第84話 傳九郎と貴志
「オイナ、湯加減はどう?」
「ちょうどいいよ、やっぱ、うちの風呂が最高だな~」
「ん」
(家族から帰りが遅いと散々言われた。
驚いたことに、息子が生まれていた。
出発してからヤイヌの具合が悪くなり、医者に診せたら妊娠ってさ・・・。
しゃあないやん。
もう3歳の息子から『アカポ』と言われ、2重に凹んだ。
ミチと言い聞かせたが、もう29歳、立派なおじさんだよ、トホホ)
(最初は、アイヌの運命を変えたくて織田信長を利用した。
物事の本質を見抜く本当に凄い人だと思う。
世の中を変えることにためらいがなかった。
告白して良かったと思う。
勘九郎も実に良い友人だ。
なにより、父親の傳二郎がオレを全肯定してくれた。
だから、ロシアのシベリア進出を阻止できたんだ。
あのときは、『本能寺の変』を天秤にかけたけどな。
実際の明智光秀は有能で良い人だった。
人は、いろいろな悪条件で運命を狂わされるのだろう。
もちろん、オレのせいで運命が変わった人も居る。
イェルマークだって、コサックの一員として懸命に生きていたんだろうな。
後悔はしていない。
名も知らない多くの人々を救えたと思う。
気がついたら、日本が世界の海を制覇してる。
科学技術も発達してる。
前世とは全く違う歴史になっちゃうか。
んんん?
前世の世界は一体どうなったのかな?
・・・まあ、考えてもしゃあないか・・・)
「オイナ・・・のぼせるわよ」
「あ、あう、うん・・・あぶね~」
あやうく、お風呂で寝溺れるところだった。
風呂から上がって、まったり、牛乳をゴクゴク飲んだ。
畜産実験場で飼育するジャージー乳牛は、イングランド王室からの贈り物。
アイヌ民国にもお裾分けがあった。
「ミチ、ダッコ」
「お、おう、よしよし、ん?飲むか?」
「うん・・・まいう~」
(こいつめ、目当てはこっちか・・・。
まあいいや、これから餌付けしてやる。
バターやチーズやホイップクリームも作っちゃうぞ。
畜産実験場の鶏から玉子、琉球やハワイから砂糖も入ってくる。
お菓子祭りだ・・・)
貴丸は、もう、いろいろ手を離れたと感じている。
日本皇国はこのまま上手くやっていくだろうと。
日本皇国憲法を高く評価している貴丸だった。
(結局さ、貴丸って名前で通したけど、幼名だよな。
変えようかな)
「ミチ?」
「あ、いやまあ、お前の名前もつけなきゃな」
「カッコいいの~」
「ああ、わかってるさ」
貴丸は安倍家の通字『傳』を継承して『傳九郎』と名を変え、息子に前世の名『貴志』をつけた。
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世界は貴志の前世とは全く違う歴史を辿っていった。
今世の安倍傳九郎は、自らは語らず、ひょうひょうと86年の天寿を全う。
天空に上った魂は、前世で失われたはずの何億何十億とも知れぬ魂に迎えられた。
もしかしたらそれらがオイナカムイを呼んだのかも知れない。
ただ、数々の伝説を残し・・・。
完
完結です。
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