれを阻止させたいのかな。
・・・それだったら、アイヌが独立しなくちゃ。
・・・でも、戦国時代で鬼のような戦闘力の和人に勝てるわけ無い。
・・・鉄砲も伝来してるし。
・・・ハードだな~)
「また坊がボーッとしてる」
「そやな、そんな顔だと賢いとは思えんわ」
「アハハハ」
「う~」